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小匙の書室162 ─天久鷹央の事件カルテ 甦る殺人者─

 都内で発生する連続女性絞殺事件。
 懸命な捜査により容疑者が浮上するも、その人物 は四年前に亡くなっていて──。


 〜はじまりに〜

 知念実希人 著
 天久鷹央の事件カルテ 甦る殺人者

 コツコツと〈あめくシリーズ〉を読み進め、そろそろ現時点での折り返しに差し掛かります。
 私個人の意見として、『推理カルテ』はビュッフェ、『事件カルテ』はコース料理のような満足感を得ることができます。
 まあつまりはどっちも好きってことですね。
 今回はタイトルにもあるように『殺人者が甦る』そうで。死んだはずなのに生きていた、はオカルトもオカルト(毎度、魅力的な『症状』を現実の病と絡めて創出する知念先生は凄いですよね……)。

 これが統括診断部にどんな影響をもたらすのか、楽しみにしながらページを捲っていきました。


 〜感想のまとめ〜

◯都内で発生する連続女性絞殺事件。通称『真夜中の絞殺魔』。四年前に起きた事件と相似する犯行手口や現場に残されたDNAから容疑者は容易に絞り込めるも、そんな単純な事件ではないのです。
 何といっても、容疑者は四年前の時点で既に死亡しているのですから。つまり、かつての殺人者が甦ったとしか思えない事件なわけで──。
 ほうほう、やっぱりここで統括診断部にとって“いつもの”流れが紡がれていくんだな……という私の予想は少し外れました。

通奏低音にあるのは、鷹央の研修医時代の一幕。それは、鷹央が下した死亡宣告は誤りだったのではないかという疑惑。そうなるのも無理からぬこと。しかしだとしても、不可解な点が残るのです。それが故に鷹央はいつも以上に責任を感じるようになり、執念に燃える彼女の姿に私は小鳥と共にハラハラさせられました。
 鷹央の知能や才能は常人の域を遥かに凌ぐ。それはとても善し悪しなのだ。

プロローグや幕間で挟まれる凄惨なシーン。惨たらしいことを快楽の名の下にやり遂げる『真夜中の絞殺魔』に憤りを覚えるからこそ、捜査陣の一歩先を行く狡猾さに歯痒さが募りました。そこに先述した鷹央の様子が噛み合わさることで、(第一部こそオカルトチックだが)物語全体として普段のコミカルな雰囲気は薄かったです。
 作中でも記されている“触れれば切れてしまいそうな緊張感”が付き纏い、実際、小鳥の冗談も切って捨てられる始末。
 思いもかけない展開の連続で、何度も息を飲みました。現状、シリーズでいちばんアレです。

一つの症状からどうしてこんなにも面白く大きく物語を膨らませることができるのだろう。シリーズ既巻でも感じていたことがまたしても首をもたげました。
 ──『真夜中の絞殺魔』の勢いは加速し、それに伴って追い詰められていく統括診断部。次の被害者を出すまいと足掻く中、転がり込んだ気付き。
 なぜ、死者は甦ったのか?
 形成逆転の真実は衝撃的で、そして残酷。犯行へ至る過程も、顛末も後味が良いとは言えない。
 「うわぁ,まじか……」と胸が苦しかった。

◯しかし、だからこそ小鳥の誓いが響く。そう、このシリーズは好奇心をくすぐる『症状』を扱うだけでなくそれに伴った人間ドラマも素晴らしいのです。
 類稀なる才能を有する鷹央が、犯人と対峙したことで植え付けられた疑心。その可能性に私も今まで至らなかった。
 果たして、小鳥はどのようにして鷹央に手を差し伸べてやれるのか。是非とも刮目して頂きたい。


 〜おわりに〜

 事件カルテの興趣が凝縮された余韻が全身を包みました。
 今回は300頁弱ということもあって若干短いけれど、物語はなかなかに濃かった。シリアルキラーが絡むと殺伐になりがちなので、そこから抜け出すのに時間を要したのも要因の一つでしょう。(鴻ノ池の振る舞いが救いでした)
 ただ、これによって統括診断部の絆がさらに固まったのは確かな事実

 今後どんな『症状』が待ち受けているのか楽しみです。

 ここまでお読みくださりありがとうございました📚

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