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コンパウンドスタートアップを目指すためのエンジニア組織戦略 Vol.1

こんにちは、Startup Tech Live事務局です。「エンジニア組織のグロースに必要な知見の流通」をテーマに様々なイベントを開催しております。
こちらは2024年5月15日に開催したイベント「コンパウンドスタートアップを目指すためのエンジニア組織戦略」のイベントレポートになります。
今回はモデレータとして株式会社レクター広木さん、スピーカーとして、LayerX小賀さん・ナレッジワーク 木村さん・estie 岩成さんに登壇いただきました。是非ご覧ください。

パネルディスカッションはVol.2で公開しております

スピーカー



モデレータ


コンパウンドスタートアップとは

広木さん)コンパウンドスタートアップとは、共通のデータ構造やデータを背景に、複数のプロダクトを同時多発的に開発し、データ連携そのものがプロダクトの価値になるアプローチをしていく、複合的・福利的なスタートアップという意味です。
コンパウンド戦略では単一の専門的なツールだけでなく、連携性の高いサービスを顧客に対して一貫したユーザーエクスペリエンスで提供していくことができます。
ただし、この戦略はスタートアップにとっては技術的・組織的な困難を伴う場合があります。

過去、ERPを各企業が自社用にカスタマイズしていた時代がありました。その後、ERPの一部機能/業務領域を切り出して、専門的なSaaSツールを開発し、一点突破で事業展開していく時代がここ10-15年ありました。
この時期をRipplingのConrad氏は「アンバンドルの時代」と呼んでいます。

そして、今後は複数のソリューションを統合してリバンドルしていく時代にもう一度戻るであろう。
ただし以前のような単一の大規模ERPではなく、複数のデータを中心とした複合プロダクトで事業展開していく「リバンドルの時代」が来るのではないかと予見しています。
このように単一サービスだけでなく、データや組織の強みを生かして早い段階からプロダクトの多角化を目指す「コンパウンドスタートアップ」が注目を集めています。今回は、そのような取り組みに挑戦している3社と話をしていきます。

ここからは今回登壇する3社の組織や事業変遷についてお伝えしていきます。パネルディスカッションはVol.2で公開しております!

LayerXについて

小賀さん)LayerXは、「すべての経済活動を、デジタル化する。」というミッションのもと、法人支出管理サービスを提供するバクラク事業、Fintech事業、AI・LLM事業などを展開しています。

今回は、バクラク事業にフォーカスしてお話しします。
バクラクシリーズは、累計導入社数が1万社を超え、2021年1月の「バクラク請求書」のリリース以降、3年間で6つ以上のサービスを次々と展開してきました。
まさにコンパウンド戦略を実践してきたといえるでしょう。

バクラクシリーズの各サービスは、業務の連携を意識して開発されています。(単独での利用も可)
例えば、経理業務では、請求書処理やワークフローなどの複数のプロダクトを統一して使用することで、業務の流れがよりスムーズになり、工数を大幅に削減できます。
コンパウンド戦略の目的は、単にサービスの数を増やすことではなく、シンプルなソリューションを連携させることで業務の効率化を実現することだと考えています。

データの接合点を押さえ、業務を深掘りすることが重要だと考えています。例えば、請求書や経費清算、法人カードのデータを集約・活用することで、様々な可能性が生まれます。
さらに、AIを活用した業務のリデザインにも取り組み、業務そのものをなくすことも目指しています。

コンパウンド戦略を実践する中で、組織構成も変化してきました。
バクラク事業部では、各プロダクトごとにチームが存在し、プロダクトマネージャー、プロダクトデザイナー、ソフトウェアエンジニア、QAエンジニアなどが所属しています。
これらのチームを「プロダクトチーム」と呼んでいます。

一方で、システムの複雑化やチームの拡大に伴う認知負荷を下げるために「プロダクト横断チーム」を設置しています。
Team Topologiesの本にもあるように、ストリームアラインドチームの認知負荷をいかにして下げるかといったことに対して意識した組織構築をしています。
DevOpsやイネーブリング、プラットフォーム、機械学習、データ基盤などの機能を横断で担当するチームです。
また、組織の拡大に伴うチーム間の連携の難しさに対処するため、「組織貢献チーム」もVPoE直下に設置しています。
各チームには責任者が配置され、CTO経験者が多数在籍して、VPやチームの責任者を務めています。

我々のチームは、お客様の生の声を非常に大事にし、あるべき姿から逆算した開発を行っています。
また、オーナーシップを持って背中を預け合う開発スタイルを重視しています。
とはいえ、組織の拡大に伴い、一人ひとりがオーナーシップを持ち続けるということが難しくなるので組織内で改善していくことが重要です。
強いオーナーシップを持ちながら組織を拡大していくことが、コンパウンド戦略の難しさであり、重要なポイントだと考えています。
弊社の場合は以下のような会議体を設けて改善していますね。

ナレッジワークについて

木村さん)ナレッジワークの会社とプロダクトについてご紹介します。
私たちは、『できる喜びが巡る日々を届ける』というミッションのもと、仕事を通じて成長や成果を実感し、希望を持って働くことができる世界を目指しています。
しかし現実には、様々な理由で努力が報われない状況も多く見られます。
私たちは、「イネーブルメント」(成果能力の向上)を実現するプロダクトを提供することで、この課題に取り組んでいます。

Enablementは、「やるべきことの明確化(Must)」と「できることの最大化(Can)」の掛け合わせによって達成できると考えています。
私たちは、ナレッジ領域、ワーク領域、ラーニング領域、ピープル領域の4つの領域を定義し、それぞれにプロダクトを開発することでイネーブルメントを実現したいと考えています。

営業に関わる労働人口が多く、影響力が大きいことに加え、日本企業の営業生産性の低さ、営業職の満足度も高くないという課題があるため、セールスイネーブルメントクラウド「ナレッジワーク 」というプロダクトから展開しています。

現在は営業職向けのナレッジ領域に注力しており、今後はワーク領域、ラーニング領域、ピープル領域への展開と、他の職種への展開という双方向でマルチプロダクト戦略を進めていきます。
2024年から2026年の3年間で10個の新プロダクトを開発することにコミットメントしています。

マルチプロダクト戦略における要素として、顧客ターゲティング、開発プロセスの効率化、一貫性のあるUI/UX、データ連携の4つを定義しています。
これらを通じて、マーケティングコストや開発コストの低減、ユーザビリティの向上といったコンパウンド効果を得ることを目指しています。

一方で、マルチプロダクト戦略を進める上でのエンジニアリングの課題として、デリバリー速度の向上、品質・信頼性・セキュリティの担保、スケーラブルで自立的な組織作り、データの利活用などが挙げられます。
スライドにあるようにオンゴーイングで進めていること、今後の課題を洗い出し、ステップを踏んでいる最中です。

現在オンゴーイング中の1つの取組みとしては、プロダクトの分割を進めています。
元々1つの大きなモノリスにオプションのような形でモノリスを追加してきたこともあり、今後マルチプロダクト戦略を進めるにあたって身動きが取りにくくなっています。
モノリスのモジュラー化や設計の見直しを行っています。

また組織においても体制変更を行いました。従来はスキル型組織でしたが、ドメイン知識が重要になってくることや、認知負荷を下げることを考えドメイン型組織へ移行し、スケーラブルで自律的な開発体制を整えています。

私たちのプロダクトはまだ大きなモノリスの段階ですが、これからコンパウンド戦略を通じてプロダクトを増やし、エンジニアリングやプロダクトのコンパウンド効果を生み出していくことが、まさにこれからの課題です。

estieについて

岩成さん)estieは、土地の有効利用のための意思決定をデータによって支える不動産テック企業です。
現在は、オフィスや物流施設等、その施設を最も有効に活用してくれる企業様同士のマッチングを通じて、生まれる価値を最大化することに取り組んでいます。

今後10年で目指していることは、データドリブンな手法で土地の価値を高めていくことです。
適切なアセットが街に配置されているかを判断し、土地の価値を上げることで、国や経済に貢献するだけでなく、海外からの投資も呼び込めると考えています。
このような取り組みを通じて、「産業の真価を、さらに拓く。」というパーパスの実現を目指しています。
不動産テックという言葉を使っていますが、アセットを最も有効に活用してくれるのは不動産業界だけではありません。
IT企業や金融、保険など様々な業界の生産性に寄与する場所を提供するためのマッチングが重要だと考えています。

estieは創業当初からコンパウンド戦略を目指していたわけではありません。自分が参画した2020年の時点ではMVVも未定義で、目の前のことを必死にやっている状態でした。
2つのプロダクトはありましたが、コンパウンド戦略を目指すために存在していたわけではありません。
シリーズAの資金調達のタイミングで、代表の平井がマルチプロダクト戦略という言葉を提唱し、パーパス実現のためには複数のプロダクトが必要だと感じ始めました。

ただプロダクトを増やすのではなく、不動産業界にはどのような業務があり、どのようなプロダクトを作るべきかをWhole Product構想として整理しました。
この中で、estie独自の不動産基盤データやミドルウェアがコアデータとミドルウェア基盤として位置づけられ、コンパウンド戦略の一部となっています。

estieの経験から学んだことは、コンパウンド戦略はあくまでも手段であり、目的ではないということです。パーパスの実現のために走っていてたまに顔を上げたら「これコンパウンド戦略だ」と気付いた感じですね。

昨年RipplingのCOOであるMatt氏が「コンパウンド戦略は、実は危険な側面もあるためやるかどうかきちんと考えるべきだ」と提言していました。
我々としても、セオリーから外れた方法であることを自覚して取り組んでいくべきだとも思っています。
また、コンパウンド戦略を取る上では、何も考えずに崖から飛び降りるのではなく、先を見据えてパラシュートを持って飛び込むということが重要だと感じています。

パーパスを実現するには、アセットと街の適合性を判断するためのデータが必要で、不動産業界の各業務間で流れるデータを見てデータドリブンに導く必要があります。
それを実現するためには、Whole Product構想に当てはめ事業部制を導入し、事業部内で意思決定を行い、経営の意思決定スピードを上げると同時に、プロダクト間の連携を強化しています。
その結果、昨年頭にはの3つだったプロダクトが9つに増え、連携の実例も出てきました。

ただし、コンパウンド戦略に結果として辿り着いたという感じなので、課題も多くあります。例えばミドルウェア基盤への投資は劣後してしまっており、他のプロダクトとの共有がうまくいっていないことは課題の一つです。

今後は、今足りていない「基盤」「連携」「革新」この3つの方針を重点的に補強していく予定です。
1つの取組みとして下記スライドにあるようなマグネットを用意して、チーム間でのインタラクションを頻度高く可視化し、チーム間のやり取りをスムーズにするようなことにトライしています。
コンパウンド戦略に結果辿り着いたからこその課題はまだ多くありますが、全プロダクトが連携し得る組織作りに向けて、現在も様々な試行錯誤を重ねています。

                               以上

Vol.2は以下のリンクから

インタビュー(CTO・CPO)

イベントレポート





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