小匙の書室164 ─秋期限定栗きんとん事件 上─
小市民の二人に“春”が訪れました。
連続放火事件と、きな臭い雰囲気を伴って──。
〜はじまりに〜
米澤穂信 著
秋期限定栗きんとん事件 上
4/30に〈小市民シリーズ〉最終巻、『冬期限定ボンボンショコラ事件』が刊行されます。
それに向けて(またアニメ化に併せて)ようやく積読から引っ張り出して読み始め,ここまで到着しました。
前回の衝撃的な結末からいったい小市民の二人がどんな日常を歩むこととなったのか。
見たいような,でも見たくないような。
しかも小鳩くんに彼女ができるですって……!?
そんな不安な気持ちを抱きながらページを捲っていきました。
この青春は、どうも一筋縄ではいかない。
〜感想のまとめ〜
◯小市民の二人、小鳩と小佐内に訪れるまさかの“春”。前回の衝撃的なラストからどんな幕開けが用意されているのだろう、とページを捲った途端にこれです。
小鳩には仲丸というクラスメイトが。小佐内には瓜野という新聞部員が。
字面だけならば高校生の青春だと思えるけれど、著者は米澤穂信先生ですからね。それを抜きにしても、青春っていうのは苦味も内包しているわけで……。
◯本作は小鳩と瓜野の視点で進みます。小鳩パートは仲丸さんと重ねるデートの中で出会う、日常の謎が見所。瓜野パートは新聞部の活動を方針をめぐっての争いが見所。
それぞれで流れている空気の手触りが違いました。小鳩パートは甘め、瓜野パートは辛め。青春の二面性とも受け取れそうです。
◯普通ではなく小市民だったからこそ。小鳩は仲丸と関係を育むけれど、「普通ならばこうするのだろう」という考えが、そこに小市民としての純粋な姿を表しにくくさせています。逆に瓜野から見た小佐内は抑えている本性の一端なんかを滲ませていて、小市民として結ぶ互恵関係の妙がどんなだったかを思い出させてくれます。
◯全体的にきな臭い。これは間違いないでしょう。謎解きで芽生える小鳩と仲丸の会話テンポのズレ。連続放火事件の調査で無謀のキワまで駆り立てられる瓜野。どこか意味深長な振る舞いをする小佐内。
事態はそう安易なままに進ませない。そうした空気が、ある種の怖さが、肌にピリピリと感じました。
そんな中にあって堂島の一貫した姿勢には見上げるものがあります。敢えて悪くいうならば彼だけが身の丈にあった成長をしているのです。
◯果たして連続放火事件の犯人は誰か。という大きな謎もさることながら、小鳩と小佐内(そこに瓜野も加えて)の行く末も気になります。色々なことがまとまったり散らばったりしているので、下巻でいかに収斂するのか非常に楽しみです。
そして小市民が小市民らしくあれるのか、その点も注目したいですね。
◯これはこぼれ話的とした。マロングラッセを喩えに小佐内が放った一言。「上辺が本性になる」。がとても印象的でした。
〜おわりに〜
あれもこれも気になることがありまくりです。
上巻ということもあって、舞台設定が満遍なく行われるのだから仕方がありませんね。
読みながら、「こりゃあ、下巻で真実が明らかになるにつれて唸らされることになるんだろうな」と思っていました。
果たして無事に事件は解決されるのか。
ここまでお読みくださりありがとうございました📚
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