美術館に行かない私が普段読まないジャンルの本を読んでみた
読書の秋ということで、基本的にアートに興味がない私にとってはある意味最大限のチャレンジ。せっかくの企画なので、普段読まないジャンルから1冊読んでみようと考えたわけです。多少でもアートに興味がある方ならもっと気の利いた感想を書くことができるのだと思いますが、私はあえて興味のない人として率直に感想を書きたいと思います。もしかすると色々ご意見や批判もあるかもしれませんが、興味がない人が読んだらこんな風になのだという程度にご理解いただければと思います。
選んだ本
目の見えない白鳥さんとアートを見に行く
川内有緒
株式会社集英社インターナショナル
装丁:佐藤亜沙美
装画:朝野ペコ
買いに行く
とにもかくにも本屋さんへ。ネットでぽちっとはしません。本屋さんに行くことが大切なのです。今回は、普段行かない美術・芸術関連本コーナーに足を踏み入れるとイラストや芸術本だらけでどこかきらきらしていて別世界のようでした。場違いなような気がしつつも、普段目にしない本ばかりで、中でも小説とイラストのコラボ「乙女の本棚シリーズ」に惹かれて(私と違って普段文芸本や文庫は読まないけど、イラストは好きな人にはおすすめ)、なぜ男の本棚シリーズはないのかとか釈然としない気持ちになったりして、この本を買う段階から新鮮な体験がありました。話は本作に戻って、発見したのち会計に向かうとなんと2,100円税別という金額。「高い!」とびっくりしました。私が普段読んでいる文庫は1,000円未満で文芸単行本でもたいてい1,500円前後です。でも「普段私が読んでいる本のコスパが高いだけなのか」「写真なんかも入っているし、なんたってアートだしなぁ」とか、数百円の違いなので「イオンシネマのレイトショーを見るか、日中にTOHOシネマズのIMAXシアターで映画を見るかの違いぐらいか」とよく分からないなりに納得をして帰路につきました。
読んでみる
どうせならタイトルへの興味が湧いたものの方がいいだろうと手に取りましたが、話題は興味がないジャンルでそもそも読破できるかは不安なままでした。普段私は小説ばかり読んでいて、その登場人物というか小説の世界に入りこんでいってしまうのですが、今回は読みなれていないタイプの作品(エッセイ・ブログ・ノンフィクション)は、「傍から眺めて聞いている」ようで読みはじめはただ客観視するイメージでした。有緒さん・白鳥さん・マイティさん達の会話を聞いているというのが一番近い印象かもしれません。そして会話が中心なので白鳥さんの目の見えないということを変に意識せず読むことができるのが、自然であるがままなイメージでいいのだと思います。
作品のこと-疑似体験
本作品は、美術館巡りをしながら話が展開されていくので、有名っぽいアーティストの名前も出てきて、きっと紹介本としても一役買えるような本なのかとも思いましたが、美術館にいったメンバーの会話からそれぞれの作品を想像しながら歩くように、ちまちまと読んでいる内に、さながら白鳥さんの経験を追体験しているような感じなのかも…と感じるようになってきて、この本は「全盲の白鳥さんを疑似的に体験する」という本ではないかというところが私の感じた一番大きな印象です。だって、基本的には文字だから絵や作品はほぼ想像の世界。そして私は興味があるわけではないから都度ネットで作品や作家を調べたりといったしんどいことはしない(苦笑)わからないものは、ふわっとした感じのままそのまま読み進めてしまいました。途中の作品の写真などもいくつありましたが、なんとなく最初の印象だけで見える程度で深くは考えたりしない。それって全盲の白鳥さんが他人の説明でアートを楽しむことと何が違うのか…興味がない・わからない・想像できないというのは、それもまた盲目ってことじゃないのかと考えてしまったのです。そんな感じでアートの知識はない人でもそれなりに読むことができる本だと思いますし、勝手な印象で作品を想像し、感想で楽しんでしまえるのもありだと認めてくれるところが、この本のいいところではないでしょうか。実際カバー裏のディスリンピックを見て、すぐ思ったことは「なんじゃこれ、世紀末か?」といった感想程度、そんなところから始まってもいいだろうなと。
白鳥さんと私
目の見えない白鳥さんと目の見える私では、実際は違うこと事だらけなのだと思いますが、文字や会話にしてしまえば結局一人の人間で一緒ですよね。なにも特別なことなんてないって思えます。ただ、白鳥さんは見えないはずの外の世界にすごく向かっている。また、それぞれがいろんな感想を言い合う光景を想像して、こんなアートの楽しみ方があってもいい、もっと気楽にアートを楽しんでもいいと言ってもらえているようで、興味のない内向きな私も今度暇なときに美術館に行ってみようかとほんの少し考えて程度には新鮮な感覚でした。普段通勤時に全く気にならないはずの「メトロポリタン美術館展」吊革広告をついぼぉーと眺めてしまうあたり、私も意外とすぐ影響されやすいところもあるのかもしれません。ただ、ひとりで行ってしまってはこんな楽しみ方はないってことです。自分と違う他人と見に行くのがよさそうです。批判しあうのではなく、ただ違う意見をあるがままに言ったり聞いたりする。そうしたことにも意味があるのだと改めて思いました。そこにアートがあるのか、本があるのかそれだけの違いで。
最後に
そんなこんなで改めて気づいたことがあります。エッセイ、ノンフィクション、自己啓発本というジャンルをめったに手に取らないのは今までなんとなくという感覚的なものだったのですが、これは私がきっと根本的に他人に興味があまりなく独りよがりだったからなのだろうということです。我ながらあまりいい性格とは言えないかもしれませんが、そうした自分に気づくのも新鮮な体験で、こうした普段読まない本を読むという副次的効果なのだと思えば面白いと思います。多少は他人に興味を持って、誰かと美術館に出かけてみるのもいいのかもしれません。
最後にこの長文を読んで下さった皆さんへお礼を申し上げるとともにご提案を。こんな風に「普段読まないジャンルをあえて一冊読んでみる」のはいかがでしょうか。
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