父親の三回忌でした
冬は弟の仕事が激務になるため、命日より少し早めに三回忌を行うことにした。父親の妹である叔母さんにも声を掛け、私の夫も含めて参列者は四人で決まった。そのあとの会食も前回と同じお店を予約した。すごくいいお店というわけじゃないんだけど、他にいいところが見つからず納骨からずっとお世話になっている。
弟と叔母さんへのお礼は最中に出汁とか具材が入っているスープにしようと思いついた。百貨店に行けばあるだろうと軽く考えていた。
三回忌を予約したのは日曜日。前日の土曜日は出かけるのがめんどうくさくなりそうだったので、会社帰りの金曜日に買い物を済ませるつもりで、金曜の朝に最中入りのお汁が買えそうなお店を検索してみる。思ったようなお店が百貨店に入っていない。ここにきて焦る。
探して探して、東京駅の大丸百貨店によさそうなお店があるのを見つけた。大丸だったら東急ハンズも入っている。不祝儀袋も一緒に買えてちょうどいい。定時すぐに会社を出れば営業時間にもぎりぎり間に合いそうだ。ほっとした。
会社帰り、別の買い物を済ませてから急いで大丸へ行った。目当てのお店でちょうどいい六個入りの箱を見つけて店員さんに注文する。掛け紙を聞かれたので法事の場合はどんな紙を掛けますか、と尋ねたら、「志」というものが一般的だと教えてくれた。じゃあ、それで……と話を終えようとしたら店員さんが、
「こちらの商品には鯛や昆布など、おめでたいときに使われるものが含まれていまして。法事だと、気にされる方もいらっしゃるかもしれないので、避けた方がよいかもしれません」
と教えてくれた。な、なるほど、そんなお気遣いが……。
うちの血縁にそこまでデリケートな人はまずいないな、とは思ったけれど、素直に言うことを聞いてバラ売りの製品から自分で選んだ詰め合わせを作ることにした。おいしそうなものを六種類選んだら、最初に選んだ六個入りの箱には入らないサイズの商品をいくつか選んでしまっていたらしい。箱の種類を変えて、それでも入らない一種類を除いて五個入りの箱詰めとした。手のかかるおばさんで本当にごめんなさい。
思ったより時間がかかってしまい、焦りつつ上の階の東急ハンズに行って閉店一分前に無事、袋もゲット。なんとかミッションクリアできた。
当日。前日までの大荒れだった天気もなんのその。バッチバチの晴天で気温も例年より高め。三回忌の日程が決まってから毎日仏壇に向かって父親に「十一月の三日だからね。よろしくね」と言い続け、前日には「寒いのイヤだからあったかくして」とねだったかいがあった。
今回はみんな時間どおりに集合できた。法事をお願いしているのは祖父の代からの菩提寺で、子供のころから祖母が眠るお墓へなんどもお参りに来ていたお寺さんだ。
読経が始まり、お堂を見回す。初めてお堂に入ったのは、たしか二十代のときだ。父親の育った家庭はいろいろこじらせていて、父親は私の祖父、つまり父親の父親と長いこと絶縁状態だった。なんだかんだとあって私の祖父が亡くなってから墓の世話や法事など、父親がお寺との付き合いを担うようになった。父親が、法事のマナーの本を買ってきたり、祖父の何回目かの法要で「今までこういうことをなにも知らずに生きてきたから……」とつぶやいたのを覚えている。
成人してから見た景色なので背丈は変わっていないはずなのに、初めて訪れたころよりお堂の天井や、まわりの飾りが近く、小さく感じられることに気づいた。いろんなお寺にお参りするようになって自分の見方が広がったせいかもしれない。そうして、私が引き継いだのだなぁ……とぼんやり考えていて、ふと気になった。
祖父は私が十九か二十歳のとき亡くなった。ということは、当時、お寺との付き合いを引き継いだ父親は五十八歳くらいだ。あれ?今の私より十二歳も上じゃん。
え。ちょっと待って。私ったら、父親より十二歳も若くして檀家を引き継いだの?え、え、待って。檀家どころか、お葬式の手配も、その後の手続きもぜんぶ私がやってるし、なんなら、父の生前の世話も私がやってない?え、父親より若いのに、父親がやってないことまでぜんぶやってるの?しかも、ひとりで?え。やば。私、やばくない?スーパーできる子ちゃんじゃん。うわぁ。ヒくわぁ。自分の有能さに、ヒいちゃうわぁ。
手を合わせながら父親に語りかける。私が娘で、本当によかったねぇ、お父さん。
宣伝です!
12月1日、ビックサイトで開催される「文学フリマ」に参加して、怖い話とかお看取り経験談とか本作りのヒントになるZINEとかを出品します。よかったら遊びに来てください。詳細はこちらからどうぞ!