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人類史上最も人の悪口を言った男 ~ ラ・ロシュフコー著「運と気まぐれに支配される人たち」のこと

「これほど、徹底して皮肉に、意地悪く、人間の悪口を言い続ける本は珍しい」

本書の訳者がはっきりとそう断言するこの本。

作者であるラ・ロシュフコー公爵は17世紀のフランスの貴族として生まれました。彼がその生涯で残した本はただ一冊、それがこの「箴言集」です。

「箴言」とは、17世紀のフランスのサロンで流行した知的遊戯の一つで、出来るだけ短い文章で人間の心情を描写する、というものです。

とりわけ公爵の箴言はその生来の性格の悪さからなのか、人間の行動や心情をチクリと突き刺すキレ味がたまりません。

本書を愛した作家は数多く、フランスではラ・フォンテーヌ、ヴォルテール、フローベールなど。国外でもジョナサン・スウィフトからショーペンハウエル、ニーチェ、日本でももちろん愛好者は多く、芥川竜之介や山田風太郎がその枕頭の書としたと言われています。

ていうか公爵が好きな人ってみんな一癖も二癖もありそうな人たちばかり。親戚にいたら面白いけど、決して家族にはなりたくない人たちばっかりですね。

まあ、この本の紹介はこれくらいにして、ここからは僕が好きな箴言を皆様にご紹介いたしましょう。

まずは、公爵による女性たちへの悪口から。

「女の貞淑とは、たいていの場合、後ろ指をさされまい、平穏な生活を壊すまい、そんな気持ちの現われなのだ。」
「たいていの女の賢しさは、理性よりも、狂気を強めるのに役立つ。」

もう、絶対モテなかったでしょうね。この人は。だからでしょうね。愛し合う恋人たちへも辛辣です。

「恋人同士がずっと一緒にいて、ちっとも退屈しないのは、自分たちのことばかり喋っているからだ。」

嫌な人ですねえ、この人は。友達もきっといなかったのでしょうね。

「まことの親切くらい、稀なものはない。親切なつもりの人々が、ふつう持っているのは、ご機嫌とりか、気の弱さか、そのどちらかにすぎない。」
「たいていの人には、あまり親切にするより、悪いことをする方が、危険は少ない。」

うん、とりあえず僕は友達にはなりたくないわw

公爵は女性や恋人たちだけでなく、若い人のことも嫌いなようです。

「垢抜けもせず、粗野だというにすぎぬのに、若者のたいていは、それが純粋さのつもりでいる。」

その一方、老人たちのことも嫌いなようです。

「老いを、弁えている人は、少ない。」

そもそも公爵、こんなことを言っちゃう人ですからね。

「われわれは皆、他人の不幸には耐えていく力を持っている。」
「われわれに、全く欠点がなかったら、他人の欠点を見つけて、こうも嬉しくはならないのだが。」
「われわれに、全く自尊心がなかったら、他人の自尊心が気に障ることもないのだが。」

イヤだわー。付き合いたくないわー。この人とは。

でも、公爵がもし現代に生きていたら、やっぱり合コンとか行くんでしょうかね。

どうしても人数がそろわなかったら、呼ばれることもあるかもしれません。

……ちょっと想像してみましょうか。


コント:公爵と合コン

とりあえず人数合わせのために仕方なく呼んだけど、頼むよ、公爵! 余計なことは言わないでよ!

そんなこんなで合コン会場。公爵の隣にはナチュラルメイクのかわいい女性が。

しかし公爵は、言ってしまうのでした。

「素朴らしく振る舞うとは、いかにも手の込んだ詐欺である。」

やばい、女の子、顔が引きつってる……。でもいい子だね、あの子。公爵と話弾んでるみたいじゃん。なのに「えー!すごーい!」なんて言う女の子に向かって、公爵はまた、言ってしまうのでした。

「人は、ふつう、誉めてほしいから、誉めるのだ。」

……やっちゃったよ。怒って帰っちゃったよ。どうすんのさ、公爵。

ということで残された男たちで反省会。というか全部公爵のせいじゃん! 明らかに!

しかし公爵は、言うのでした。

「われわれは、いちがいに、自分には全然欠点がない、相手には全然美点がない、とはさすがに言いかねる。だが、一つ一つの美点欠点を比べていけば、だいたいそれに近いことを思っていることになる。」

ん? なんだ? 俺は悪くないって、そう言いたいのか?

「清廉、誠実で、礼儀正しい振舞いが、はたして、誠意の現われなのか、抜け目のなさなのか、判断するのは難しい。」

難しくねーよ。ちょっとは礼儀正しく振舞えよ。反省しろよ。

「われわれが自分の欠点を告白するのは、他人の心に刻み込まれた悪印象を、素直さによってすり替えるためだ。」

すり替わらねーよ! お前バカなの? そうなの?

「馬鹿なこともせず生きている者が、自分で思っているほど、賢いわけではない。」

なんだとこら! もう一回言ってみろ!

「自分に対して賢いより、他人に対して賢い方が、簡単なのだ。」

てめえ、もう許さん! 表出ろ!!!

「悪いのが片一方だけなら、喧嘩も長続きはしないのだが。」

片一方なんだよ! お前だけが悪いんだよ!!

あーあ、こんなはずじゃなかったのになあ。この合コンで彼女をゲットして、幸せになるはずだったのになあ。

「われわれは、幸せになるためよりも、幸せだと思わせるために、心を砕いている。」

いやもう、どっちでもいいわ。みんな、ゴメンな。こんなやつを連れてきた俺がバカだったわ。

「われわれが自分の欠点を告白するのは、他人の心に刻み込まれた悪印象を、素直さによってすり替えるためだ。」

それさっき言ったわ! 同じこと二回言うな! てめえ、やっぱりぶっ殺す!!

でも、もういいや。今度また合コンやろうぜ。今度は公爵は抜きで。そしたらきっとうまくいくから。

「われわれは、希望という奴に一杯食わされどうしだが、それでもやっぱりこれに案内されて、楽しい道を歩み、人生の終点にたどりつく。」

いや、大丈夫。俺たちだけなら大丈夫だって。

「たまに自惚れることでもなければ、この世にそう楽しいこともあるまい。」

てめえ、やっぱり表出ろ!

あれ、ちょっと、「お前ら二人、なんだかんだで仲いいじゃん」って、そんなことないよ! 「今度はあいつら二人とも抜きでやろうぜ」って、待って! 待ってくれえええええ!!

取り残された二人。公爵はニヤリと笑って、こう言うのでありました。

「隣人の没落は、その友人にも、敵にも、おもしろいのだ。」

……という感じのこの本、あなたの枕頭の書にも、いかがですか? 


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