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国際金融の仕組みを生物学で説明する試み

私たちの体の中には60兆個の細胞が住み、それが有機的な階層構造の元に1つの生命活動を行なっている。国際金融も同様であり、80億人の人々と5800万の会社が、有機的な階層構造の元に経済活動を営んでいる。

生命体において、「エネルギー」や「水分」「ナトリウム/カリウム」「pH」「温度」などのバランスを常に恒常状態にキープすることが至上命題であるように、国際金融における「ホメオスタシス」は「景気指標」「在庫」「労働、賃金」「物価」「家計」「住宅、設備」「金融、財政」「貿易、国際収支」などの項目に要求される。

これらのホメオスタシスを維持するために活躍するのが、まずは細胞同士の情報を伝達するためのホルモンであり、そのホルモンを統括する神経中枢である。金融においては、「投資資金」の流れがこれに該当する。ホルモンが、ある特定の部位に特化して情報を伝達するように、投資資金はある時期に経済空間の中の特定のセクターに集中して投入され、それらの資金の流れは常に銀行・機関投資家・トレーダーたちによってダイナミックに管理されている。そしてこれらの銀行を中央で統括するのが「中央銀行」である。

ホルモンの流れ全体は、脳の視床下部が分泌する複数の視床下部ホルモンが、正中隆起において下垂体を刺激して下垂体ホルモンの分泌を促すことによって活発になる。同様に、一国の経済においても、中央銀行が政策金利を引き下げることによって、商業銀行が貸出金利を引き下げ、各セクターにおける設備投資を活発化させる。

視床下部ホルモンには成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、オキシトシンなど複数の種類があるように、中央銀行は準備預金率の調整、政策金利の調整、公開市場操作などの複数の手段によって市場に働きかける。

人体を駆け巡るホルモンの中には、「イノベーション」を駆動する甲状腺ホルモン、「貯蓄」を促す女性ホルモン(エストロゲン)などたくさんの種類がある。ホルモンが進化の歴史を通して新たに開発されてきたように、中央銀行も常に新しい金融政策(日銀のゼロ金利など)を考案して実行する。

ホルモンの分泌が生命体の複数のホメオスタシス指標に影響を与えるように、経済における1つの指標の変動は他の複数の指標にカオス的な揺さぶりを与える。たとえば「甲状腺ホルモン」が「体温」を増加させるように、「イノベーションの増加」は期待インフレと労働市場の需要増加を引き起こして賃金上昇を招いたり、生産コスト上昇と供給チェーンのボトルネックなどの供給サイドを制約したり、消費者支出の増加と新精神・新サービスの需要などを増加させたりして、インフレを生み出すことに繋がる。

自己完結していた単細胞生物は、やがて専門機能を持った細胞の集合体としての多細胞生物に進化していく。経済学者リカードによれば、貿易は各国がそれぞれの生産性の高い分野に産業を「特化」することを促す。ただし、専門化が行き過ぎるとボリビアの天然ガス、コートジボワールのカカオのようなモノカルチャー経済に陥る。

多細胞生物は、細胞同士の情報の連絡手段であるホルモンを統括する神経系の発達の末に司令塔としての「脳」を生み出した。貿易は異なる貨幣同士の交換による利潤をもたらし、国際金融を発達させ、IMFやFRBのような国際金融機関を生み出した。今やパウエル議長の発言を世界中のトレーダー(金融神経細胞)たちが固唾を飲んで見つめる。

これらのアナロジーから、いくつかの重要な帰結が導かれる。

①行き過ぎたグローバリズムは経済活動における「浸透圧」を撹乱し、国家という枠組みの「細胞膜」を破壊する可能性がある

②財政問題の解決のためにカネをすりまくるMMT政策は、「視床下部ホルモンの過剰分泌」による致命的な「ナトリウムバランス」の喪失を通して「筋肉麻痺」を引き起こす可能性がある

③政府及び中央銀行を廃止した場合、我々の経済は「脳を持たない生物」に退化する可能性があるが、ホルモンと神経系の自律的な働きのみによっても更なる進歩を遂げる可能性は捨てきれない

④経済変動における「ノイズ」こそが実は重要
→20世紀末あたりに盛り上がっていたマーケットマイクロストラクチャー理論が仮定していた「ノイジートレーダー」の存在こそが実際にはトレーダーという「神経細胞」の根幹を担う部分であり、これを「ノイズ」と片付ける行為は、脳波を「ノイズ」として退けていた旧来の脳科学と同じ誤りを犯しているといえる。
→これらの「ノイズ」が我々の脳が常に予期し得ない変動に対してベイズ推定を行う力になっており、「金融脳」は、どんなスーパーコンピュータにも計算不可能な多変数・多次元の驚くほど複雑な時系列解析のためのベイズ推定にそのリソースを投入している。

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