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北原コレクション④「秘宝、顔グラス」

 一見して珍妙な形かつ絶妙なバランス。大正末期から昭和初期に作られたと思われる美女の顔付きのガラスコップ「顔グラス」。グラスの上に陶器でできた女性の蓋が載っていて、立体的な女性の口にストローを差し込んで、蓋をしたまま飲む趣向。

 頬を赤らめたような女性の顔が妙に色っぽく、キスをせがむような女性の表情が洒落ています。なぜ、そこに顔が付いているのか。今だったら、まず商品化できないようなデザイン。大正モダニズムの雰囲気漂うキワモノ。どこで作られ、どこで売られていたものなのか。全くのなぞ。珍品中の珍品です。

 入手した経緯は、著書に詳しく紹介。北原さんは、東京の南青山にあった開化亭という骨董屋で、この「顔グラス」と出会います。見た瞬間、北原さんの琴線に触れました。まさしく一目惚れ。どうしても欲しいと思ったのですが、非売品。熱心に交渉しても、店主のお気に入りのため、どうしても譲ってくれません。

 開化亭は南青山周辺で4回引越し。そのたびに譲ってほしいと頼みに行きました。それでも望みは叶わず、20年の歳月が流れます。それでも北原さんはあきらめません。その熱い思いに、ようやく店主が根負け。ガラスケースの商品を丸ごと買うという条件で譲ってくれました。

 北原さんは言います。「コレクションは一番欲しがっている人のところ、一番大事にしてくれる人のところへ行く」、「事を成すには追い続ける情熱が必要。思い続ける情熱があれば、いつかきっと成就する」。そのとおりだと思います。人生もコレクションも同じです。

 秘蔵のお宝として、北原さんがあまりにも絶賛するので長年探していますが、どうしても見つかりません。北原さん自身も、他にこの「顔グラス」がないか探していて、全く出て来ないと言います。二度と手に入らないような大珍品。こういうものは値段じゃないと思います。まさに秘宝と言っていいでしょう。

 それにしても、絶品。女性の表情が想像力を刺激し、見れば見るほど魅せられます。写真では何回も見ていた「顔グラス」。2013年4月、東京日本橋の高島屋で開催された展示会で、実物を見ることができ、大感激。大正ロマンとジャパニーズアールデコの風情があり、雰囲気が抜群。色、艶、形、どれを取っても、実物は想像以上に素晴らしいものでした。

2-4顔グラス


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