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掌編小説 虹色のカラス


 かつてカラスは七色だったんだ。人間が生まれるずっとずっと前の話だけどね。

 その頃、カラスは赤や青、白に黄色とさまざまな色の羽を持っていた。カラスにとって色彩は豊かさの象徴だったんだ。彩り豊かなオスはメスを魅了した。メスは美しいオスと愛し合い、より美しいカラスを生んだ。そうして美しいカラスはその数を増やしていったのさ。

 虹色のカラスが空を飛んでいた頃、世界はカラスのものだった。カラスは空を飛べたし、何よりも知性を持っていたからね。だからカラスたちは思った。この世界は自分たちのためにある、と。なぜならカラスこそがこの世界で最も美しく、また賢い生き物であるから。

 そして知性とは向上心のことでもあった。カラスたちはもっと上を、もっと美しくなることを目指そうとしたんだ。だからカラスたちは互いに互いの姿について意見を言い合った。お前はもっと赤が多い方がいいとか、お前の青は澄んでない、とかね。

 ところが、そんな中に一羽だけ、黒いカラスが生まれたんだ。黒いカラスは他のカラスたちと違って、自分が好きな色が何かを知っていた。黒いカラスは、黒が好きだったのさ。ほかのどんな色よりも。だから彼は黒で居続けた。カラスは自由だと信じていたからね。知性あるものは皆、本質的に自由なのさ。

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