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嚥下障害が治せなくて、何が言語聴覚士だ!!

強気なタイトルで申し訳ありません。半分は本音です。
2011年、日本人の死亡原因の第3位に肺炎が浮上しました。肺炎死亡者の9割以上が高齢者を占めており、これに加えて、加齢に伴って誤嚥性肺炎の発症率が上がるという報告もあります。これらのことから、今後もさらに高齢者の誤嚥性肺炎が増加することは容易に想像できます。そのため、誤嚥性肺炎の治療や予防のために嚥下リハビリの重要性が増してくるのも必然の状況といえます。

言語聴覚士は、嚥下のプロです。プロならば、知識をフル動員して評価し、訓練立案し、誤嚥性肺炎を起こさずに三食経口摂取や食事形態向上に繋げてほしいと思っています。

本記事では、大野木宏彰先生の著書を参考に、嚥下の土台からアプローチを行い、誤嚥性肺炎を起こさずに嚥下訓練を進める方法を紹介していきます。
 嚥下の土台を作る方法として、「他職種連携での少量頻回な口腔ケア」「起立ー着座訓練の導入」「栄養状態評価」について紹介します

嚥下の土台をつくる

高齢者に誤嚥性肺炎が増加しているのは、加齢や基礎疾患などで誤嚥が増えることだけでなく、低栄養やフレイル・サルコペニアといった全身状態の破綻によって、肺炎を発症しやすくなっているころが大きな要因です。高齢者の誤嚥性肺炎の治療や予防のためには、全身の筋力、姿勢、呼吸も重要です。
 誤嚥が必ずしも誤嚥性肺炎を発症されるわけではありません。誤嚥性肺炎の発症には、誤嚥物の量や質、核出能力、体力、免疫力などが複雑に関与しています。実際、VE検査時の誤嚥の有無と、検査後の実生活における発熱及びCRP判定は乖離していたとの報告もあります。
高齢者では夜間の唾液誤嚥などの不顕性誤嚥が少なくないと言われています。 
(著)大野期宏彰 誤嚥に負けない体をつくる関節訓練ガイドブック
         ~嚥下の土台からのアプローチ!~  より引用

つまり、誤嚥性肺炎の発症には誤嚥物の量や質が関係しており、高齢者においては、夜間の不顕性誤嚥が誤嚥性肺炎と関係している可能性もあるのです。誤嚥したとしても、バイオフィルムの入っていない綺麗な唾液を誤嚥した方が絶対的によいです。だからこそ、「口腔ケア」が重要です。
また、誤嚥性肺炎には、低栄養やフレイル・サルコペニアなどの全身状態の低下も関わっています。つまり、「起立ー着座訓練による全身の筋力向上」「栄養状態の評価と改善」が必要となります。


口腔ケア


何度も言いますが、口腔ケアの目的の1つは、口腔内環境の向上による誤嚥性肺炎予防です。この目的が達成されるのであれば、スポンジブラシでも、歯ブラシでも、歯間ブラシでも何を使ってもいいです。重要なのは方法ではなく、成果です。

 介助による口腔ケアを必要とする患者さんの多くは、程度の差はあれ口腔内乾燥を認めます。特に、経口摂取を行っていない患者さんは唾液に分泌が低下しています。口腔内乾燥があると、バイオフィルムが硬くなり除去をするのに時間と労力が必要になります。また、口腔内乾燥自体が、菌の増加を招いてしまいます。
口腔内乾燥を防ぐには保湿【加湿+蒸発予防】しかありません。
乾いたら負けと思って下さい。 

 では、どうやって保湿を行えばよいのか。
それは、「少量頻回の口腔ケアを行い、加湿回数を増やす」です。
(蒸発予防については、マスクを付けることが紹介されていました。しかし、呼吸が苦しくなる印象があり、患者さんによっては使わない場合も私はあります)

少量頻回の口腔ケアには、他職種の協力が必須です。私の勤務している病院では、PT・OT・NSに介入の度に口腔ケアをするように伝達し、きちんと行って下さっています。
それぞれの職種でケアやリハビリがあるにも関わらず、なぜ協力してくれるのか、
それは、準備から終了まで1分で終わる口腔ケアを提案しているからです。

他職種が行う口腔ケアの方法
「STが行う口腔ケア」と「他職種が行う口腔ケア」は、方法が異なります。他職種に行っていただくときには、画像のような口腔ケアシートを使っていただきます。

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口腔ケアウェッティー


これを指に巻き口腔内を拭いてもらい、簡易的に加湿とバイオフィルムの除去が行ってもらっています。つまり、他職種には、60点の口腔ケアを何度も行ってもらっているのです。

繰り返しになりますが、少量頻回が口腔ケアのミソです。どれだけ丁寧に行っても、1日2回しかケアを行わなかったら、次の日(もしくは当日中)には口腔内乾燥は起こっています。

ぜひ、口腔ケアシートを用いてスタッフ全員での口腔ケアを実現して下さい。

起立ー着座訓練による誤嚥に負けない体づくり


誤嚥性肺炎の治療や予防を考えるうえで、下肢を中心とした全身の筋力の維持・改善は、口腔へのアプローチに勝るとも劣らない重要性をもっています。それを実証しているのが、リハビリ専門医である三好正堂氏の「起立-着席訓練による嚥下障害の治療成績」の報告です。


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 誤嚥に負けない体をつくる関節訓練ガイドブック  より引用

脳卒中や肺炎患者に対するリハビリとして、「起立 - 着席訓練」を中心に行ったところ、運動機能や体力の改善とともに嚥下障害の改善や肺炎の治癒の促進・予防につながったというものです

起立 - 着席訓練とは、立ったり座ったりを繰り返す運動です。「立ち上がり訓練」や「起立訓練」とよばれたりします。
方法を説明します。

① 
椅子に座って前の手すりを持つ。

② 
前かがみになり、両側下肢に均等に体重をのせます。片麻痺の場合は非麻痺側下肢に体重をのせます。そして、一から五まで数えながら、3~5秒かけて立ち上がります。

③ 
立ち上がったら、一から五まで数えながら、3~5秒かけて座ります。これを繰り返す運動です。

1分間に6回のペースだと5分で30回になります。休憩をはさんで複数回のセットを行うことで、かなりの回数・運動量になります。
(具体的な回数は、PT・OTと相談しながら決めてください)

この起立 - 着席訓練の効果は、動作別の筋電図をみると一目瞭然です。下の画像(図4)は、それぞれの筋肉の動作中の筋活動量を筋電図で調べたものです。図4から、座位や立位、歩行よりも起立-着席訓練や階段昇降の方が全体的に筋活動が活発であることがわかります。

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誤嚥に負けない体をつくる関節訓練ガイドブック  より引用


図5は、片麻痺患者の頸部屈筋・伸筋、背筋、腹筋の動作中の筋電図で、健側と麻痺側の筋活動量を比べたものです。この図から、やはりギャッチアップ座位や座位保持訓練では筋活動量はわずかしかないこと、起立-着席訓練では頸伸筋や背筋の健側・麻痺側両方に強い筋活動がみられることがわかります。

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誤嚥に負けない体をつくる関節訓練ガイドブック  より引用

 以上のことから、起立ー着座訓練が、全身の筋力向上につながることはお分かりいただけたと思います。
 「濃いトロミを嫌がるため、誤嚥のリスクはあるものの薄いトロミで対応しなければならない時」や「認知症で口腔へのアプローチがむずかしい場合」などに、誤嚥に負けない土台づくりという面から嚥下リハビリとして起立-着席訓練を積極的に取り入れることは有益であると考えます。

栄養評価と改善

栄養状態の評価は、筋肉量、血液検査値、体重減少率、全消費エネルギー量と摂取エネルギー量のバランス、で評価されます。具体的な方法については、

「リハビリスタッフだからこそ 栄養評価をしよう」

で紹介しておりますので、ぜひご覧ください。


本記事のまとめ


 誤嚥を跳ね返す土台作りが、誤嚥性肺炎の予防には必要である。そのための対応は下記の三つである。
 ① 頻回な口腔ケアにより、誤嚥を起こしてもよい状態をつくる。
 ② 全身の筋力を高めるために、起立ー着座訓練を行う。
 ③ 栄養状態を評価し、低栄養であれば対応を行う。

次回は、摂食・嚥下の五期モデルに即した評価方法とそれぞれのアプローチ方法について記事を書こうと思います。

<引用文献>
機能解剖からよくわかる!「誤嚥」に負けない体をつくる間接訓練ガイドブック 嚥下の土台からのアプローチ   大野木宏昭 著

<参考文献>
成果の上がる口腔ケア   岸本裕充 著

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