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短編小説 光
蜘蛛という生き物について、君はどう思うだろうか。あんまりいい印象は持たないかもしれない。そうだよね、僕だってそうだ。
まあ、そもそも僕が、その蜘蛛なんだけどさ。
ある日のこと、仕掛けた罠に一匹の蝶がかかっていたんだ。それはそれは美しい羽を持った蝶だった。
そのとき、不思議な気がした。僕は自分の糸がその蝶の羽に絡まっているのが許せなくてね。せっかく仕掛けた罠だったけど、自分で糸を切ったんだ。
そしたら、蝶は慌てて飛び立ったよ。そりゃそうだよね、きっと僕に食べられると思ったんだろう。実際、僕は蜘蛛だからね。これまでもたくさん蝶やハエたちを食べてきたから。
そのとき、僕は気づいてしまったんだよ。ああ、僕は、生き物を殺して生きているんだって。彼らだって殺されたくはないよな。僕だって誰かに殺されるのは嫌だもの。
それから僕は、なんだか虫を捕まえて食べるのが嫌になってしまったんだ。そんなことをしてるから、僕にはあの蝶のような美しい羽がないんじゃないかって、なんか、そんな気がして。
そしてあの日から僕は、空を飛びたいと思うようになった。あの蝶のように美しい翼で、自由に空を飛び回りたいって。
だけど、そう心で思っているだけで、それからも僕はいつも通りの日々を続けたんだ。やっぱり糸を吐いて、罠を仕掛けて、そして、ハエや蚊や、ときには美しくない蝶を食べた。僕は蜘蛛以外の何者にもなれなかった。
そんな獲物たちの中に、ちょっと変わった奴がいてね。そいつはミミズだった。僕が近づくと、そいつは空を見上げた。
何してるんだって訊ねると、ミミズは言ったんだ。「祈ってるのさ」って。
「だって俺はこれからあんたに殺されるのだろう。だから天の神に祈ってる」
「神は天にいるのか」
「そうさ、そして俺たちは死ぬと天に行くんだ。これまでたった一回でもいいことをしたものは、ずっとそこにいられる。だけど、そうじゃないものは、またこの地面に落とされる。あんたはきっと、天国には行けないだろうな。あんたみたいな醜い蜘蛛は」
僕はそのミミズを食べながら考えた。ミミズは言ったんだ。たった一回でもいいことをしたものは天国に行けるって。だったら僕も天国に行けると思った。だって、僕は一度、あの美しい蝶を助けたことがあったから。
それから僕は、どうやったら死ぬことができるのだろうかと考えた。そうして、まずは食べることをやめることにしたんだ。そうすればいずれ死ぬことができるし、それに、食べることをやめれば、あの美しい蝶に近づけるような気がした。蝶はきっと、蜘蛛のようにほかの虫を食べたりはしないから。
だけど、体は頭とは違う。いくらもう何も食べないぞ、と強く決意しても、僕は罠を仕掛けることをやめることができなかった。体が言うことを聞かないんだ。
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