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【パパ読書】③ トマス・モア『ユートピア』×育児 嘆くな、理想を描こう

ユートピア」って言葉があるじゃないですか。「どこにもない」とか「理想郷」と訳されますが、あれはギリシア語の「ウー(ない)」と「トポス(場所)」からトマス・モアがつくった造語なんですね。彼の本のタイトルがまさに『ユートピア』(1516年)です。

窃盗の罪で12000人が絞首刑

当時のイギリス社会を批判したものですが、直接の抗議としてだけ受け取られるのは意図したことと異なるので、架空の理想の島「ユートピア島」についての物語として書き上げました。ユートピア人は争いを好みません、あとムダな装飾も。快楽も、道徳的に生きる心の快楽を大切にしています。(ちなみに労働時間は1日6時間、それ以外の時間は芸術や科学の研究などに当てます。男女完全平等。私有財産なしで10年ごとに引っ越し。結婚相手を選ぶ際は、お互い裸になって体を見せ、すべてを知った上で互いにOKとなったら結婚へとすすむ…これはどうなんだ!?

当時のイギリスは問題が山積みでした。農民は当時盛んになった羊毛業に土地をとられ、「餓死するか、泥棒するか」の2択に追い込まれていました。ですから、泥棒がたくさん。では、国側はどうしたかというと、「窃盗罪は死刑」にしたんです(ヒャー)。ヘンリ8世の治世だけでも、絞首刑になった人は1万2000にのぼるといわれます。

モアは、国王の信任があつい「国側の人」です。しかも、大法官というものすごい重職に就いていました。そして、敬虔なカトリック信者でした。

そんなある意味で絶好調な時に不穏な雲がたちこめます。ヘンリ8世に離婚問題が起きます。王妃がいるにもかかわらず、かねて熱情を寄せていた女性と結婚することを考えるのです。ヘンリはモアに助言を求めます。しかし、王妃との結婚を認めたのは教皇です。信仰者の立場としては教皇をむげにできないし、かといって王の立場にもくみできない……モアは沈黙します。それは結局、王の意に背くことになってしまうのですが。

モアは大法官という華やかな地位を捨て、王のもとから去ります。王はまもなく再婚し、式に誘うが、モアは出席を拒否します。

しかし、ここから王の復讐が始まり、要は、いちゃもんを突きつけられ、モアは幽閉されます(ざけんな!)。15カ月後、見るかげもなくやつれた(と解説にありましたが)モアは断頭台で首を切られ、処刑されてしまいました

助言の求めに対して黙していた頃、テムズ河畔を散歩しながらモアは女婿に言ったそうです。

「3つの希望さえ叶えば、自分は袋に入れられて、この河に沈められてもいい」

1つは、世界の平和。2つは、宗教の統一。最後の3つは、ヘンリの結婚問題の解決、でした。

いちずな男です。泣くわ。この人の生き様にも心奪われました。訳者の平井正穂氏は「モアほど思想と人格とが、もしくは思想と体験とが、ぴったりと融けあった人間も珍しい」(解説、p195)と書いていました。

「人間は生きているだけで複業状態」をスタンダードに

ここから急に育児の話題にうつります(笑)。

育休をとって価値観が変わったというサイボウズの青野社長は「人間は生きているだけで複業状態にある」と言っています。会社の仕事だけが仕事ではない。家事や育児も、人が生きていく上で大切な仕事である、ということだと思います。だから育児をする社員に優しい。サイボウズは「100人いれば100通りの働き方がある」と多様性を認める企業風土なんです。

この感覚が日本社会のスタンダードになれば、どれほど豊かな社会になることか。道程は長そうです。光は見えるか? まさにユートピアです。古典を読んでて最近思うのは、時代の状況的にしょうがないのかもしれませんが、基本、男性目線から書かれた本ばかりです。個人的には、女性(母親)目線、子ども目線の『ユートピア2.0』も読んでみたい。

と、他を期待してばかりいても、いけないのかもしれません。育児にどっぷり時間を割き、その重要性を肌感覚で分かっている父親として、きっと母親と子どもの気持ちを代弁しつつ、自分にしか書けないことがあるのでしょうから。『ユートピア』の最後の部分を読んでいて、ふと、そんなことを考えました。

「殆んど、昼間は家を外にして他人の間でくらし、残りの時間は家に帰って家の者と一緒にくらすわけです。そういうわけで、自分自身に、つまり自分の本に時間をかけるということが全然ないのです」「私は睡眠と食事の時間からひそかに掠(かす)めることの出来る時間だけを、自分のものとすることが出来る、というわけなのです」「随分永くかかりましたが、最後には『ユートピア』を仕上げることが出来ました」(『ユートピア』p185 「トマス・モアよりピータ・ジャイルズへの手紙」より)

今回は、子どもがご飯を食べ終わり、録画したクレヨンしんちゃんを見ている隙に書き終えました。よし、風呂だ。またねー。

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