見出し画像

タイの食文化はどこにある?

 Grabを使いこなしながら縦横無尽にバンコク中を駆け巡る。ファインダイニングも街場のレストランも屋台も、一食毎にタイの食文化の新たな一面に触れさせてくれる懐の深さがありました。
 Nahmが世界的に認められたことで地方料理、伝統的タイ料理や家庭料理により目が向くようになり、多くのレストランがタイの食文化の再発見や再解釈を試みます。そしてその数多の試みが食文化をより豊かにしてくれていることに気づきます。

80年伝わる祖母の味

 Supanniga Eating Roomはオーナー家の祖母の家庭料理-「おばあちゃんの味」というノスタルジーを伴った-をメニューに揃えるレストラン。出身であるタイ東部の海辺の街のチャタンブリとトラートの新鮮な食材をふんだんに使い、イサーン料理のタッチも取り入れながら、オーナー家の家庭料理をより洗練された技術とスタイルで再現しています。懐かしい花の絵柄の入ったお皿でサーブされる素朴でシンプルで、けれどもフレーバー豊かな料理は新鮮ながら懐かしさを感じさせると大人気です。ファインダイニングでもこの花柄のお皿を見かけることがよくあります。これは「あの懐かしいおばあちゃんの料理」を思い出させる重要なアイテムなのです。

地方はインスピレーションの源

 かつてBangkok Boldというブログがありました(2018年閉鎖)。 好奇心旺盛な3人のfoodieがタイ全土を旅し、そこで発見した食文化や伝統的なレシピについての鮮やかな文章は瞬く間に大人気となり、料理教室主催するなどブームと言っても過言ではない現象を巻き起こしました。そしてついにBangkok Bold Kitchinというレストランをオープンします。かれらは各地で再発見した古いレシピや忘れ去られていた素材、土地に根付いた昔ながらの調理技術をなどを丁寧に紐解きながら、現代の調理技術でより洗練された料理として再現していきます。「タイ料理」の醍醐味である、新鮮なハーブや素材のフレーバー、そして5味と辛味の素晴らしいバランス。まさに伝統的タイ料理とその新たな表現がそこにはあります。かれらの最大の功績は、タイ全土を隈なく巡って各地の食文化を再発見していったことにあり、その再解釈の過程はタイの料理業界に大きな影響を与えたそうです。

再評価される地方料理と伝統的タイ料理

 Nahmで研鑽を積み、新たな表現方法で伝統的タイ料理をファインダイニングまで見事に昇華させたタイ屈指のレストラン Bo.Lanは、地方料理を気軽に楽しめるカジュアルレストランErr Rustic Thaiオープンしました(惜しくも両店とも閉店)。 酸味が特徴的なタイ東北部のネームクルック(発酵ソーセージ)から、甘味と酸味が優しく苦味が特徴の北部のカオソーイ(カレーラーメン)、辛味・酸味・甘味が特徴の南部のゲーンプーバイチャップルー(蟹入りココナッツカレー)、タイ各地の素晴らしい食文化を洗練されたレストランで味わえることは、地方料理、伝統的タイ料理の影響力の強さと豊かさの証左に他なりません。

 多くのレストランがタイの食文化の再解釈を試みたことで、より深く豊かな食文化の地平が広がっていくのですが、それはまたの機会に。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?