水族館に畑が登場!?「アクアリウムファーム東京」
水棲生物を飼育展示するプロ「サンシャイン水族館」と農業のプロである農家が在籍する「一般社団法人 Iwakura Experience」が協同し野菜の栽培と魚の飼育を目指すプロジェクト「アクアリウムファーム東京」を担当する株式会社サンシャインエンタプライズの、靏見さん(アクアゲストコミュニケーション部 魚類チーム)と、今井さん(カスタマーコミュニケーション部 特別展チーム)にお話しを伺いました。
「アクアリウムファーム東京」ってどんなプロジェクト?
ーー水族館で新しいプロジェクトがスタートしているとのことですが、具体的にどのような内容ですか?
今井
「アクアポニックス」という技術を使い、魚を育てながら野菜も栽培することに挑戦しています。 「アクアポニックス」は、水耕栽培と水産養殖を掛け合わせた循環型の農法の一種で、環境配慮に優れた次世代の農法として注目されている技術です。具体的には、水槽で飼育される魚の排泄物を水中の微生物が分解し、それらを植物が栄養として吸収することで、浄化された水が再び水槽へ戻るという、資源循環の仕組みを利用するものです。
ーーまるで自然界の縮図のようですね!どんなきっかけで、プロジェクトがスタートしたのですか?
今井
水族館はお客さまにとって学びの場でもあり、何か新しい発見を提供したいという思いを持っている中、生き物と植物を共に育てるという「アクアポニックス」という技法があることを知り、 お客さまにも紹介できたらいいなという思いからスタートしました。ただ、私たちは魚の飼育をする能力はあっても、植物を育てることは素人。どうしようかと思っていたところ、東京都⻘梅市で農業や自然の魅力を発信している一般社団法人 Iwakura Experience さんとの出会いがあったんです。互いの強みを活かして情報を共有しながら研究していこうと、共同プロジェクトが立ち上がりました。
靏見
サンシャイン水族館を運営する株式会社サンシャインエンタプライズ内で企画に賛同した有志のメンバーによって運営しています。私は取り組みについて初めて聞いたときに、これは面白そうだなと思って参加することにしました。担当している生物のなかにも、水草などを食べる魚もいたので、水族館の展示として実現できたら面白い発信ができるなと。普段はこのような企画には積極的に参加するタイプではないんです。でも、今回は飼育員として、できることがたくさんあるかもしれないと思いました。
驚きや新しい発見が、興味の幅を広げてくれる。
ーー外部と連携してそれぞれの強みを補完するようなプロジェクトなんですね。初めての取り組みで苦労したことはありますか。
今井
お互いの環境が異なるなかで、魚を飼育する技術を教えるというのは、難しかったですね。水温が1度違うだけでも体調を崩してしまう生き物もいますから。また、私たちのほうでも、植物を育てる難しさを実感しています。限られた空間で水族館を運営しているので、水槽を置く場所が難しいんですよね。最初は半屋外スペースに設置していたのですが、夏にかけてうまく育たなく なって。事務所に場所を移したところ、徐々に育つようになって。原因がわからなかったなかで、 温度管理が大切なのかなというのが分かりました。そして、この事務所で育成ができるのなら、水族館の館内でも可能だという発見も。
靏見
事務所に水槽を置いたことで、これまで直接的にあまり関わりのなかったようないろんな部署の方が見にきてくれるようになって、コミュニケーションが増えたのも嬉しかったですね。
今井
この魚、野菜を食べるんですよって言うと、社内でも「え!魚が野菜を食べるの!?」という驚きの反応があるんですよ。
ーー「アクアポニックス」の水槽を通して、社内でも新しい気付きが!今後は、教育面でも生かしていけるようなプロジェクトになりそうですね。
今井
はい。最初はやはり“見る”ことが興味につながると思うんです。ですから、自分たちはどんどん発信していかなくては!と思います。
目標は水族館で自給自足!
ーー今後「アクアリウムファーム東京」はどのように発展していくのでしょうか?
靏見
水族館では魚のほかにも、リクガメやイグアナ、カエルも展示しているのですが、実は餌となるコオロギも飼育しています。今はコオロギの餌は買ってきた野菜なのですが、それが水族館で育った野菜を使えたらいいですよね。また、野菜を食べるメチニスという魚の水槽の近くに「アクアポニックス」の水槽を設置しておいて、育った野菜をメチニスに給餌ができたら。こんなふうに、水族館の中で自給自足的な仕組みができたら理想ですね。農薬も使っていない自分たちが育てた野菜で育てられたら、すごくいい仕組みになると思っています。また、現在はお客様に知ってもらうための水槽をテスト的に展示していますが、今後は、水族館のプログラムや教育プロジェクトの取り組みとしても活用できたら嬉しいですね。
ーー自然界のなかにある循環について知らない方も多いなかで、SDGs 的な視点からも、たくさんの方が訪れる水族館という場所での展示はとても有効的ですね。
今井
そうですね、地球温暖化やゴミ問題など、いつになったら解決するのか見通しのないなかで、それでも今、何もしないのではなく1 人でも多くの人に、環境についての現状を知ってもらい行動に移してもらうきっかけになれたらいいですね。
ーー「アクアポニックス」もきっかけのひとつですね。今後、挑戦してみたいことはありますか?
今井
家庭でもそうですけど、どこでも絶対に出るのは生ゴミなんですよね。そこで、コンポストを使ってゴミの量を減らし、ゴミを燃やす燃料も減らし、できた土で野菜を育てられたらいいなと。 サンシャインシティグループ全体でできたらとても大きいですよね。
靏見
水族館は、魚の餌などの生ゴミがいっぱい出ますし、サンシャインシティ内の飲食店とも協力できたら活動の幅が広がりますね。今は育ててはいないのですが、ウニも野菜を食べるんですよ。 サンシャインシティで育てたウニを食べよう!というようなイベントができるかもしれませんね。
今井
サンシャインシティ全体が循環しています!と言う感じですね。これからも外部の皆さんとも繋がりながら、SDGs を追い風に、サンシャインシティの取り組みをお客さまにも広げていけたらなと思います。
一般社団法人 Iwakura Experience 代表 本橋 大輔さんからのメッセージ
私たちは東京の⻘梅市にある岩蔵温泉で、地域の魅力を発信する活動を農家と連携するなどして行っています。観光の目玉として「アクアポニックス」を活用できないかと考えましたが、まだ日本では周知されていない技術ということもあってノウハウが不足していました。そんななかで、魚の飼育に関してはプロのサンシャイン水族館さんのアドバイスがとても参考になりました。具体的には水質の状況や魚の健康状態などです。一時、白点病が蔓延したときには的確なご指導をいただきました。SDGs の観点から見ても、「アクアポニックス」は次世代のサステナブルな農業だと思います。魚と野菜のプロである私たちが取り組むことに大きな意義があるのではないでしょうか。岩蔵では「アクアポニックス」を体験できるツアーもご用意しています。 ぜひお越しください!