書籍『まほうのプディング』(1979年、世界の児童文学名作シリーズ)
ノーマン=リンゼイ【Norman Lindsay】 (著・イラスト)
小野 章 (翻訳)
出版社 講談社 1979年4月20日
単行本 239頁
もくじ
まほうのプディングの、一切れめ p4
まほうのプディングの、二切れめ p57
まほうのプディングの、三切れめ p111
まほうのプディングの、四切れ目 p166
あとがき p234
STORY
紳士できれい好きなコアラ、バニップ・ブルーガムは、同居しているワルトベリーおじさんの長いほおヒゲにより繰り返される日常生活の困難な状況から逃れるため、家を出る決心をします。
旅に出たバニップでしたが、うっかりお弁当を忘れてしまったことによりお腹が減ります。そこで偶然出会ったビルとサムに、ふたりが食べていたプディングを分けてもらうのですが・・・、なんとそのプディングは「魔法のプディング」だったのでした。
「魔法のプディング」は、口笛を二度鳴らし、くるりと回せばあら不思議、お好みの味と具のプディングになります。しかも、どれだけ食べてもプディングは減らないという「無限仕様」。さらには食べる量が少ないと、プディングは文句まで言います。
え?「魔法のプディング」はしゃべるのかって?
そうなのです。「魔法のプディング」のアルバートは意思を持ち、話すことが出来ます。でも、プディングを作ったコックが下品で嫌な奴であったため、アルバートも少し意地悪で口の悪いプディングです(生まれと育ちが悪いのです)。
しかしそんな魅力的な「魔法のプディング」は、当然ながら悪い奴らに狙われることとなります。
プディングを守るため、バニップ、ビル、サムの三人は「プディング持ち主協会」を結成。
今、「魔法のプディング」を巡る熱い戦いの幕が切られる。
※ちなみに「魔法のプディング」ことアルバートは、裏切って逃げようとしたり、口汚く罵ってきたりしますから、なかなかに油断できない存在です
レビュー
小説家フィリップ・プルマンのおすすめの小説。ということで読んでみました。
1918年にオーストラリアにて初めて出版されたという本作は、100年以上の時を経た今読んでも、とても面白かったです。
特に「一切れめ」と「二切れめ」は、2~3ページに一回は笑ってしまう場面があり、これまで読んだ本の中で最も笑った一冊となりました。
また文章のみならず、著者のノーマン=リンゼイ自身による挿絵も素晴らしく、その量も潤沢でした(オーストラリア固有の動物達が多数擬人化されています)。
※文章と絵の相乗効果により、本当に素晴らしい世界観が構築されており、面白過ぎて一気読み
こんなに面白いのになぜ再版されないのかと疑問に思いましたけれども、たぶん悪者を殴ったりする描写が多いこと(個人的には許容範囲でしたし、むしろ読んでいて楽しかったです)、そして若干「白人優越主義」の香りが漂うことがネックとなっているのかもしれません(「注釈」でも付ければ良い程度のものです。そうすることによりむしろ子どもたちの学びになると思います)。
しかしそうした部分を考慮しても、これほど面白く、且つ学びとなる優れた児童文学が再版されないことには、強い疑問を感じます。
ぜひ新訳にて再版されることにより、日本の子ども達に沢山の笑いをもたらしてほしいと思います(もちろん大人達にも!)。
また本書は面白いだけではなく、子どもたちの「理不尽な権力と戦う精神」を力強く養ってくれますし、人生を生き抜き楽しく過ごすためには、素敵な仲間が必要であるということも、しっかりと伝えてくれる上質の児童文学です。
著者と本書に関する情報
原文の朗読
※素晴らしい挿絵を楽しめます
面白かった描写やセリフ等
「ひつようなものはなんでもあるけど、たべものがない。たべものがなかったら、なんでもなんて、なんの役にも立ちゃしない」
「こんにちは、しつれいですが」
バニップはぼうしをあげて、声をかけました。
「たしかこれは、肉いりプディングのにおいでは?」
「いまのところは、そうだね。」
と、ビル。
「とてもおいしそうなにおいですね。」
と、バニップ。
「おいしいとも。」
と、ビルはいって、一口ほおばりました。
バニップはひとかどのしんしです。おべんとうのおすそわけをしてくれなんて、口がさけてもいえません。そこで、なにげなくいいました。
「そのプディングには、たまねぎの風味もそえてありますね?」
ふくろねずみはいいわけをして逃げようとしました。
「たまごのねだんが、またあがってきましてね。」
(注:まほうのプディングが歌を歌った後に、ビルが)
「ひくい声のところがすこしかすれていたけど、これはきっとおまえさんが、肉じるたっぷりなために、声にからんだせいだね。」
「朝食の歌は、たのしくなきゃいけませんよね。朝食ってのは、なんとなくたいくつで、歌はそれをけいきづけてくれるから。」
「プディングもち主協会の会員の、いいことの一つはね、」
とサム。
「朝食のときにうたうのを、いつもかんげいすることさ。たべながら、しかめっつらをしたり、おかゆがねばねばだと、もんくをいったり、たまごが皮みたいにかたいぞなんていうのは、だめ。そのかわり、歌でも、高わらいでも、ばかさわぎでも大かんげい。たとえばこんなふうにね。」
と、サムはいって、ひれをばたばたさせると、ドシンと音をたてて、ビルの頭に飛び移ったのです。そんなわるふざけなど考えてもいなかったビルは、顔をプディングの中に、ぐしゃりとつっこんでしまいました。肉入りプディングでしたから、肉じるが目にはねました。
「どうして、たべものがだいなしになるようなわるふざけを、朝食中の人間にするんだ!」
と、ビルはどなりました。
「どうして、たべものがだいなしになるようなわるふざけを、朝食され中のプディングにするんだ!」
と、プディングもどなりました。
「朝食のじょうだんだよ、ビル。いつもの朝食のときの、じょうだんじゃないか。」
と、サムはあわてていいました。
「じょうだんだって?」
と、ビルはどなりつづけます。
「あごひげについたプディングなんて、じょうだんじゃないぞ。」
「あごひげにくっついたプディングよりも、プディングにくっついたあごひげのほうが、まだわるい。」
と、はちの中で立ち上がったプディングがさけびつづけます。
(中略)
さわぎが思いがけないなりゆきになりそうなので、バニップは中にわりこみました。
「たのしい朝食を、みっともない口げんかで、だいなしにするのはやめましょうよ。大すきな友だちサムが、大すきな友だちビルの気分を、これも大好きなプディングの肉じるで、うっかりきずつけただけのこと。さぁ、おたがいに友情の手をさしだして、いがみあいの雲を、さっさとおいはらいましょう。歌にもあるじゃありませんかー。」
友情を、ぎゅっとにぎった、げんこつは
いつでも、てきに、むけること
おこったひょうしに、うっかりと
みかたの、だいじな鼻、ねらってはだめよ
このりっぱな意見で、ビルのいかりはすぐにきえました。ビルは心をこめてサムとあくしゅをし、顔から肉じるをふきとって、上きげんで朝食をつづけました。
歌をうたいながら、たのしくあるいていると、
「火事だ! 火事だ!」とさけぶ声がきこえました。
(中略)
もえていたのは、ただの牛小屋でしたが、火の手はかなりはでにあがって、やじうまにはもってこいの火事です。
(※魔法のプディングを奪われてしまった直後)
バニップは、がっかりしているビルとサムを元気づけました。
「さぁ、がっかりしてあきらめるのは、まだはやいですよ。こんなさいなんで、めげてしまわずに、おおいにはらをたてて、悪党たちを追いかけましょう。しかえしを、たっぷりしてやらなくちゃ。ただちに、出発!」
はら黒いオオムには、はら黒い旅をつづけさせておいて、三人は先を急ぎました。
「いかがわしい連中を信用して、そのつど、はらをたてていると、さいごにはだれも信用できなくなります。」
ふくろぐまはあわててプディングを頭にのせ、その上にぼうしをかぶせています。これで、ふくろぐまの育ちがわるいのが、はっきりわかります。育ちがよかったら、プディングを頭にかぶるなんて、ぎょうぎのわるいことは、けっしてしませんからね。
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