小匙の書室225 ─毒入り火刑法廷─
その殺人は、魔女の仕業か否か。
『およそ魔女の仕業としか思えぬ事件』を前に、火刑を回避するため、魔女専門弁護士と審問官の舌戦が繰り広げられる──。
〜はじまりに〜
榊林銘 著
毒入り火刑法廷
ドラマ化された『あと15秒で死ぬ』の著者、榊林先生の最新作です。
『あと15秒〜』が面白かったので「今回も楽しめそうだなあ」と思い手に取ったのもそうですが、やはりこの装画に惹かれたのも読む理由の一つでした。
今度の舞台は、滅んだはずの魔女がひっそりと復活し、新たに誕生した『火刑法廷』が治安を維持する世界。
タイトルから連想されるのは、『毒入りチョコレート事件』(アントニー・バークリー著)と『火刑法廷』(ジョン・ディクスン・カー著)です(とはいえどちらも未読なのですが)。
あらすじを読んでみると、魔女の嫌疑をかけられた被告が、魔女ではないことを証明するために様々な論理を駆使するミステリのようです。
帯の惹句──『正義の火刑審問官vs策謀の弁護士』というのが気になりますね。
これは論理と論理のバトルが楽しめそうってもんです。
さて、久し振りに榊林先生の世界を存分に味わいに行きましょうか──。
〜感想のまとめ〜
◯魔女の関与が疑われる事件。実際に魔女の犯行ならば問答無用で火刑に、そうでなければ無罪に。ちなみに、犯人の所在は問いません。
こうした規則に縛られた『火刑法廷』において、魔女専門弁護士である毒羊と審問官のオペラが繰り広げるのは、いかに陪審員の心証をもぎ取れるか、という舌戦。
『毒入り〜』と聞いて浮かべる『毒入りチョコレート事件』の通り、ここには多重推理が存在しているのです。
しかもあろうことか、弁護側はあの手この手で無罪をもぎ取ろうとするわけで。
オペラがいかに弁護側の論理を破りつつ、新たな推理を構築するのかというのが楽しいポイント。私は翻弄されっぱなしでした。
◯メインとなるのは、『魔女が関与したと思しき』三つの事件と、魔女として生まれてしまったが故の人々が味わう排斥や危機や団結のドラマでしょう。
作中の舞台において魔女の存在は忌みであり、彼女らは普段から一般人として振る舞おうとしているのです。
ところが。ひとたび事件が起きれば、一歩間違えればすぐさま火刑に処されるため、法廷の場を支配する緊張感に手に汗握りました。
無実を掴むため、どうやって乗り切るか!
最初の事件を経て萌芽していくシスターフッドがよかった。
◯忌むべき存在であることを敢えて公言し、魔女として正式に生きる者。後ろ暗い過去を引っ提げて、ある目的のために法廷に臨む者。複雑な事情を抱えながらも魔女として生き抜くために必死な者など、個性的な魔女と出逢うことができました。
まるでノベルゲームを読んでいるかのようで(実際、著者はマーダーミステリも制作されている)、するりと作品の世界に入り込んでいくことができました。
さて。時に危ない橋を渡りながらも、それぞれに想いをもって出廷する火刑法廷。彼女たちが迎える運命やいかに……。
◯読む前に「複雑だ」という感想を目にしていたので心配していましたが、(じっくり読み進めたおかげか)私は大丈夫でした──と言い切ることはできず、最終話あたりはきちんと情報を整理しつつ読んでいました。
その上で展開される、最終局面に相応しい論理の応酬にはしびれた。とりわけラストスパートは「おいおいどんだけ詰め込んでるんだ……」と瞠目した。
◯これはいずれ続編を期待したいな〜! その制度が生きている限り、魔女の存在が根絶しない限り、何度だって甦ることが出来るのですから。
とはいえ、これはこれで一つのエンドマークが打たれたのは確かなので、あとは私の想像で補うのでも構いませんけれども。
ともあれ、論理の積み重ねで脳は疲弊してしまったので、私はチョコレートでも食べることにします。
〜おわりに〜
するりと世界観に入っていくことができて、個性的な魔女に心が踊って。
400頁ほどでしたが、あっという間に読み終えることができました。
魔女の秘密は、まだ全てが明かされたわけでは──ない?
今後の榊林先生の新作も楽しみになります。
ここまでお読みくださりありがとうございました📚
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