見出し画像

コンパウンドスタートアップを目指すためのエンジニア組織戦略 Vol.2

こんにちは、Startup Tech Live事務局です。「エンジニア組織のグロースに必要な知見の流通」をテーマに様々なイベントを開催しております。
こちらは2024年5月15日に開催したイベント「コンパウンドスタートアップを目指すためのエンジニア組織戦略」のイベントレポートになります。
今回はモデレータとして株式会社レクター広木さん、スピーカーとして、LayerX小賀さん・ナレッジワーク 木村さん・estie 岩成さんに登壇いただきました。是非ご覧ください。
各社の現状や組織について詳しくはVol. 1で公開しています。


コンパウンド戦略を目指す際のプロダクトや組織デザインへの影響


広木さん)各社がコンパウンド戦略を目指す中で、プロダクトや組織デザインにどのような影響があったのか。
1プロダクトを中心としたスタイルから、コンパウンド戦略へと移行した際に、コンパウンド戦略を選択した上でのプロダクトや組織デザインへ実際にどのような変化が生じましたか?

木村さん)現時点だと、そこまでコンパウンド戦略ならではの影響はあまりないかと考えています。

先のことを見据えながらオーバーエンジニアリングに設計するのは、スピードとのトレードオフになると思います。現在、ナレッジワークでは、大きなモノリスとして開発を始め、1つの領域から作り始めています。
今は、くっついてしまった部分を分解する作業を行っていますが、これは昔からある切り出し戦略であり、特に変わったことではないですかね。

組織デザインについても、以前はスキル毎の組織でしたが、チームトポロジーにもあるように、Stream aligned teamのような認知負荷を下げる方向に移行しています。
また、認知負荷を下げるためのイネーブリングやプラットフォーム、ミドルウェアなどを整備していくことも、そこまで新しいアプローチではないと思うのでコンパウンド戦略ならではの大きな影響は現時点では少ないですかね。

広木さん)一定の大規模組織であれば珍しくないと思いつつも、ナレッジワークさんのような全体で100名程度の組織だと結構チャレンジングなことかなと思ったのですが、どうでしょうか。

木村さん)そうですね。ただやっぱり2手3手先も見たときに、明らかにチームの規模がボトルネックになるであろうということがわかりましたし、幸いなことに今回調達もでき「採用強化して組織としてしっかり取り組もう。理想系の組織デザインにしていこう。」と意思決定することができたので良かったですね。
今はまさにその方向に近づけるために舵を切ったタイミングです。

広木さん)ありがとうございます。LayerXさんはどうですか?

小賀さん)複数のプロダクトチームがある場合、1つ目や2つ目のプロダクトを開発する際には、あまりコンパウンド戦略のことを意識しないと思います。
まずは、PMFを達成するために集中し、3つ目のプロダクトあたりから、コンパウンド戦略を考え始めることが多いのではと考えています。

ただし、1つ目のプロダクトを作る際から、コンパウンド戦略というものを知っていることは大切だと思っています。
弊社のチームでは、Team Topologiesの考え方に共感する人が多かったので、いずれこの考え方が必要になることは理解していました。
しかし、あまりに早くから意識しすぎることは良くないと考え、1つ目と2つ目のプロダクトでは、しっかりと集中して開発に取り組みました。3つ目のプロダクトあたりから、コンパウンド戦略を意識し始めましたね。

また、プロダクト横断チームやイネーブリングチーム、プラットフォームチームに早めに人員を投入しすぎると、メンバーが暇になってしまいオーバーエンジニアリングを引き起こす可能性があります。
そのため、イネーブリングチームやプラットフォームチームのメンバーが、初期段階ではプロダクトのコードも積極的に書くようにしました。
プロダクトのこともよく理解しているメンバーが、徐々にイネーブリングやプラットフォームの領域に比重を移していくことで、うまくコンパウンド戦略を進めることができた1つのポイントだと思います。

広木さん)1つのプロダクトをリードできる人材を見つけるのは、かなり難しいことだと思います。
そのような人材を複数のプロダクトに配置しようとすると、必要な人材の数が足りなくなるのではないかと思います。この点について、どのように対応されているのでしょうか?

小賀さん)おそらく、各社に共通することだと思いますが、コンパウンド戦略を実行するためには、新規プロダクトを立ち上げていくことが不可欠であり、その際には既存チームから新規プロダクトに人材を異動させるというのは、歯を食いしばってでも実現していかなければならないことだと思います。
これは、ロジックというよりは、組織のカルチャーを作り上げていく必要があると考えています。

もちろん、組織構造や技術力も重要ですが、組織カルチャーを醸成することが不可欠です。コンパウンド戦略を目指すと決めたときにそうなるものであるというカルチャーを作ることが大事です。

現場では「忙しいのに、また新規プロダクトを立ち上げるのか」という声が上がると思いますが、「我々はこういう考え方でやっているし、こういうカルチャーなのだ」と言って、進めていくことが重要だと思います。
つまり、コンパウンド戦略を実行するためには、カルチャーの醸成も重要なポイントだと思います。

広木さん)最初からそういうカルチャーがあるのはすごいですね。新しいプロダクトにアサインされたら、できるんだ!という意識で取り組もうという雰囲気があることはいいですね。
estieさんの場合はどうでしょうか。実際に9個ものプロダクトを作られ、これからもさらに増えていくとのことですが、その過程で変化があった点などはありましたか。

岩成さん)プロダクトが増える過程でいうと、プロジェクトがどのように生まれ、育っていくのかを整理したことが大きい変化です。

私が入社した時点ですでに複数のプロダクトが存在していたので、新しいものを作っていくという文化は根付いていました。「A or B」ではなく、「A & B、もっというとCも」というある意味欲張りな意思決定で進めてきました。

しかし、点を作りながら、2つのプロダクトがどのように繋がっていくのか(線)、どのような枠組みが必要なのか(面)が明確になってきました。
そこから、目指すパーパスを実現するために必要なプラットフォームや組織を逆算して設計できるようになったこと、プロダクト全体の整理ができたことは1つの大きな変化だと考えています。

プロダクト群を分析すると、共通するテーマやコンポーネントが見えてきます。そことパーパスから逆算して、最適な組織体制を構築しているのが最近の取り組みです。
ただ、実際に現場で作業をしていると、当初の想定とは違う部分も出てくるため、全体像と現場の状況をすり合わせながら進めています。

広木さん)ありがとうございます。
複数のプロダクトを開発し、それらの相乗効果を目指す場合、各プロダクトごとに撤退ラインを設定する必要があると思うのですが、どう設定していますか?
(例えば、どの程度の期間や金額を目安にして、このプロダクトは継続するのか、あるいは方向転換(ピボット)するのかを判断するのか)

岩成さん)繰り返しになるかもしれませんが、コンパウンド戦略はあくまでも手段だと考えています。私たちの目的は、「産業の真価を、さらに拓く。」というパーパスを実現することです。
そのためには、私たちが描いているWhole Product構想の実現が必要不可欠であり、ここが普通のコンパウンド戦略とは違う点かもしれません。

構想の実現のためにはすべてを作り上げていかなければなりません。
言い換えれば、一つも落とすことのできない戦いをしています。
そのため各プロダクトについて、いつ開発しないと間に合わないのかという点を判断基準として投資の意思決定を行っています。

撤退基準を設定するのは確かに難しい問題ですよね。もしかしたら、あと数ヶ月頑張ればうまくいくかもしれないと考えてしまうこともあるでしょう。弊社の場合は事業部制をとり、プロダクトに直接関わっているメンバーと、客観的な立場から評価できるメンバーを分けることで、撤退の判断がしやすくなるのではないかと考えており、最近始めていることの一つですね。

広木さん)全体構想から逆算して、どういったプロダクトを作るかをすでに決めているので、撤退するというよりは、「この領域では何らかの形で勝たなければならない」という考え方ですね。
つまり、個々のプロダクトは方向転換(ピボット)するかもしれないが、全体としてはその領域には継続して投資していく姿勢があるということですね。

岩成さん)そうですね。投資の判断において、現時点ではこのプロダクトではなく、別のプロダクトを優先するという選択をすることがあります。
ただし、やめるのではなくいつかは再び取り組むことになるだろうと考えながら、優先順位を分けているような状況です。

広木さん)LayerXさんはどうでしょうか。

小賀さん)estieさんと似ていると思います。コンパウンド戦略を進めていく上で、完全な撤退というのはあまりないと思います。
全く別の事業を立ち上げた場合は事業撤退ということもあり得ますが、例えば私たちの「バクラクシリーズ」のように、複数のプロダクトがお客様に利用され、滑らかに連携している状況では、撤退という選択肢はないですね。

ただし、各プロダクトの優先順位は大きく変化することがあると思います。これまでは、どのプロダクトも順調に成長していましたが、今後は「このプロダクトは3ヶ月間、一切機能リリースを行わない」といった判断も出てくる可能性があります。
そのような状況でも、既存のプロダクトは維持・メンテナンスしなければならないので、その際にどのような体制で対応していくのが最適なのかということは、これからの課題だと認識しています。

広木さん)プロダクトの一部のファンクションやオプションを個別に提供できるため、既存のプロセスにも繋げることができるので「ある」事自体はマイナスにならないけどメンテナンスモードに入る可能性はあるということですね。
ナレッジワークさんの場合は、まさにこれからプロダクトを展開していく段階だと思います。
撤退や優先順位の変更に関する基準などはお考えでしょうか。

木村さん)私たちも完全な撤退というのはないのではないかと考えています。
実は、つい最近ロードマップの入れ替えを行ったばかりです。
やはり、選択と集中、つまり優先順位の変更は、定期的に行っていく必要があると思います。
市場の状況やお客様のニーズ、プロダクトの使われ方などは常に変化しているので、それに合わせて優先順位を見直すことが重要です。
最近行ったのは、ロードマップの変更と、各プロダクトへのリソース配分の調整です。
これらは、もう既に実施している取り組みでもあります。

広木さん)各プロダクトへのリソース配分の濃淡を調整することで、適用を進めていらっしゃるんですね。
全体的な方向性としては、先ほどestieさんが仰っていたようなWhole Product View(プロダクト全体のビジョン)があり、それを全体で共有しつつ、個々のプロダクトへのリソース配分の濃淡を変えていくことで、戦略を反映させているということだと思います。

先ほどのお話にあったように、プロダクトがモノリスな状態から分割され、理想的な形に移行していくというお話がありました。
そこで、プラットフォームエンジニアリングなども含めて、コンパウンドスタートアップとしての理想形に到達するまでには、どのくらいの期間を想定されているのでしょうか。

木村さん)私たちは3年後までに10個のプロダクトをリリースするというコミットメントをしているので、そこから逆算して現在、組織計画や人員計画を練っています。
となると、少なくとも今年末までには、ある程度の雛形ができている必要があると考えています。そこから、プロダクトの拡大に応じて、その雛形をベースに組織や人員を増やしていくことになると思います。

採用・組織構築へのメリットや課題点

広木さん)次のテーマにいきましょう。このコンパウンド戦略の推進において採用におけるメリットや課題はありますか。

小賀さん)コンパウンドスタートアップのメリットとして、新規プロダクトの立ち上げが頻繁に行われています。
例えばバクラクという事業体に所属していれば、既存プロダクトのグロースフェーズにも関われますし、新規プロジェクトの立ち上げやプラットフォームエンジニアリングにも携わることができます。
つまり、様々なキャリアの可能性があるということが一つの利点だと考えています。

一方で、課題として、最初は「法人カード事業が面白そうだから、そのチームに入りたい」という希望を持って入社頂いた方に対して、「2ヶ月後に別のチームへ異動してほしい」とお願いすることもあります。
コンパウンド全体として入社していただく形になるため、具体的な業務内容よりも、バクラクというコンパウンドに参加してもらうという大きな枠組みでの入社となります。
この点が、難しさの一つになっているかもしれません。
今のところそれで辞退されることはないですが、過去の経験からこういったプロダクトに関わりたいという希望をいただくことはありますね。

この領域でやりたいと希望をいただくことはもちろん嬉しいのですが、広く考えてほしいというふうに伝えるようにはしています。

広木さん)estieの岩成さんいかがでしょう。

岩成さん)私たちのパーパスである「産業の真価を、さらに拓く。」は、抽象度が高く、様々な可能性を秘めています。
そのため多くの機会があることは、やはり採用において魅力的なポイントになっていると思います。

事業部単位でリーダーシップを発揮することも可能ですし、不動産と一言で言ってもオフィスではなくて物流というようにアセットが異なると必要となる考え方も異なるので、それぞれ深く学びたいという人にも面白いと思います。
もともと不動産業界に興味がなかった人でも、話を聞いてみると、テクノロジーを活用できる面白さに気づいてくださるので、そういった点では色々な可能性を追求することも、1つを深ぼることもできるのは良いことだと感じています。

一方で、難しさとしては事業部単位でボードメンバー(事業部CTO)をお願いすることがあるのですが、例えば「事業部CTOって、CTOがいるのに何をするんですか?」といった質問を受けることがあり、全体の中で小さく見えてしまうことがあるのは難しい点ですね。
One of Themみたいに見えてしまうのは、私たちが伝えたいことと全くことなります。
1つの事業部レベルでも売上1000億円規模に成長する可能性が十分にあり、これは1つのスタートアップとも捉えられるような規模です。
このようなビジョンを正しく伝えることが、採用において非常に重要だと考えています。

広木さん)なるほど。不動産業界も含めた産業全体のDXがスコープになり、大きい話を最初から見せているからこそ、今やってるところ自体が卑近だと感じ取られてしまうとギャップが出てしまうということですね。

岩成さん)そうですね。事業部の取り組みが小さく見えてしまうことがあるかもしれませんが、実際には様々なことにチャレンジして、それぞれの事業部を大きく成長させていくために複数事業部が協力する形を進めていきたいと考えています。
そういった想いがもっと伝わるようになればいいなと思っているところです。

広木さん)ナレッジワーク木村さんは、採用のメリットと、逆に課題点についてどうお考えでしょうか。

木村さん)単一のプロダクトで同じことを繰り返していると飽きてしまい、退職につながるケースも多いと思います。それに対して、コンパウンドスタートアップでは、継続的に新しいチャレンジができる環境を提供できるので、人材のリテンションという点でもメリットはあると思います。

一方で、課題としては、チームが複数に分かれ、数が増えていくことで、チームのサイロ化が起こりやすくなるため対策を講じていく必要がありますね。
あとは、単純にチームが増えると、マネージャーの数も増やさなければならず、マネージャーが不足する問題に直面します。
これは非常に顕著になるため、今後どのように対処していくかを考える必要があります。

私たちは「イネーブルメント」を標榜しているので、社内のエンジニアに対しても良い「イネーブルメント」を提供していく必要があります。
例えば、新卒社員を育成していくことも並行して取り組まなければ、どこかで壁にぶつかってしまうのではないかと考えています。
これらの点が、現在の課題だと考えています。

広木さん)なるほど、ありがとうございます。確かに、プロダクトの数が増えるとマネージャーも同じように必要になりますよね。
もう少し踏み込んでお聞きしたいのですが、1つのプロダクトにかける人員の数は、これまでのプロダクト戦略の場合と比べて減っていくのでしょうか?それとも、これまでと同じくらいの人数を各プロダクトに割り当てていく方針なのでしょうか?

木村さん)現状では1つのチームが6-8人程度で構成されています。
チーム内にはバックエンドエンジニア、フロントエンドエンジニア、QAエンジニアなどが在籍し、ストリームアラインドチームの形態をとっています。基本的には、1プロダクトに対して1チームを割り当てるという定義をしています。
ただし、主力であるプロダクトにはしっかりとリソースを投入する必要があります。
そのため、1つのプロダクトをさらに分解し、そこに2、3のチームを配置するという戦略を現在とっています。

広木さん)なるほど。事業の重要度や負荷に応じて、チームを分けていくということですね。
事業領域が広がり、様々なドメインを対象とするようになると、チーム間の異動に関連して、より広範なドメイン知識を素早くキャッチアップし、プロダクトを開発していく必要が出てくると思います。
ドメイン知識を学ぶという観点で、エンジニアに求められるスキルや資質に変化が生じるのでしょうか?

小賀さん)前提としてセールスやマーケティングの担当者は本当に大変な仕事をしています。
特にWhole Productで販売する際は、一つひとつのプロダクトについて詳しい専門家と協力しながら、営業活動を行う必要があるため非常に難しい役割を担っています。
そのため、お客様に直接プロダクトを届けるセールス、マーケティング、カスタマーサクセスのチームは、トレーニング用の資料を作成しています。

プロダクト開発側の人間も、その資料を活用して学習したり、商談の動画を一緒に見たり、実務研修に参加したりすることで、ドメイン知識を身につけています。

私たちは、「ディストリビューション」と呼んでいるのですが、セールス、マーケティング、カスタマーサクセスのチームが作成した資料を、プロダクト開発チームのメンバーも積極的に活用し、学習していく体制を現在とっています。

広木さん)なるほど全社を通じて学んでいく仕組みをうまく作るためにトライされているんですね。皆さん、本日はありがとうございました。

インタビュー(CTO・CPO)

イベントレポート



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?