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都知事選での候補者掲示板が営業販売されている 公正な選挙との関係は?

権限行使は義務の実行でもあるはずだ。
実施中の東京都知事選。56人が立候補している。当選者は一人だから、大変な競争率である。しかも事前に有力候補はマスコミ等で”事前選別”されているから、ほとんどはいわゆる泡沫候補。得票数が足りずに供託金300万円が没収される。

ところが今回は候補者用掲示板を「自己宣伝」の場とする者が現われた。というよりも選挙掲示板という公共スペースを営業として売り出す事業者が現われた。国政政党の一つ「NHKから国民を守る党」であり、24人を立候補させて掲示板スペースを確保し、その枠を同党に寄付した人に掲示の権利を売り渡すというのだ。買った人は選挙とは関係なく、自身の今後のビジネスなどの思惑で自作ポスターを貼る。

これについて新聞(読売6月22日)はこう書いている。ーー候補者とは無関係なポスターが大量に貼られたり、QRコードで有料サイトに誘導するポスターが掲示されたりしているからだ。都選挙管理事務所には苦情が殺到し、有権者からは「子供に見せたくない」「法律で規制できないのか」と批判の声が上がった」。ーーしかし、都選管の担当者は「公職選挙法にただちに抵触するものではないため、選管では対応できない。警察の対応を見守りたい」(同紙)と他人事である。

厳密に公職選挙法に触れるのか否か。そんなことは裁判になってみなければわからない。だが、同法の運用責任は選管にあるはずだろう。「警察の対応を見守りたい」では責任放棄ではないのか。ボクが警察幹部だったら「選管の判断をまず伺いたい」と問い合わせるだろう。
この選管の対応には、先般4月の衆院補選での東京15区での騒動に共通するものがある。極悪の選挙妨害に対して「先例がない」として放置した。
 
わが国は立憲国家。法律の前に憲法がある。その憲法前文(憲法の精神を要約している最も重要な部分)のしかも第一文で「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し…」となっている。日本の民主政治をまともに機能させるうえで最重要なのは「正当な選挙」であるとしているのだ。4月の衆院補選では「つばさの党」の候補者が、他候補者の演説が徴収に届かないように大音声で罵声で妨害した。これでは「正当な選挙にならない」として、今になってようやく同党一派への捜査送検手続きになっている。選挙の結果が出てからでは遅すぎると国民は大批判である。

都選管はそれに懲りていないのだろうか。内閣の林官房長官は掲示板を「候補者以外の者が使用できるものではない」と21日の記者会見で述べたという。いわゆる「遺憾砲」だが、空砲では効果がない。具体的にどう対応するのか。都選管がシャキシャキしないなら、総務大臣を通してこうせよと指導させるべきだろう。「表現の自由」などの批判はあろうが、それらの人権は民主主義が機能していてこそ保証される。「今の中国やロシアのようにしないためには”公正な選挙”が必要であり、そのために火の粉を浴びても問題の芽を取り除く」と宣言し、閣内調整するのが官房長官の使命のはずだ。
官房長官も都選管もひょっとしたら憲法の冒頭部分すら読んだことがないのではないか。国務大臣その他の公務員には憲法尊重擁護義務がある(99条)。掲示板には候補者の政見関連以外を載せてはならない。官房長官が言うとおりであり、選管がそう言い切れば済む話だ。それで事後にNHK党から訴訟を起こされれば受けて立つのが公務員の気概だろう。憲法の「正当な選挙」の精神を、下位で公職選挙法によって矮小化しているだと勝手に委縮解釈する公務員(都選管職員)には職を辞してもらうしかないと思う。憲法15条1項で「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」となっている。そして憲法は国民主権のその基本に据え、方法論として「公正な選挙」を挙げている。この点については政策論争の題材にはならないのである。
立憲主義を透明掲げる政党を含め、”民主主義”を党名とする政党が多く、その議員数は国会議員の圧倒的多数を占める。にもかかわらず民主政治の根幹である”正当な選挙”について明確な態度を取れないのはどういうことか。
今後、国会開会式等では憲法前文の斉唱を儀式化することすら必要なのではないか。それに公務員に国語の検定受験義務を負わせるか。


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