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映画『シビル・ガン/楽園をください』

2001年/製作国:アメリカ/上映時間:138分 
原題
 RIDE WITH THE DEVIL
監督 アン・リー
原作ダニエル・ウッドレル 撮影フレデリック・エルムス 音楽マイケル・ダナ 美術マーク・フリードバーグ 編集ティム・スキアーズ 衣裳マリ・アレン




予告編(海外版) The Criterion Collection


STORY

 アメリカの「南北戦争」当時、ミズーリ州とカンザス州の州境で戦っていたのは、正規の軍隊ではなく、奴隷制の支持派と反対派に分かれた、その地の住民たちであった。
 奴隷制の支持派は南軍のゲリラ兵となり、北軍正規軍と北軍ゲリラ兵との間で壮絶な戦いを繰り広げていた。どちらの側につくのも危険であったが、最も危険なのはそのあいだにて、板挟みになることだった。

 1861年、ドイツ生まれのミズーリ育ち(ドイツ移民)の青年ジェイク・ロデルと裕福な農園主の息子ジャック・ブル・チャイルズは、南北戦争勃発により、その争いへと否応なく巻き込まれてゆく。
 

レビュー

 潤沢な予算と素晴らしい俳優陣を得て、アン・リー監督の豊かな感性が遺憾なく発揮された傑作。
 しかし日本ではあまり知られておらずDVDしか無いため、Blu-rayはクライテリオン版を購入。
 兎に角なにもかもがリッチな出来で素晴らしい(「衣装」「音楽」も抜群の仕事が成されております)。
 原作は、Daniel Woodrell(ダニエル・ウッドレル) の小説『Woe to Live On』。傑作にもかかわらず、日本未翻訳の謎……

 
 舞台は1860年代のアメリカ。
 南北戦争の勃発に伴い、様々な事情からブラック・ジョン率いる南軍のゲリラ部隊に加わることとなった2人の青年、ジェイク・ロデルと、裕福な農園主の息子ジャック・ブル・チャイルズ(2人は幼馴染)は、その意思とは無関係に凄惨な戦いに巻き込まれてゆく。
 2人の所属するブラック・ジョン率いる南軍のゲリラ部隊には、紳士的なジョージ・クライドや、彼の元奴隷兼親友でもある黒人ダニエル・ホルトが所属しており、知性のある彼ら4人は信頼関係を築いてゆくこととなるが、部隊には「敵」「味方」「民間人」に関係なく(自分の感情の赴くままに)殺しまくるピット・マッキーソンらもおり、基本的に無知な「ならず者」であるそれらの連中は、教養のあるドイツ移民であるジェイク・ロデルと黒人であるダニエル・ホルトに差別意識剥き出しで接し、やがて隙あらば命までをも狙おうとする。
 ゆえに画面には終始緊張感が漂い、観る者は南北戦争当時の、「南軍(ゲリラ含む)」と「北軍(ゲリラ含む)」との間に「板挟み」となってしまうことの危険性と恐怖を、主人公達ともに追体験することとなる。
 ※ちなみに当時のドイツ移民の多くは北軍側に味方していた
 
 また物語は、当時の南部白人の常識的な視点から始まり、その後徐々にドイツ移民であるジェイク・ロデルと黒人であるダニエル・ホルト(差別される側の者たち)、そして戦争でふたりの愛する男性を失う女性スー・リーの視点へと緩やかに移行してゆく。観る者はその3人の変化を通し、時代の大きな「うねり(変化)」、そして「自由」の素晴らしさをも追体験することとなるのだ。
 
 本作の白眉の一つは、当時の「白人による差別」や「ローレンスの大虐殺(民間人の虐殺)」等の、白人達の暗部(アメリカ白人社会では未だタブー視されることもある闇の歴史)を、忖度なしにキッチリ描いている点にあるように思う。
 そしてそれは、原作者のダニエル・ウッドレルの価値ある仕事の証でもある。    
 ※ローレンスの大虐殺
 1863年8月21日。町は焼き払われ、180人を超える町の住人が数時間で命を奪われた事件。アメリカ史の汚点の一つ。

 
 話しは飛ぶが、悪役のピット・マッキーソンを演じたジョナサン・リース・マイヤーズが、全盛期の美しさに煌めいており(サムネの写真はジョナサン・リース・マイヤーズ)、最高である。
 個人的には映画史上最も美しい悪役の一人であると思う。
 ⇩ にぺタリンコした動画の、4:38~のジョナサン・リース・マイヤーズを御覧いただきたい。美し過ぎる。
 もしを御覧になり「カッコいい!」となった方は、もどうぞ。
 
 

 ②


 最後に
 本作は(たぶん新緑の)緑がとても美しい作品で、最高に好きな色彩を持つ一本。
 


Daniel Woodrell 『Woe to Live On』英国版表紙

表紙の写真はたぶん本作のスナップからのもの



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