いったいなにを考えているんだ。 ~宮沢章夫著「考えない人」のこと
2002年のことになりますが、新潮社から「考える人」という雑誌が創刊されました。
僕はこの雑誌を本屋で見かけるや、「あ、これは好きな雑誌に違いない!」と思ってすぐさま購入して家に帰ったのです。
一番の目当ては後に「ぐるりのこと」として出版された梨木香歩さんのエッセイだったのですが、この雑誌を読みながら、あるページで僕の目は釘付けになってしまったのです。
それが宮沢章夫さんの「考えない」というエッセイだったのでした。
「考えない、だと! まさか!! この雑誌、『考える人』なのに!!」
そこで僕はしばらく考え込んでしまったのですが、とにかく読んでみないと始まりません。
宮沢さんは、言うのでした。
さらに宮沢さんは、こんなことを言うのでした。
さて、そんな感じで宮沢さんは、ありとあらゆる「考えない」ことについて考え始めるのです。
たとえば奈良の大仏を観に行って、思わずこう呟いてしまう人。
「でかいなあ」
でかいさ。当然じゃないか。「大」仏なのだから。でも、そんなことは分かっていても、ついそう呟いてしまう。なぜか。
考えていないからです。
とある日の新聞記事。
パチンコ店内、バイクで激走!
3万円負け「むしゃくしゃ」
「むしゃくしゃ」ってなんだ。パチンコで負けて「むしゃくしゃ」するのはまだ分かる。でも、どうしてそこで「店内をバイクで激走」するんだ。そうしたら「むしゃくしゃ」が晴れるのか? いや、晴れない。なにを考えているんだ。
なにも考えていないのです。
インターネットの「教えて!goo」に投稿されていた質問。
「コピーガードがかかったDVDでもコピーするソフトって売ってるのでしょうか?」
違法だよ。答えられるわけないじゃないか。なにを考えているんだ。
なにも考えていないのです。
とあるバンドのメンバー募集。
「シンプルなROCKをいかに日本語でかっこよくキャッチ―にやるかで勝負してます」
これはもう、なにも考えていないのです。
そんな感じで「考えない」ことを考え続けたこのエッセイは、季刊とはいえ2002年から2010年まで続くことになるのです。
まさかそんなに続くとは、宮沢さんも考えていなかったでしょう。
「考えない」と言い続けた宮沢さんは、図らずも「考える人」誌上もっとも「考える人」となったと言っても過言ではありません。
ただ、宮沢さんは、「考えなくてもいいことを考える人」だったのでした。
ちなみに、本書には「考えない」のほかに、「がけっぷちからの言葉」「今月の書き出し」「プログレッシブ人生と、自己責任」というエッセイも含まれています。
それらをレビューすることについては……あ、なにも考えていませんでした。 ごめんなさい。
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