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【子ども・大人】角度を変えて見てみたら|22年4月1回目|人形劇屋の工藤あみさん

中学生のハローワークは久しぶりのリアル開催!ゲストは人形劇屋の工藤あみさん。始まる前から、チラリと見えるスライドに、人形劇関係のグッズ。いわゆる“フツー“の職業とはちょっと違うかもしれない不思議な職業のお話に、中学生はもちろん大人も負けないくらい興味津々でスタートした。


「人形劇屋」って聞いて思い浮かぶもの

まずは、工藤さんから「人形劇屋って何だと思いますか」と質問があった。「屋」って言うくらいだから、人形劇を売っている?人形を作っている?想像力をフル稼働して答えてみるけど、はっきり回答するのが難しい。だって、聞いたことないもの。

モニョモニョとした返事に「どれもその通りです」と工藤さん。あ、そういう感じなんだ〜と、ほっこりした空気が流れる。正解がわからなくても、思ったことをなんとなく言葉にしてみるだけで拾ってもらえそうな、温かい雰囲気。

工藤さんはご夫婦で「たくたく堂」という人形劇屋をされていて、夫の“たく“さんが演じる人、妻の“あみ“さんが制作を担当。「制作」というのは、演者が芸能人だとしたらマネージャーみたいなものであり、演者とお客さんをつなぐ仕事なんだと工藤“あみ”さん。よく人形を作るの?って聞かれるけど、それは、たくたく堂の場合は、演者のたくさんの仕事なんだそう。ちょっとずつ、仕事の中身が見えてきた。

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人形劇屋の仕事

幼稚園や学校に児童館、子どもたちが集ういろいろな場所で人形劇をしてきた工藤さん。そこで、普段とは違う子どもの姿に出会う。大人しいと思っていた子が人形を通じて会話に参加できたり、男の人は苦手だった子が自分から“たく“さんと関わりにいってみたり。参加者が自分の人形を作って人形劇に参加できるワークショップでは、ある子が長時間人形作りに没頭している姿に、先生や保護者がびっくり!なぜ驚いていたのか聞いてみたら、普段は集中力が持続しなくて困っている子だった・・・なんてエピソードも。

いろんな写真を見せてくださったので、人形劇屋のイメージがどんどん膨らむ。それにしても、参加している子どもたちの表情がみんないきいきして楽しそう。見守る大人も自然な笑顔だ。工藤さんは、人形劇が刺激になって子どもの制作意欲が沸いたり、人形劇を介して初対面の子でも仲良くなれたりする場面を何度も見てきたんだそう。人形劇って子どもが楽しく観るだけじゃなく、そんな側面もあったのか!


教師になりたかったけど

そんな充実した仕事の話をしてくれた工藤さん。でも、本当は教師になりたかったんだ、とご自身の話もしてくださった。教師に憧れ、大学でも努力して頑張っていたけれど、教育実習先で、今の自分では自分が思い描く「いい」先生にはなれないと感じたんだそう。挫折の瞬間、とも言えるのかもしれない。やりたいこととできることとの乖離。

この辺りの心境は、大人だけでなく中学生にも共感できる部分がありそうだ。中学生ともなれば、幼い頃みたいに「将来はヒーローになりたい」なんて言わない。やりたいことが必ずしもできるとは限らないということくらい、もうよくわかっている。「ヒーローになりたい」の先の「困っている人を救いたい」に気がついて、「それなら自分に何ができるかな?」って考えれば、何か気がつくこともあるんだろうけど・・・。中学生たちはどこまで考えているんだろうか。成長は嬉しいけれど、表情や仕草からは読み取れなくなってしまったので、ちょっともどかしい私。


角度を変えて見てみたら

もう一つ、工藤さんの好きだったもの。それは、サークルの先輩が繰り出す、美しいかげ絵だった。先輩が卒業したら終わるだなんてもったいない!と、工藤さんもかげ絵を教わり、かげ絵に携わることに。そして、就職先もかげ絵で有名な「かかし座」に決まった。けれど、かかし座で演者としてやっていくには歌の上手さも必要で、工藤さんにはちょっとハードルが高め。それならばと角度を変えて見てみたら、劇団には「制作」という仕事もあった。歌わなくっても、かげ絵に携わり、人と人とを繋いで、劇団を支えていくことができる。

この「角度を変えてみる」を、大人も中学生も体験させてもらった。どうするかって、もちろん、かげ絵を使って。

「こうやって、こうして」と工藤さんに教わった通りに手を動かす私たち。でも、手の指だけ見ている段階では、頭の上には???が並ぶ。どう見ても、手だけどなあ。

それが、光を当てて角度を変えてみると、ホワイトボード上にウサギが現れた。そうか!自分の手だから、自分の視界でしか見ることができないけれど、角度によってはちゃんとウサギの形になっている。それをかげ絵に落とし込めば、手や指の凹凸が消えて平面になり、色も黒と白の2色だけになって、もうウサギにしか見えないというわけ。

こんなふうに、ちょっと角度を変えてみると違うものが見えてくることがある、と工藤さん。例えば、結婚して関西へ引っ越すことになったときには、関東を中心に活動しているかかし座の「関西支部」になることで、新しい仕事を開拓すればいい。じっと座っていられない子の前で人形劇をするならば、参加して動き回れる演目にしてしまえばいい。角度を変えると違うものが見えてくるのは、かげ絵に限ったことではない。


私だからこそできること

“たく“さんが独立したいと思ったタイミングで、工藤さんも同じことを考えていたんだそう。そこで、かかし座での仕事を卒業して、人形劇屋たくたく堂が始まった。いろんな角度から物事を見て、新しい道を見つけては、しなやかに新しい道を進んできた印象の工藤さん。たくたく堂が始まったのも、なんだか必然のような気がしてしまう。

「たくたく堂は、高級和菓子屋さんではなく、近所のたこ焼き屋さんのような親しみやすい人形劇屋。だからこそできることがある」と工藤さん。職人さんが時間をかけて作った布や木彫りの人形・・・ではなく、身近な材料で誰もが手軽に作れる人形を使うのも、たくたく堂ならでは。そして、変化を恐れず、どんどん新しい挑戦をしていく。

また「人形劇と何かをかけ算することで、新しいものが生まれる」と工藤さん。例えば、「教育×人形劇」で慣用句の授業。「教師になりたい」の先にあった夢を、教師ではない別の方法で叶えてしまった、と言えるだろう。さっき考えたことを少し思い出してみる。ヒーローになるのは手段でしかなくて、大切なのはその先なんだよね。

他にも「防災×人形劇」でスピーカーのメーカーと協力してみたり、「環境×人形劇」というのもあり。人形劇を絵本にしたり、自分で人形を作って遊べるキットを作ったり・・・コロナ禍であっても、柔軟なアイデアで乗り越えておられるようだった。


つながりの不思議

このかけ算の話、YouTuberの高田先生とダイジュ先生の話や、企画屋さんの話にも登場している。今進んでいるのが唯一の道ではなく新しい道が拓けていく、という話も、ハヤシヨーコさんや竹上さん、ゆうせんせーや藏丸先生の話にも登場していたなあ・・・。

中学生のハローワークをしてきて1年ほど、ゲスト同士の接点はないし、話の内容についてもこちらから指定することはないのに、なぜだかいつも何かが共通していて繋がっている。きっと、将来進む道を考えるときの大きな手がかりになる、ということなんだろう。

そんな壮大な話を、小さな手作り人形が教室の片隅でずっと見守ってくれていた。なんだかとても温かく、ほっこりした気持ちにさせてくれる。どんなに壮大な話も、身近にある小さなものから始まって、ずーっと繋がっていくものなのかもしれない。


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えりか先生。神戸シュタイナーハウスでは、子どもクラスを担当。 小学校・放課後等デイサービスを経て、現在は児童発達支援事業所で障害児支援にあたりつつ、神戸・京都において日曜クラスの先生としても活躍中。
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