明晰夢

 映画が終わって視界がはっきりして、気付いてしまった。
 明晰夢、というらしい。君が教えてくれた。

「お腹空いた。どこか食べに行こう」
 映画館を出て、右手を握られた状態で、ショッピングモールの中をぶらぶら歩いている。ここは学校に近いから、誰かに見つかってしまうかもしれない。……見つかりたい、二人で歩いているところ。
「あ」
 君が声をあげて急に立ち止まる。勢いでこけそうになる。
「どうしたの?」
「ここ入ろう。オムライス、好きだろ」
 店のショーケースに並ぶ食品サンプルの中、デミグラスオムライスのところに「人気ナンバーワン」の文字。デミグラス派かケチャップ派かで揉めたことを思い出す。
 君は何の躊躇いも無く店に入って、店員に「二人」と人数を告げる。
 繋いだ右手が冷たい。

 君は私と映画に行ったりしないし、私の好きなものを覚えているはずがないし、何より、私と手を繋いだりなんてしない。

「最高だろうな、何でも自分の思う通りになるとかさ」
 君はそう言っていたけど、全然だった。
 夢ならば覚めてほしい。夢だから、覚めてほしい。これ以上君との距離を思い知らされるのはたまらない。何だか泣けてきた。もういい、もういいから。
 それでも覚めない。虚しい幸福な時間は続く。

「昨日、明晰夢見たよ」
「ああ、この前話してたやつ。どうだった? 空でも飛んだ?」
「君が出てきた」
「え、何で。そんなに俺のこと考えてんの」
 そうだよ。


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