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親友から同じ内容の手紙が二通届いた

2019年のある冬の日、一週間前に手紙をくれた親友から、また手紙が届いた。少しだけ、怖くなった。


◆◆◆


当時、親友は山口県、私は東京に住んでいたのでなかなか会えなかった。年に一度くらい、近況報告を綴った手紙を気まぐれに出し合う間柄だった。

一週間前に届いた手紙は便箋二枚に渡るもので、私が転職したことへのお祝いのメッセージと、推しているアーティストのライブの話、年末に東京に帰省するので会えたら嬉しいと書かれていた。

追記には、使いづらいと思うけど絵葉書をあげるね、とあった。人面魚がたくさん描かれた、謎の絵葉書が同封されていた。

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一週間前にもらった手紙の内容を思い返しながら、首を傾げる。親友からこんなに短いスパンで手紙が届いたことは、未だかつてない。

まだ一週間前の手紙に返事を書いていなかった。よって、こちらからの手紙に対する返事ということはありえない。

お恥ずかしながら新生活で余裕がなく、手紙の返事はおろか、手紙ありがとうのLINEもしそびれていたのだ。

もしかしたら今日の手紙に書かれていることは、LINEや電話で伝えにくいことなのかもしれない。身内に不幸があったのだろうか。それとも、健康診断で病気が発覚したのだろうか。
そう思うと、読むのが怖くなった。


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封を切っておそるおそる読みはじめると、パラレルワールドに迷い込んだ気分になった。

一週間前にもらった手紙と、内容がほとんど一緒なのだ。

便箋は二枚で、一枚目には私が転職したことに対するお祝いのメッセージと、好きなアーティストのツアーの話が書かれていた。一週間前に読んだ手紙の内容とほとんど同じなのだが、ところどころ表現が違う(気がする)。

一枚目の便箋を読み終わる頃にはこれが現実なのかわからなくなり、机の引き出しから一週間前にもらった封筒を取り出し、見比べてみることにした。

やっぱり夢ではなく、私宛ての二つの手紙が存在していた。

一週間前に届いた封筒には84円切手が一枚貼られていて、今日届いた封筒には82円切手とうさぎの2円切手が貼られていた。それだけの違いだった。


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意を決して、今日届いた手紙の二枚目を読んでみると、謎が解けた。


「書いた手紙をなくし、同じような内容を二回書いています」
と書かれていたのだ。

どうやら、一週間前に届いたのは親友がなくした手紙で、親切なひとがポストに投函してくれたおかげで、私に届いたようだった。

そして、親友は一通目のなくした手紙は届かないと思い、同じ内容の手紙をもう一通出してくれたのだ。

二つの手紙の真相がわかり、ほっとした。
二通目には、人面魚の絵葉書は入っていなかった。


◆◆◆


そのあとすぐに親友にLINEを送り、手紙が二通とも届いたことを伝えた。親友は一通目の手紙が届いたことに、とても驚いていた。

親友曰く、宛名などを全て書き終え、切手を貼る前に手紙を落としたそうで、手紙を拾った方が84円切手を貼って送ってくれたようだった。

切手を貼らない状態でポストに投函すれば差出人に戻るはずなのに、わざわざ切手を貼ってくれるなんて、とても親切だ。

900㎞離れたところに住む私に、少しでも早く届けてあげたいと思ってくれたのかもしれない。


◆◆◆


切手を貼ってくれた山口県民の優しさはもちろんのこと、なくした手紙の内容を思い出して書き、もう一度送ってくれた親友の優しさも身に染みた。


二通目が届いたときは少し怖かったけれど、最終的に心温まるレアな体験になった。

届かなかったかもしれない人面魚の絵葉書は「幸運のポストカード」として、今でも大切にしている。

人面魚がいっぱい!


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