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フォースプレートによる床反力計測#6 〜ゴルフスイングにおける床反力の伝達#1〜

復習

マガジン「身体運動におけるパターン形成」の第4章「ゴルフスイング」

にて,ゴルフスイングにおける主として腕とクラブの運動パターン形成について述べた.スイングの前半は,腕とクラブを一体化することで回転する.そしてスイング後半に,腕の回転を少し緩めることでクラブの遠心力による自然な回転を促すことで,腕に対して相対的にクラブが回転し始めることを述べた.

このスイングの加速原理がゴルフスイングの運動を強く拘束しているが,この両腕の回転の動力源の確保が重要となる.エネルギーを効率よく供給するできなくては望みのスイングを実現できない.

図1:腕とクラブの一体化によるスイング

また,本マガジン「フォースプレートによる床反力計測」の第4章「身体側から見た床反力の物理的意味」

で,身体が床とだけ接しているとき,並進の運動方程式では「全身にとって床反力だけが唯一の外力」であり,その「床反力は身体重心の加速度によって決まる」ことを述べ,このことからスイングの動力源も床反力である.

図2:床反力が身体にとって唯一の外力

すると,ゴルフスイングにおける課題は,「身体重心の運動(加速度)で床反力を生成」しつつ,「その床反力を両肩やゴルフクラブに伝達」するということを同時に行う必要がある.そこでここでは,この動力源の床反力をゴルフスイングにどのように結びつけているか,調べていく道筋について述べていく.

これはゴルフスイングに限らず,歩行やランニングを含めて,多くの運動に当てはまる.

ゴルフスイングに必要な力

前節の復習で説明したように,スイングの動力源は腕の回転を生み出す肩関節まわりのトルクで,さらにその動力を腕からクラブに伝達するために,ストッパー的な役割を果たす手部まわりのトルクも,スイング前半で重要な役割を果たす.

そしてそれらのトルクによるエネルギーの大半は,「自然な回転」が始まる前のスイング前半に肩から腕,さらにはゴルフクラブに流入する.したがって,スイング速度はほぼ,自然なアンコックの開始前までのスイング前半のエネルギー流入でおおよそ決まってしまう.つまり,スイング速度の大きさは自然な回転が始まる前のかなり早い段階で決まっている(図3).

図3:自然なアンコック開始までのスイング前半

また,二重振り子モデルでは腕は一つの振り子として扱われるが,実際には両腕で腕の振り子を形成しているため,その肩関節のトルクは,右肩と左肩に作用するペアの反対方向を向くペアの並進の力による偶力によって生成されている.

図4:偶力

偶力については,

補足7を参照いただければと思うが,図4に示すように,異なる直線上に並んだ反対向きで同じ大きさの力の組み合わせを偶力(force couple)と呼ぶ.偶力の合力は0なので,偶力には物体を移動させるはたらきがないが,トルク(力のモーメント)を生成し物体を回転させるはたらきがある.

このように,両肩に偶力が作用しているとみなすことができるが,片手の手関節まわりのトルクも弱いため,グリップ部も左右両手の力のうち偶力由来のトルクが主体である.

図5:床反力と肩と手部のモーメント

この両肩に作用する力は,床反力が身体を媒介して肩まで伝達している(図5).この肩や主部に作用する左右の力は,肩や手部まわりではトルクとして寄与するが,元々は床反力由来の力である.

簡単に述べると,クラブと地面間で,身体各部位の相互作用による一種のおしくらまんじゅうを行っている状態といえる.

そして,この並進の力の相互作用である,おそくらまんじゅうを支えるのが,物理的には関節のトルクであり,そのトルクは筋力によって生成している.トルクや筋力は,関節を動かそうとするよりも,偶力によるモーメントをに役立つ「並進の力」を生成し伝達するための,つまり,おしくらまんじゅうを支える力として機能している.

ゴルフスイングにとって腰を回すことは,ゴルフスイングの加速においては特に意味を持つわけではなく,スイング後半のクラブの回転運動と身体の解剖学的拘束から,結果あとから自然と腰がまわるように動いてしまう,と考えるほうが自然である.

ゴルフクラブの動力源は,時間的に意外とかなり前に,また異なる部位の下肢や体幹部で目立たず生成されている.

図6:身体間の相互作用

また,並進の力は,そのまま床反力が肩や手まで伝達されるわけではないが,基本的には,質量で重み付けされた身体各部位の加速度の加算で決まり,この性質から床反力が鉛直方向に力を発生しやすいことを考えると,身体にとっても上下方向の力発揮が得意で,ラフに述べると腕やクラブが比較的高い位置にあるタイミング,すなわちスイング前半の方が床と相互作用から大きな力を得やすいといえる.

また,実際に自然な回転が始まるスイング前半から後半へ切り替わるタイミングぐらいで床反力が最大化している.このことを下記の男子プロのゴルフスイング解析の動画が示している.赤が右,青が左,緑が総和の床反力を示している.

ゴルフスイングの全身の解析

全身の運動方程式を考えると,ゴルフスイング中の外力は床反力である.したがって,スイング中の身体は,「床反力を生成」し,「床反力をゴルフクラブに伝達」することを同時に行う必要があり,クラブと地面間で身体各部位が一種のおしくらまんじゅうを行っていることを述べた.

また,このようなおしくらまんじゅうのような動きは,むしろ動きとしては目立たない.

そこで,この身体各部位の相互作用を調べる方法としては,主として2つの方法が考えられる.一つはモーションキャプチャーやモーションセンサを用いた全身の力学解析.もうひとつは,筋電計を用いた解析.ここでは筋電計による解析を行っている研究を引用する(文献1).

フォースプレートと筋電図による解析の例(文献1)

図7:ゴルフスイング中の試技中の筋電図.2人の被験者の例.A(実休使用),B(スポンジボール使用)は被験者P,Cは被験者A..MVIC中の平均筋電図振幅で正規化している(文献1).

図7はゴルフスイング中の筋活動の様子を,筋電計で計測した例である(文献1から引用).

図8:被験者P のスイング中(実球)の左右の外側広筋および大腿二頭筋の筋電図,床反力の各成分(上)、重心変位(中)、重心速度(下)(文献1)

図8は,さらに被験者Pの外側広筋と大腿二頭筋の筋活動と床反力変化を示している.

なお,モーションキャプチャーやモーションセンサとフォースプレートを利用する力学解析(逆動力学解析)によって,各関節に作用するトルクを算出することができるが,この筋電計の活動(筋電図)は,筋活動を捉えており,筋レベルでの関節のトルクを反映している.

また各関節のトルクも筋活動は,各関節を動かすために作用すると考えるよりは,前述のおしくらまんじゅう,すなわち各部位間の並進の運動による相互作用を支える力として作用していると捉えるほうが自然である.

次章

では床反力とモーションキャプチャを組み合わせたゴルフスイングの計測例を示していく.


参考文献

1)川上他,ゴルフスイング中の筋活動およびキネティクス: プロゴルファーの事例研究,スポーツ科学研究, 3, 18-29, 2006


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