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書籍『動物たちは何をしゃべっているのか?』

山極 寿一 (著), 鈴木 俊貴 (著)
出版社
集英社‏
発売日 2023/8/4
単行本 224ページ



目次

Part1 おしゃべりな動物たち
動物たちも会話する/ミツバチの振動言語/動物の言葉の研究は難しい/言葉は環境への適応によって生まれた/シジュウカラの言葉の起源とは?/文法も適応によって生まれた etc.

Part2 動物たちの心
音楽、ダンス、言葉/シジュウカラの言葉にも文法があった/ルー大柴がヒントになった/とどめの一押し「併合」/言葉の進化と文化/共感する犬/動物の意識/シジュウカラになりたい/人と話すミツオシエ etc.

Part3 言葉から見える、ヒトという動物
インデックス、アイコン、シンボル/言葉を話すための条件/動物も数がわかる?/動物たちの文化/多産化と言葉の進化/人間の言葉も育児から始まった?/音楽と踊りの同時進化/俳句と音楽的な言葉/意味の発生/霊長類のケンカの流儀/文脈を読むということ etc.

Part4 暴走する言葉、置いてきぼりの身体
鳥とヒトとの共通点/鳥とたもとを分かったヒト/文字からこぼれ落ちるもの/ヒトの脳は縮んでいる/動物はストーリーを持たない?/Twitterが炎上する理由/言葉では表現できないこと/バーチャルがリアルを侵す/新たな社交/動物研究からヒトの本性が見えてくる etc.

集英社 公式サイトより

内容紹介

 つい最近まで、動物には複雑な思考はないとされ、研究もほとんどされてこなかった。
 ところが近年、動物の認知やコミュニケーションに関する研究が進むと、驚くべきことが分かってきた。
 例えば、小鳥のシジュウカラは仲間にウソをついてエサを得るそうだ。ほかにも、サバンナモンキーは、見つけた天敵によって異なる鳴き声を発して警告を促すという。

 動物たちは何を考え、どんなおしゃべりをしているのか?
 シジュウカラになりたくてシジュウカラの言葉を解明した気鋭の研究者・鈴木俊貴と、ゴリラになりたくて群れの中で過ごした霊長類学者にして京大前総長の山極寿一が、最新の知見をこれでもかと語り合う。

 話はヒトの言葉の起源、ヒトという生物の特徴、そして現代社会批評へと及ぶ。
 そして、その果てに見えたヒトの本質とは!?

集英社 公式サイトより



レビュー

 山極 寿一鈴木 俊貴の対談形式となっており、各章毎に内容の「まとめ」ページも付与されていて、読みやすい一冊。
 
 1~2章にて個人的に特に印象に残ったのは、
動物の言葉の発達に影響すると考えられる環境についての言及

 鈴木:シジュウカラは鬱蒼とした見通しの悪い森に住む鳥ですから、視覚だけのコミュニケーションでは不十分。
 だから鳴き声を、言葉を発達させたんじゃないかと思うんです。ヘビが来たとかエサがあるとか、自分の周囲で起きていることを、音声を使って詳細に伝えないといけないですから。

 少なくともシジュウカラについて言うと、意味を持つ鳴き声、つまり言語の起源は、生存に直結する重大な情報のカテゴリー化だとにらんでいます。


インファント・ダイレクテッド・スピーチを起点に語る、「リズムと共感」について
 ※【インファント・ダイレクテッド・スピーチ】:乳児へ語りかけるときにする、成人に対する話しかけとは明らかに異なる話し方。声が高くなったりイントネーションが誇張される。

山極:(中略)「まあ、可愛いわねえ」と、ピッチもトーンも変化するでしょ? 「よしよし」みたいに、切り返しも多用されて、感情が表れている。
 (中略)
 そして赤ん坊に向けたインファント・ダイレクテッド・スピーチは、ペットに向けるペット・ダイレクテッド・スピーチと同じだという話もあります。たしかによく似ていますよね。相手が言葉を理解しないという共通点もある。
 (中略)
 鈴木:(中略)同じリズムでの繰り返しを共有することは、心理学的には共感を高める行為なんですよね。人間の場合なら、一緒に歌を歌うことがそうですね。
 山極:あとはスポーツの応援もそうだね。
 (中略)
 鈴木:動物も同調するんですよね。たとえばタンチョウは求愛のときに、鳴き声やダンスを同調させたりします。
 山極:私は、こういう音楽的な言葉が人間の言語の起源なんじゃないかと推測しています。


音楽、ダンス、から言語形成への起源に関する思索

 山極:鈴木さんは単語や文法といった「狭義の言語」を重視されているように思うけれど、私は、言語を語るには言語以外の要素、たとえばコミュニケーションやその動物の社会構造にも目を向ける必要があると考えているんです。
 鈴木:というと?
 山極:サルや類人猿については、言語の発達以前に、まず視覚的なコミュニケーションがあったんじゃないか。私がダンスや音楽に注目するのもそのためです。
 鈴木:意味が生じる以前の話でしょうか?
 山極:そうです。私は個体どうしが意味をやり取りする前に、行動の共鳴があったんじゃないかと思う。
 (中略)
 動物たちは踊り、歌います。


④「共感」についての考察。犬に関して

山極:犬の知性についてはここ数年で一気に研究が進み、今では類人猿よりも認知のレベルが人間に近いと言われています。たとえば、人が指をさした方を向くことができる。これは、限られた動物しか持たない能力です。
鈴木:オオカミの赤ちゃんと犬の赤ちゃん、あと人間の赤ちゃんの認知能力を比べた研究論文を読んだことがあるんですが、犬の赤ちゃんはオオカミよりも人間の赤ちゃんに近いみたいですね。
 うちのクーちゃんも、僕の表情やちょっとした仕草を理解してくれるんです。それに、クーちゃんには白目もあります。

 ※上記の文章が記されているページには、小型犬のクーちゃんと一緒に散歩する鈴木さんのお写真が記載されているのですけれども、木の枝を口に加え、犬のように四足歩行にて地を這うように散歩する鈴木さんの姿に、「やはりコミュニケーションは相手の目線で考えるということを出来るかどうかが最も重要なのだ……」と、「共感」しかありません(「共感」は出来ても野外で実行する勇気の無い自分が憎い……😭)。

 
⑤ノドグロミツオシエと人間のコミュニケーション

 鈴木:人と積極的にコミュニケーションをとる鳥もいます。
 モザンビークに住むノドグロミツオシエという鳥なんですが、彼らは人とコミュニケーションをとりながら、エサであるハチの巣を手に入れるんです。
 (中略)
 ハチの巣って、ハチミツや蜜蠟があって、人にとっても鳥にとっても栄養源じゃないですか。もちろんハチに刺されるリスクはありますが、人には焚火で巣をいぶしてハチを追い払う能力がありますから、ハチミツを手に入れられる。
 一方のミツオシエは焚火は出来ないけれど、目がいいですから、ハチの巣を見つける能力は人よりも上。このように利害が一致しますから、モザンビークの人はミツオシエと協力してハチの巣を手に入れるんです。
 山極:しかしどうやって?
 声です。ミツオシエは、ハチの巣を見つけると人間のところまでやってきて「ギギギギギ」と鳴いて、ハチの巣まで誘導するんですよね。すると人は焚火をして巣を手に入れて、そのおこぼれをミツオシエに上げるんです。
 人間の側もミツオシエを見失ってしまったら「ブルルルル」という独特の声を出してミツオシエを呼びます。人間と鳥で、双方にコミュニケーションが成り立っているんですね。
 山極:面白いな。ところで、現代の日本でも、ペットや身近な動物とコミュニケーションをとりたい人は少なくなさそうですね。
 鈴木:そのコツは、彼らに安易に人間の世界を当てはめないことだと思います。感情移入や共感もとても大事ですが、同時に、まったく別の世界を生きていることも忘れてはいけないのではないでしょうか。
 (中略)
 動物たちは僕ら人間とはまったく違う世界が見えていることを常に念頭に置いて、彼らにとっての世界を想像することが重要だと思いますね。

※【ノドグロミツオシエ】:中央~南アフリカの熱帯雨林に生息する、全長20センチほどの鳥。人間と協力してハチの巣の狩りを行うことで知られる。

といったところと、鈴木さんのシジュウカラの言葉を探る際の実験手順の概要です。
 
 「①」については、意外と多くの人が「私もそう思っていた」または「私もそう感じていた」というところかもしれませんけれども、鳥が言語によるコミュニケーションを行っているという事実を世界で初めて突き止めた鈴木さんがおっしゃるからこその説得力を感じました。

 「②」と「③」には、子どもの頃から抱えていた謎のひとつを、解き明かすキッカケを与えてもらいました。
 その謎と、行き着いた自分なりの回答に関しましては、いつか別の記事に記すかもしれません。
 ※記すのに勇気と覚悟を要する(というか多くの人に嫌われる可能性の極めて高い)内容であるため、少し寝かせて、記すかどうかを熟慮じゅくりょしてみます
 
 「④」は「犬の赤ちゃんはオオカミよりも人間の赤ちゃんに近い」という部分が個人的に新情報でした。
 どの論文なのかしら……、読みたいな……。

 「⑤」に関しては全く同意見のため、引用しました。
 ちなみにハチミツを共同作業でゲットするノドグロミツオシエと人間の関係は、本物の共存関係であり、「多様性」であると思います。

 で、話がいきなり飛びますけれども(突然思い出したので記しますけれども)、シジュウカラの群れに「リス」が加わることもあるらしく、「えっ!? どどどどういう状況⁉」と、かなりワクワクしてしまいました。

 
 3章はお題が「言葉から見える、人という動物」、4章は「暴走する言葉、置いてきぼりの身体」ということで、熱い内容だったのですけれども、あえてレビューは記さずにおきます。
 ※あまり内容を引用しすぎると記事を削除されても困るので……ソンナリユウカイ!
 
 というわけで、とても楽しい対談集でした。

 

 本書に関しましては、notoにて現在フォロー関係にあるHumiさんも記事を書いてらして、記事内には鈴木さんの実験に関する動画へのリンクが多数ぺタリンコされております。
 シジュウカラの言語に興味をお持ちになった方は是非!
 ⇩

 

 
 

 


シジュウカラは文法を持っている。その実験について、

ノーム・チョムスキー「併合」

※【併合】言語学用語で、71

ウソ」をつくことも出来る

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