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CURATOR 1.五本の傷

前書き

 わたしがこの物語を完成させるには、あなたのお力添えが必要です。と言いますのも……。

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※「小説家になろう」「カクヨム」「エブリスタ」にも同じ連載を掲載しています。

※「CURATOR」というのは、「暫定的な」という意味のラテン語であり、いわば仮タイトルです。無事にこの小説が完結しましたら、改めて正式なタイトルをつける予定です。


1.五本の傷

 カチ、カチ、カチ。

 大学のトイレの個室の中で、蓋を閉めた便器に腰かけて、わたしはカッターナイフの刃をゆっくりと出していく。それから左腕の袖をまくりあげて、カッターナイフの刃を腕にあてた。

 カッターナイフを手前に引くと、五センチメートルほどの傷ができて、じわりと血が染みだした。

 もう一本、もう一本、と五本ほどの傷をつくる。最後の傷は思ったよりも深くなってしまった。

 鞄からティッシュと包帯を取りだす。ティッシュを折って五本の傷を覆い、その上から包帯を巻く。やはり最後の傷は深かったようで、すぐに包帯まで血が染みてしまった。

 左腕の袖を元に戻す。包帯まで染みだした血が、さらに袖にまで少し染みた。

 まあいいや。わたしはそう胸の内でひとりごちて、カッターナイフの刃をしまい、ティッシュと一緒に鞄の中へ入れた。個室を出て講義のあっている教室へと戻る。

 この教室は狭いから、扉が前にしかない。

 静かに扉を開いて、さっきまで座っていた一番前の扉のすぐ傍の席に着く。

 そんなわたしに、壇上の霧品キリシナ先生がさっと目を走らせた。そしていっときわたしを見てから、先生はまた黒板に向きなおる。

 数学が好きで、もっと専門的なことを学びたいと思って数学科に進んだのに、今はまだ高校の頃にやっていたことと大差なく、正直なところ退屈だった。

 数分経って、先生はチョークを置き、こちらのほうへと体を向けた。

「あと五分ぐらいあるけれど、キリがいいから今日はここまでね」

 学生たちは各々、荷物を片付けて教室を出ていった。わたしはのろのろと、ノートとペンを鞄にしまう。

「ねえ、それって、血……? 怪我したの?」

 声をかけられて顔をあげると、先生がわたしのすぐ前に立っていた。

「ああ、いえ……。まあ、リストカット、というか、アームカットってやつですね。いつもより血が出ちゃって」

 なぜだろう、わたしはすんなりと事実を告げた。

 それから、どこか悲しそうな顔をする先生を見ながら、今までに自分の自傷行為のことを他人に打ち明けたのは初めてだ、と思いあたる。

「そっか……。手当しなくて大丈夫? 保健センター行く?」
「そんな、手当なんかいりませんよ、いちいち」

 先生が心配そうに言ったので、なぜだかわたしは少し苛つきながら答えた。自傷するたびに毎回毎回、手当などしていられない。それに、今までだって手当なんてしてこなかったけれど、わたしはこの通りぴんぴんしている。

「そう……?」

 先生はやっぱり心配するように、そしてどこか悲しそうに、それだけ言った。わたしは鞄を手に取って立ちあがった。

「今日、六限のあと、時間取れる?」
「取れますけど……」

 先生に訊ねられて、わたしはそれだけ返す。

「無理にとは言わないけれど……、六限が終わったら僕の研究室においで」
「研究室? どこですか?」
「図書館はわかるかな。その隣の建物の七階。名札がついてるから、あとは探してみて」
「はあ、わかりました……。では、失礼します」

 わたしは先生に頭を下げて、教室を出た。廊下には誰もいない。なにせもう次の講義はすでに始まっているのだから、無理もないだろう。わたしはこの時間には講義がない。建物から外へ出て、プロムナードをふらふらと歩く。

 ――僕の研究室においで。

 先生はわたしを研究室に呼びつけて、一体なにを話そうと思っているのだろうか。自傷行為なんてやめなさい、とたしなめられるのだろうか。一般的に決してイメージのいい行為ではないことぐらい、わたしだってわかっている。

 急に視界が暗くなったので空を仰ぐと、大きな雲が太陽のあるはずの場所を覆っていた。雲はまるで、かさぶたみたいだ。空にできたかさぶた。

 もしも空を傷つけることができたら、どんな色の血が流れてくるのだろう。

 わたしはそんなくだらないことを考え、そしてまた自分の腕を傷つけたい衝動にかられた。慌てて近くにある建物に入り、トイレを探す。

 個室に入って扉を閉めて鍵をかけ、カッターナイフを取りだした。今の手持ちの包帯は、さっき巻いたものだけだ。だから包帯を一度ほどいて、赤黒い染みのできたティッシュを肌から剥がす。傷とティッシュが一部くっついているようで、ぴりっとした痛みが走り、そして一度は固まりかけていたのであろうかさぶたが一緒に取れてしまい、また血が染みてきた。

 わたしは血のついたティッシュをポケットにねじこみ、カッターナイフの刃を少しずつ出す。

 そしてその切っ先を、さっき作った五本の傷の隣にあてる。


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