小匙の書室165 ─秋期限定栗きんとん事件 下─
エスカレートする連続放火事件。セパレイトする日常。なんだかんだ僕、小鳩は小佐内さんと向き合っている気がする──。
〜はじまりに〜
米澤穂信 著
秋期限定栗きんとん事件 下
上巻についての感想は、ぜひ以下の記事よりご覧ください⇩
はてさて。〈小市民シリーズ〉最長である、栗きんとん事件。今のところ栗きんとんの要素は垣間見えていませんが、いったいどんな風にして姿を現すのでしょうねぇ。小佐内のことも気になります。
さて。長い前置きはこのくらいにして、早速ページを巡っていきます……。
どうか、安堵よりの結末でありますように。
〜感想のまとめ〜
◯エスカレートする連続放火事件。加熱する新聞部。瓜野を部長に据えた新体制の新聞部は、いよいよ犯人を捕えるために本格的に動き出します。やっていることは正義風だけど、どうも危うさが拭い切れない。
しかしサスペンスとして、彼らの奮闘は見ものでした。ちらちらと姿が見え隠れする小佐内のことも気になりまくり。
これは定石を通用させないシリーズならではの、読み心地だったと思います。
◯小市民として生きるのも,案外大変。小鳩と仲丸、瓜野と小佐内。小市民を目指して気持ち新たに青春を綴るけれど、どうしても特殊な性格が滲んでしまう。事件が解決に向けて進めば進むほど、反比例に摩耗していく人間関係。
特に小鳩パートは恋の痛みがひしひしと肌を伝ってくるのでした(いや、そもそも恋なんて甘いものじゃなかったのだろうけれど)。
小市民の感覚を半ば体験学習的に味得し、突き付けられる乖離性。普通になれない、ってのは誰しもが持ち得る感覚なのではないでしょうか。
◯怒涛の解決編は耳が痛い。真実を明らかにするのなら、その反撥を受け止める覚悟を持つべきだなあと思いました。探偵役ってのは身の振り方をしかと念頭におかなければ務まらない。事実を求めるあまりその他を蔑ろにすれば、解明はできるだろうが解決はできない。全ての謎を紐解く件のシーンでは、探偵と名探偵の違いを見せつけられるようでした。
こんなの、高校生の時分でくらったらまともに立ち直れない……。しかも攻撃をしかけてくる相手が相手ですからね。
犯人が云々より、真実の開陳がもたらす影響の方が私の印象に残りました(おそらくそちらをメインとしている)。
◯栗きんとんと、マロングラッセ。ただのファクターとしてではなく、きちんと比喩として扱われているのがうまい。前巻を読んでいて感じたことは間違っていなかったのだと、私はどこか誇らしく思いました。
最後の最後までタイトルにある栗きんとんが出てこなかったので、「秋期限定マロングラッセ事件ではないか?」と疑ったものの、そうじゃなかった。
事件に係る人間の心も、小市民を目指す人間同士の関係も、マロングラッセより栗きんとん。それが一番、健全じゃないだろうか。
◯で、最後に判明する小佐内の行動指針。いったい彼女は何を以てして暗躍していたのか。どうしてあんな真似をしたのか。
これは小鳩にも解けない謎だった。が、きちんと説明はなされます。
まあほんとに……「おいたは、だめ」ですね。
〜おわりに〜
上下巻ということもあって読むのに時間がかかるのかなあと思っていたけれど、そんなことはあらず。あっという間に読了してしまいました。
考察を深めれば深めるほど、味わい深くなっていきます(私の感想は考察も何もないけれど)。
とかく、ぐるりと一周して小鳩と小佐内が獲得した成長の兆しは得難いものでしょう。
残り6ヶ月。果たして、小市民を目指す二人はどうなるのか。シリーズ最終巻も楽しみです(その前に巴里マカロンの謎がありますけど)。
ここまでお読みくださりありがとうございました📚
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