小匙の書室251 ─6days 遭難者たち─
それぞれの理由を抱えながら、三人の女子高生は山に登る。
それはゆるい登山であったはずが、変更した下山計画によって道を見失ってしまう。
遭難なんて、するはずがなかったのに──。
〜はじまりに〜
安田夏菜 著
6days 遭難者たち
以前に私はこのような記事を書いていました⇩
いつもの習慣でXを眺めていたら、目の前にポンっと現れた書籍刊行情報。
それが、本作と出逢うきっかけとなったのでした。
新聞紙を巻いたような装幀に惹かれ、また遭難から発生するサバイバルがどんなものなのか気になり、発売の週末に書店へ足を運び購入。
そこから二ヶ月強積読してしまいましたが、いよいよ読み始める時がきました。
遭難するはずなかった山での、サバイバル。
彼女らは無事に生き残り、それぞれが胸に抱えた問題も解決されるのか。
人間ドラマに期待しながらページを捲っていきました──。
〜感想のまとめ〜
◯美玖、亜里沙、由真。彼女たちの登山にかける想いには思春期特有の香りが濃く漂っていて、その瑞々しさがキャラクタ造詣を深めている。
これは裏を返せば幼さゆえの無鉄砲さであったり、感情コントロールの不器用さも見事に描いていることにもなるわけで──。
実際、遭難の兆候が現れ始めてからは幼さのままならなさがギスギスした空気を生み、こちらまで息が詰まりそうになった。
◯山は、正しく接する分には寛大な姿勢でもって私たちを迎えてくれる。しかし、少しでも無謀な真似をすればすぐさま牙を剥いて襲いかかってくる。
これは当たり前の事実なのかもしれないが、普段山登りしない私にとっては、この脅威がとにかく身を蝕んできた。
美玖の焦りに共鳴し、頭の中が真っ白になりそうになったのだ。
◯猪突猛進気味な美玖、人に頼って自立からは少し遠い亜里沙、人を癒しながら自分の傷と向き合う由真。
遭難という過酷な現実を一身に浴びるにつれそれぞれの抱えた問題や悩みが表出し、時に挫けたり一方では成長への兆しになったりする。
一歩間違えれば死の淵に転がり落ちてしまう極限だからこそ、皮肉にも輝き出すものがあるのだ。
大自然の中のちっぽけな存在。だけど想いの塊は何にも負けない強さがある。
◯遭難してからそれこそ山あり谷ありの展開が続き、彼女たちが果たして無事に生還できるのだろうかと手に汗握った。
結果の詳述は避けるが、これは山の恐ろしさを身近に感じてもらうためには打って付けの作品だと思える。
自然を舐めてはいけない。
遭難を経験した美玖が自戒を込めて放つ終盤の一言は多義的であり、それゆえ胸に響きました。
◯最後にはあとがきの他、「山で遭難しないために」というおまけページが付録されており、私は(登山の機会の有無に関わらず)身を引き締めるのでした。
〜おわりに〜
サクッと読めて、それでいて自然の理を十分に堪能することができる作品。
これからの時期、気持ちが浮かれて軽率に山へ足を踏み入れないためにも、本作は広く知られるべきでしょう。
取り敢えず私が山登りするときは、小さな丘から挑戦しようと思います。
ここまでお読みくださりありがとうございました📚
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