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【2022年振り返り】 良かった本/Best Books of 2022

2022年は92冊の本を読みました。
その中で特に良かった10冊+αを紹介します。

振り返り…
2022年は小説やエッセイを中心に読み、特に海外短編小説で良い作品に出会えました。ビジネス書以外を意識的に読んでいく中で、今は個人の日記や書簡、市井に生きる人々を描いた群集劇のような「自分とは違う」「同じ世界で生きる人びと」を感じられる作品に惹かれ始めています。


1.『円 劉慈欣短篇集』 劉 慈欣

『三体』の劉慈欣による自選短篇集。収録されている13篇はバリエーションに富み、中国SFの壮大さに圧倒された。(どの作品も面白かったが)特に今思い出すのは、架空の貧しい国であるシーア共和国とアメリカとの二国のみでオリンピックによる“代替戦争”が開かれる「栄光と夢」。皮肉的な話であったが、回想と幻と現実を行き来しながら走るマラソン選手の少女が鮮烈な印象的だった。

2.『クララとお日さま』カズオ・イシグロ

病弱な少女ジョジーに買われたAF(人工知能フレンド)クララ。自分を求める子どもが来るまでひたすら待ち、迎え入れられ、最期を迎えるまで、そのストーリーはクララの目線で展開する。
純真無垢さによるおとぎ話のような平易な語りと不穏な空気漂う未来舞台という組み合わせの歪さを常に片隅に感じながら読み進ねた。だがやがて非合理的とも思える「信仰」や「祈り」のまっすぐな希望がそのすべてを包み込んで、美しく穏やかな光が見えた作品。

3.『消失の惑星』 ジュリア・フィリップス

カムチャッカ半島で起こった幼い姉妹の誘拐事件をきっかけに、そこから各月ごとに異なる主人公の女性が語る11ヶ月の人生の物語。
彼女たちの共通点は「幼い姉妹が誘拐されたという事件を知っている」ということだけだが、全員が性別や民族による差別、格差、それらが常に身の回りを覆う閉塞感を感じながら生きている。「なぜいつもわたし(たち)が…」と夢も希望も消え失せる世界の中で、終盤に向かい突如大きなうねりを見せ物語が展開し始める構成が良かった。

4.『正欲』朝井 リョウ

「自分に正直に生きよう。そう言えるのは、本当の自分を明かしたところで、排除されない人たちだけだ」(本文より)
共通言語となってきている「多様性」という言葉に対して、私たちの想像力の浅さや無垢な故の邪悪さにアグレッシブに切り込んでいる作品。すべてをオープンにして見せ合わなければいけないのだろうか。みんなそれぞれなんとかやっていて、どうにかうまいことやっていけないものだろうか。読んでからもずっと考えている。今、読んで良かった。

5.『N』 道尾 秀介

6章ある話の読む順番を自分で決めることができるという実験的な小説。
例えば、ある人物が亡くなる話を読んだ後に前日談としてその人物が楽しげに暮らしている話を読むのと、楽しげに暮らしている話を読んだ後にその人物が亡くなるのとでは心の中の「悲しい」の出来上がり方が違う。順番(数字)は自分で選べるが、読むまで内容はわからないのでどう感じたいかは自分では選べない。正解があるわけでもないその結果がどうであったかは判断できない。誰かと語りたくなる読書体験だった。

6.『フィフティ・ピープル』チョン・セラン

大学病院を中心舞台に約50名の登場人物の物語を各人物ごとに章立てした連作短編集。
バラバラな人生に見えるが、それがパズルのように組み合わさると「社会」という1枚の絵柄になっていく。1人だいたい10ページ以内と短めだが、50人(正確には51人)の中に共感する人物を見つけたり、お気に入りができたり、今出てきた人は前に読んだあの人か?と前に読んだページをいったりきたり…とじっくり味わいながら読んだ。道端ですれ違う人にも電車で隣に座る人にも名前と語るべき人生がある、そうゆうことを愛しいと思わせてくれた良作。

7.『観光』ラッタウット・ラープチャルーンサップ

タイ系アメリカ人作家によるラッタウット・チャルーンサップの短編集。
貧困、階級制度、難民、介護など社会題材をテーマとして扱っている。(テーマだけ見ると重い印象だが)ままならない世界で生きる人々の怒りや悲しみが生命力から溢れ出す強い光とともに熱気に乗って運ばれてくる感覚に、若い頃にタイを旅していたときの景色が蘇り胸が沸き立った。2022年に読んだ中では一番出会えて嬉しかった作品。他の作品も読みたい。

8.『イリノイ遠景近景』藤本 和子

『西瓜糖の日々』を始めR・ブローティガン作品の名翻訳で知られる藤本和子さんのエッセイ。
アメリカのイリノイ州で広大な畑に囲まれた家に住み、翻訳や聞き書きをしてきた藤本さんが様々な背景をもつ人と会って、話を聞き、考えた中で「住処」をテーマとしてまとめている。著者あとがき曰く、その「住処」とは思想であり、時間であり、記憶である。また人々と結ぶ関係も、行いもそうだという。読書中に何度も「なんでこんな言葉(言い回し)が出てくるの…!」とカッコよさに痺れまくった。

9.『優しい地獄』イリナ・グリゴレ

社会主義政権下のルーマニアに生まれ、その後日本に渡り人類学者となった著者の半生を綴ったエッセイ。
別で読んだインタビューで著者が「最初から、これはルーマニア語では書けないだろうなと思っていました。私、子供の時の出来事を本当によく覚えているんです。脳みその中で細かいところまで映像を再生するように」と語っていたが、母国語ではない日本語で書かれたルーマニアでの幼少期のエピソードは美しい映像を見ているようだった。

10.『庭とエスキース』奥山 淳志

写真家・奥山さんが北海道の小さな丸太小屋と糧を生み出す美しい庭で自給自足の生活を営む「弁造さん」と交流した14年の記憶をたどりながら、
“生きること”と他者への想いを綴ったエッセイ。
弁造さんは誰かにとっては面倒な人かもしれないし、興味から外れる人かもしれない。だけど奥山さんの視線には、写真家として触れてみたいと切望した”生きること”を見せてくれた弁造さんに対する敬虔な愛情を感じた。

番外  『読む時間』 アンドレ・ケルテス

写真家アンドレ・ケルテスが1915年から1970年まで世界各地で撮影した「読む」ことに心を奪われた人々の姿を集めた写真集。
老若男女誰ひとりカメラを向かず、全員「読む」というとても個人的で孤独な行為に集中している。その孤独な行為と彼らが感じている喜び(楽しい内容を読んでいるとは限らないが夢中で読むことは一様にして喜びがある)への共感があり、見ていて幸せになった写真集。

番外  『月の番人』 トム・ゴールド

スコットランドのイラストレーター、トム・ゴールドのSF絵本漫画。
主人公は憧れた月のコロニーの安全を守る警察官になった。しかし、いつしか月も過疎化が進み、事件らしい事件はなにひとつ起こらない。今日もまた月の暮らしに飽きた人々は1人また1人と地球に戻っていく…。
たくさんあったものは少しずつなくなっていったあとの静かな世界、すぐ動かなくなるポンコツのロボット、毎日のドーナツとコーヒー…。作品の温度と静かさの音域が好みだったので、今年一番読み返した作品。
今年読んだ漫画の中では『プラネタリム・ゴースト・トラベル』(坂月さかな)も好きで、紺青と宇宙に惹かれた年だった。

その他

上記以外の印象に残ったものです。
全体的にという点では上記がベスト入りしましたが、ここでは
ひとつの言葉、ひとつの文章、ひとつの感情に心が動いたものを選びました。

●(小説)『容疑者の夜行列車』多和田 葉子
●(小説)『いつも彼らはどこかに』小川 洋子
●(小説)『くるまの娘』宇佐見 りん
●(小説)『新月の子どもたち』斉藤 倫
●(小説)『供述によるとペレイラは…』アントニオ・タブッキ
●(エッセイ)『美しいってなんだろう?』 矢萩 多聞/つた
●(エッセイ)『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』 小原 晩
●(エッセイ)『ブルースだってただの唄』藤本 和子
●(エッセイ)『Neverland Dinner 二度といけないあの店で』都筑 響一
●(往復書簡)『往復書簡 ひとりになること 花をおくるよ』 植本 一子/滝口 悠生
●(短歌)『あなたのための短歌集』木下 龍也
●(社会)『言葉のズレと共感幻想』 細谷 功/佐渡島 庸平
●(社会)『実力も運のうち 能力主義は正義か?』マイケル・サンデル
●(社会)『思いがけず利他』 中島 岳志
●(心理)『野の医者は笑う 心の治療とは何か?』東畑 開人

以上、2022年の良かった本でした。

2023年もたくさん読みます。


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