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【イギリス留学体験記】KAPLANでの授業とその感想。

 KAPLANの授業は進度に合わせた十名程度の少人数のクラスで行われる。

 私は運よくProficiencyのクラスに潜り込めたので、世界各国から集った英語の上級者たちと交流を試みるチャンスを与えられた。

 クラスメートは出身地も滞在期間も人それぞれで、私のクラスにはスイス人、ロシア人、フランス人、スペイン人、日本人(私を含む)が二人ずつと、中国人が一人いた。スイス人の二人は発音・語彙含めてとてもネイティブレベルに近いように見受けられた。これには四つの言語を公用語とするスイスのお国柄も関係があるかもしれない。


 授業の内容は週によって様々に変わるようだが、私が来て一週間目はユーモアをテーマとした授業だった。

 まず、「笑い」を中心とする語彙を徹底的に叩き込まれた。「笑う」と表現するのに「LAUGH」や「SMILE」しか思い浮かばなかった私は、「CACKLE」や「GIGGLE」、「SNIGGER」や「LAUGH LIKE A BRAYING DONKEY」という様々な「生きた英語」の表現が存在することを知って衝撃を受けた。KAPLANのいいところは、これらの語彙をただ暗記させてペーパーテストをするのではなく、ペアでのディスカッションやロールプレイング、ゲーム形式のクイズを通して生徒が単語を実践レベルで用いられるように導いてくれるところだ。

 
 私はKAPLANでの学習を通して、自分の語彙がいかに貧困であるのかに気づいた。

 自分の心の中にある曖昧なニュアンスを表現しようとしても、陳腐でありきたりな語彙に頼らざるを得ないのだ。単語帳を使って覚えた語彙はあくまで外在的なものに過ぎず、実践を通して身につけたものしか「使える」語彙にはならないのだという事実を痛感した。


 授業の中で、「STAND UP COMEDY」という、欧米版の漫才の動画を見せてもらった。動画の中で登場したのはJACK WHITEHALLというイギリス人で、最近イギリスで注目を集めているコメディアンだと言う。最初は早口で意味不明であり、オチの部分もいまいち掴めなかったが、とにかく普段は厳しい顔をしているイギリス紳士達が破顔を禁じ得ず爆笑している姿が異常なほどに印象的だった。

 彼らの姿が頭から離れなくて、家に帰ってからもう一度彼の漫才を見た。字幕付きで見ると話の筋がわかり、くだらない話題を滑稽な熱意をもって語るWHITEHALLさんの姿に思わず吹き出してしまった。

 このとき初めて私は、イギリス人の心に触れたという確かな実感を得た。よくよく聞いてみると、笑いのセンス自体は日本のコメディアンと大して変わらない。ただしこれもコメディアンの種類によるようだ。もう少し政治的な話題や、デリケートな話題を平気で話のネタにする漫才師も動画に上がっていた。


 イギリスの本屋を訪れて一つ奇妙なコーナーを発見した。「HUMOUR」と書かれた一角である。ここには変な本ばかりが存在する。「シェイクスピア版スター・ウォーズ」、「ボリス・ジョンソン坊やの秘密の日記」、「キム・ジョンウンから学ぶ”心の平静”についての本」。

 よく見るとほとんどが政治家を皮肉ったものばかりだ。主に槍玉に上がっているのは、英首相ボリス・ジョンソン氏や米大統領ドナルド・トランプ氏、露大統領のプーチン氏、そして北朝鮮の金正恩首席。彼らを笑い飛ばすだけの胆力がどうやらイギリス人にはあるらしい。ただし政治家をここまで嘲笑の対象としていいのかどうかについては議論の余地がありそうだ。


 ユーモアは文化の中でも大きな割合を占める、いわば異文化理解における「必須教養」だ。KAPLANにおいてその一端に触れられたのは大きな収穫だった。

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