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読書note

朝早く起きるせいか、
夜はすっかり早寝する習慣がついてしまった。

そのはずなのに、
事あるごとになんだか眠くて仕方がない。
冬は寒さのせいにできた。
春は年度末や、新年度の忙しさのせいにした。
だとしたら、今は何だろう。

数日前から夏のように日中暑くなったから、
気温の変化のせいにしようか。

実際、夏は体力を使う。
夏の午睡は気怠いけれど、惹かれてやまないもののひとつだ。
うたた寝という言葉も好き。
時間がたくさん余ってるときしかできないことだから。


そんななか、
読みたいと思ってた本を手に取ってみた。

小川洋子さんの『遠慮深いうたた寝』


まず、装丁がとても美しい。
まるで陶器のお皿みたい。
深い青色の栞がついてて、とても綺麗だと思った。


こっそり読みたいような本だ。
自分ひとりで、誰もいない午後に紅茶なんかを飲みながら、ゆっくり1ページずつ文章を味わってみたくなる。


小川洋子さんのエッセイは初めてだったけど、
とても素敵な本だった。

例えば文章の静けさなんかが、
読んでてとても安心する。

載ってるエピソードも素敵だ。
例えば、
とある学校の図書室を訪ねたあとのこと。


帰り、同じ方向の電車に乗る少年と一緒になった。「博士の愛した数式」の一節を朗読し、
「この文章が僕には光って見えました。どうしてでしょうか」と質問した中学一年生だった。
乗換駅までの間、座席に並んで座り、他愛もない話をした。電車のドアが閉まり、姿が見えなくなるまで、私は手を振った。彼ははにかんだ笑みを返してくれた。文章を光らせたのは作家ではない、あなた自身ですよ、と胸の中で何度も繰り返した。


文章で共振し合えたときの、
一瞬の光やきらめきがそこではすくいとられている。

疑問を持った少年の心も、
その問いかけに真摯に応える作者の言葉も美しい。

まるで素敵な絵画を眺めてるような気持ちになる。懐かしくていつまでも心に残っていくような。



だから私も小説を書いている。時々、あまりにも未熟すぎて嫌になるけれど、それでもどうにか踏みとどまっている。自分の生かされている世界がどれほど果てしなく、複雑でありながら尊いかを実感するために、想像の場所でしか出会えない誰かの声に耳を澄ませている。

この言葉も素敵だった。


どれもとても良いけれど、
最後の方にある『答えのない問い』もよかった。


そこに書かれているのは、『夜と霧』にまつわることだ。
強制収容所で、明日死ぬかもしれない人々にとって、自然や信仰や文学が命をつなぐために重要だったという事実。



自分が死んだあとも、書き記した言葉が残り、私の知らない誰かの耳元に届いて、心がつながり合うのだとしたら、どんなに遠い道のりでも、一字一字、歩んでゆく意味はある。


知らない誰かの心の奥に届くのが言葉の力なのだ。その遥けさをあらためて思う。

小説を書く意義や、真理にも触れられたような気がした。

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