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この世界にこの素敵な本があるということは、なんて素晴らしいことだろう ~ヨースタイン・ゴルデル著「ソフィーの世界」のこと

主人公はソフィー・アムンゼンという名前の14歳の女の子です。この女の子の元に、ある日どこかから手紙が送られてくるのです。その手紙にはたった1行、こう書かれていました。

「あなたはだれ?」

ソフィーはびっくりします。「あなたはだれ?」って、私はソフィーに決まってるじゃない!

やがてまた手紙が来ます。その手紙にはこう書かれていたのです。

「世界はどこからきた?」

ソフィーは自分宛に届いたこの謎の手紙に驚きます。一体誰が、どうしてこのような手紙を送ってくるのだろう?

そしてその謎よりももっとソフィーが頭を悩めてしまったもの、それこそがこの二通の手紙に書かれていたことだったのです。

「あなたはだれ?」
「世界はどこからきた?」

それはなんて当たり前の質問でしょう。そしてそんなこと分かりっこないに決まっている、なんてくだらない質問なんでしょうか。

その翌日、ソフィーの元にはまた手紙が来ました。だけど今度の手紙が違ったのは、たった1枚の紙ではなく、タイプでびっしり文字が打たれた大判の紙が3枚入っていたのです。

「すべての人に関心のあることなんてあるだろうか? だれにでも、世界のどこに住んでる人にでも、あらゆる人間に関係あることなんて、あるのだろうか? あるんですよ、親愛なるソフィー。その、すべての人間がかかわらなければならない問題をあつかうのが、この講座です」

そうして、ソフィーはどこかの誰かから送られてくる手紙を通して、「哲学」の歴史を学んでいくことになるのです。

いや、厳密には「哲学」だけではありません。この講座で語られるのは「数学」の歴史でもあるし、「科学」の歴史でもあります。要するに、「人類がこれまで考えてきたこと」の歴史です。

手紙の先生は言います。

「まさかソフィーは、世界をわかりきったものだと思っている人の仲間ではないよね? これは私にとって切実な問題なのです、親愛なるソフィー」

もしも今これを読んでいるあなたが「世界をわかりきったものだと思っている人の仲間」なのだとしたら、ここから先は読む必要がありません。またそのような人には、本書をおすすめしません。

でももしもあなたがそうでないのなら、僕はあなたに本書を強く強くおすすめします。

そしてもしも今この文章を読んでいるあなたがこんなことを考えていたり、考えていたことがあるのなら、その人にも本書を強くおすすめします。

「科学や数学を勉強して、一体なんの役に立つというのさ? 計算機使えばよくね?」

とか、

「学校なんて何で行かなきゃいけないの? 何で勉強しなきゃいけないの? 結局はたくさん金儲けした人の勝ちでしょ?」

なんてね。

というのは、僕自身がそんなことを考えているすごーく嫌な子どもだったから。

でも、そんな僕はこの本を読んで、初めてそれが間違いだったと気付いたのでした。

学校なんて、ずっと大嫌いでした。勉強だって好きでやったことはなかった。でもこの本を読んだ時、初めて僕は「勉強したい」と思えたのですね。

だって、ずっとずっと昔から多くの人が考え続けていた問題について知らないまま生きていくなんて、本当にもったいないじゃないですか。

でも、残念ながら僕が本書と出会ったのは、大学の4回生の時でした。そして、ちゃんと「哲学」を勉強しなかったこと、「科学」や「数学」を嫌だ嫌だと思って避け続けてきたことを後悔したのです。

「だけどこの世界の物質ってなんだろう? 何が数十億年前に爆発したんだろう? それはどこから来たんだろう?」
「大きな謎ね」
「この謎はわたしたちみんなに深くかかわっている。わたしたちもこの物質でできているんだからね。わたしたちは、何十億年も前にともされた巨大な火から飛び散った火花なんだ」
「そう考えるとすてきね」
「でも、大きな数なんかもちだすことはない。石ころを手にとってみるだけでじゅうぶんだ。宇宙がオレンジくらいの大きさの石だったとしても、やっぱり理解を超えているだろう。この石はどこから来たのかという問題は、同じようにむずかしい」

もちろん、本書を読んだからといって「哲学」が分かるようになるわけではありません。ただ本書を読めば、人類というものがこれまでいかに多くのことを考えてきたのかという「歴史」を知ることができる。

その意味では、本書は正に最適の「哲学の入門書」と言えるでしょう。でもそれは、本書を読めば「哲学が理解できる」ということではありません。そんなことを望む人は、「世界をわかりきったものだと思っている人の仲間」です。

だってそもそも「哲学」というのは、「理解できないことにちゃんと向き合う」ということなのですから。

本書を読んで「分かる」ことよりも、本書を読むことで始めて実感する「分からなさ」の方が、ずっとずっと多いでしょう。

でも、それこそが本当に大切なことだと僕は思うのです。 



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