2019年2月発刊「奇跡の一代記 神谷傳兵衛物語」まえがき▪構成
まえがき
知られざる偉人の一代記。愛知県三河地方出身で「日本のワイン王」の異名を持つ傳兵衛は、国内初の本格的なワイン醸造場、「シャトー・カミヤ」や日本で初めてバーの名を冠した「神谷バー」の創業者。ワイン「蜂印香竄葡萄酒(はちじるしこうざんぶどうしゅ)」やカクテル「電気ブラン」の製造者として歴史に名を残しています。
一方、稀代の実業者としての傳兵衛は、事業の推進に当たり、各界の名士と積極的に交流。政治家では勝海舟、山岡鉄舟、榎本武揚、曾禰荒助、板垣退助、土方久元、軍人では大山巌、児玉源太郎、西郷従道など。大いに活かされたであろう歴史に名を残す諸名士との交友録を見れば、そのスケール感は大河ドラマのよう。
ワインとアルコールの分野で先駆的な役割を果たした立志伝中の人物は、大成功により一代にして巨万の富を得ました。さらに、こうした酒類製造及び販売業にとどまらず、実業家として、銀行、石油、汽船、製薬、鉄道など幅広い分野における数々の会社の設立や運営に関与。傳兵衛の先見、事業に対する着眼は非凡。機会をとらえてのがすことはありませんでした。
傳兵衛の地元、愛知県幡豆郡一色町(現西尾市)が平成元年に発行した「松木島四百年史」によれば、傳兵衛が関係した事業又は創立に尽くした会社は実に60社。整理して存続させた会社は16社。晩年重役の任にあった会社は14社に及んだと言います。
例を一つ挙げると、刈谷市を拠点として明治の終わり1912年に設立された三河鉄道への参画。これは、三河地方出身の傳兵衛の地元貢献であると同時にビジネスチャンスの足掛かり。
1916年、三河鉄道の社長に就任した傳兵衛は、碧南から刈谷までの路線をさらに猿投越戸まで延伸。2004年に廃線となる区間にかつて存在した枝下駅(しだれえき)。その駅のすぐ近くで採掘されていた木節粘土に着眼。そこで生まれたのは、これを鉄道で刈谷まで運び、煉瓦を作って東海道本線で関東へ出荷する構想。
すぐに構想を実現に移した傳兵衛。1917年、刈谷に煉瓦工場を建て、東洋耐火煉瓦を創業。その影響もあって、1923年に豐田紡織、1927年に豊田自動織機の工場が刈谷に誕生。その後も刈谷駅周辺にトヨタグループの工場が集積するきっかけとなりました。
他にも日本石油精製、神谷汽船、九州炭鉱汽船、旭製薬、富士革布、輸出食品、日新印刷、日本運輸、日本通運、日本製粉、日本建築紙工、神谷貿易、東洋遊園地、三屋粘土、東京鋲鎖製造、帝国火薬工業、北海道土地など。傳兵衛が設立に関与した企業や社長を務めた企業を調べると次から次へと出てきて驚くほかありません。
また、傳兵衛は事業の傍ら、慈善事業や文化事業にも極めて精力的に取り組みました。自らは質素に暮らしながらも多方面に多額の寄附を惜しみなく提供。大きな災害が起これば直ちに救済活動を行い、教育や神社仏閣、社会公益事業への関心も高く、桁外れの寄附を行っています。
文化事業で特筆すべきは、傳兵衛と愛新覚羅家の縁。溥儀と溥傑のお父様、第2代醇親王とのお付き合いから始まり、傳兵衛が第2代醇親王から清朝の秘宝約600点を購入。晩年の1919年(大正8年)に他のお宝と合わせ、668点に及ぶコレクションをそっくり帝国博物館(現東京国立博物館)へ献納し、世間を驚嘆させています。
我が国が封建社会から急速な近代化を遂げた明治・大正期。そこに残る足跡を見れば、傳兵衛は近代日本の礎を築いた立役者。その人生や偉業は、もっと広く知られ、賞賛されるべき。そこで、坂本箕山の伝記をベースに私の着眼で綴った一冊。傳兵衛の偉業を伝える一助になれば幸いです。
2018年11月17日
◆構成
第一章 成 長
1 神谷家の系譜
2 松木島村の情景
3 白梅と花の児
4 誕生と生家の没落
5 8歳の丁稚奉公
6 独立、「重い荷を背負った少年」
7 投網名人の少年と天狗様
8 花川戸「助六」と名刀「髭切丸」
9 横浜行き、「金三両の別れ」
10 ワインとの運命的出会い
11 東京進出、「天野屋の五年間」
12 創業、「みかはや銘酒店」
第二章 出 世
1 大ヒット、「蜂印香竄葡萄酒」
2 成功の裏側
3 生涯の友との出会い
4 商標登録
5 電気ブラン
6 生産体制の構築
7 白羽の矢
8 フランス留学
9 夢実現、「シャトー・カミヤ竣工」
10 旭川への進出
11 神谷バー
12 30年後の海外渡航
13 向島別荘
14 稲毛別荘
第三章 展 開
1 メガバンク誕生、「豊国銀行設立」
2 三河鉄道の夢(前話)
3 三河鉄道の夢(後話)
4 刈谷発、東洋耐火煉瓦
5 三者共同、三星粘土
6 未来を展望、「東洋遊園地」
7 チャレンジ、「旭製薬株式会社」
8 セルロイドつながり
9 苦心、「日新印刷」
10 「脱兎号」の夢
11 洋行土産、「神谷薯」
12 松木島八幡社
13 カミヤの至宝
14 可睡斎護国塔
第四章 集 縁
1 著名人との交友録
2 好敵手、「蜂印と赤玉」
3 近藤利兵衛(前話)
4 近藤利兵衛(後話)
5 傳蔵の情熱
6 愛新覚羅家との奇縁
7 山岡鉄舟との交友
8 浅草の顔、江崎礼二
9 日本ワインの父、川上善兵衛
10 ヘッドハンティング
11 文士たちが愛した「酒売場」
12 報恩の精神
第五章 驚 嘆
1 数々の栄誉
2 長者番付に見る奇跡
3 敗訴、大正4年判決
4 ホワイト企業
5 健脚に驚く
6 渡し舟
7 一本の針
8 「吐針地蔵」の伝説
9 白雲作、傳兵衛像
10 三つの土産話
11 慈善と倹約
12 明治13年の浅草
13 税問題に直面
14 利他の人
第六章 未 来
1 関東大震災後
2 神谷ノブ
3 牛久の墓地跡
4 未来へ続く
5 美しい西洋館
6 ハチハニーの歌
7 強烈デザイン、「蜂ブドー酒」
8 発掘、「牛久葡萄酒」
9 蜂印とトンボ印
10 発掘、130年前のロマン
11 傳兵衛物語を日本遺産に!
あとがき/神谷バー訪問
◇「傳兵衛物語」発刊に寄せて(牛久市長)
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