魔法を教えてくれた黒猫


夜だった
何ものにも変え難い夜だった
コーヒーの苦味を耐え忍んで僕は
センチメンタルな気分に押し流されないように
強くカーテンを握りしめた
正しく生きるのは難しい
朝起きて、夜眠って、講義に出席し、
課題を出して、やることをやる
それだけのことが
僕にはどうも難しい
「こうあるべき」の理想と
「理想」に沿う正しさと
「普通」という正義の檻で
死を宣告された囚人のように
今日という日にしがみついている
明日は夢の中で
約束は昨日の彼方
もう何も見えない先のことなど
考えるだけ無駄だった
月明かりの中をクラゲが泳ぐ
僕には見える
優しい魔法が
けれど君の目には映らなかった
僕らが分かり合えない理由なんて
たったそれだけの違いでしかない
魔法を教えてくれた黒猫は
今はもう遠い闇の底のほうに
溶けて…消えて…
シュガーポットの砂糖のように
真っ白な空白になってしまった

ーfinー

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