従業員体験(Employee Experience)を考える
1 はじめに
従業員体験(EX:Employee Experience)は従業員が会社で働くことで得られる、あらゆる体験のことを指します。
従業員の入社式、入社時研修、試用期間中のメンターによるサポート&指導、初めて担当する業務のスタート、人事評価面談、昇格通知、人事異動、定年退職・・・等々、従業員が入社してから退職するまで、様々な体験をし、その都度、従業員は会社に対して何かしらの感情を持つことになります。
それらの感情の積み重ねにより、従業員は従業員満足やエンゲージメント向上につながることもある一方、従業員の会社に対する想いが離れていく・・・というリスクも抱えています。
例えば、人事評価面談で上司がルーティンワークのように30分刻みで部下と面談をこなす場合と、上司がいつもと違う格式のある会議室を押さえて「君の今後のキャリアにとって大切な時間だからゆっくりと話そう」と面談の準備をしてくれた場合と、この2点を比較しても従業員の体験は大きく変わります。
(もちろん、面談の内容自体が重要なことは言うまでもありません)
とは言え、マネージャーが部下と接する機会全てにおいて高い関心を持って入念な準備をして臨む・・・と言うのは限度があります。
従業員体験を創り上げる際には、マネージャーのみのタスクとして属人化させるより、経営層・人事領域も高い関心を持って協力体制でチャレンジすることが望ましいです。
従業員体験を充実させ、モチベーションやエンゲージメントが向上した結果、従業員の離職防止や顧客体験の変革、生産性向上等を通じて、会社の業績が好転することが期待されています。
通常業務に加えてこれらの取り組みを推進していくには大変な負担があり、「覚悟」が必要です。
しかし、「大切な従業員に特別な体験を届けよう!」と思えば、こんなに楽しい取り組みはありません。
ぜひ、従業員体験を変えていくことを一度検討してみてください。
2 エンプロイージャーニー
従業員体験を考える上でオススメの手法であるエンプロイージャーニーを紹介します。
エンプロイージャーニー(Employee Journey)は、従業員が入社から退職までの間にどのような体験をしていくのか、そしてどのような感情を持つのか、そう至った課題は何なのか・・・等々を視覚化したものです。
従業員体験を変えていくことを検討する際には、先ず、自社の従業員がどのような体験をしていくのかをまず把握することが大切です。
【例:エンプロイージャーニーの流れ】
1 入社前のオリエンテーション
2 入社式
3 入社時の手続き
4 オンボーディング
5 担当業務の開始
6 人事評価面談
7 給与改定
8 人事異動
9 社内研修
・・・To be continued
そして、重要なのが、各体験に対して従業員がどのような感情を持っているのか、どのような行動をしているのかを明記することです。
「従業員がどのように感じているかはよく分からない・・・」
「感情は人それぞれでしょう」
そのようにおっしゃることは当然です。
完全な解を示していくより、ひとつのイメージを作って、それをベースに議論していくことが重要です。
「ペルソナ」(自社の商品やサービスの典型的な顧客イメージ像)を設定して、感情や行動を記載するケースが一般的です。
(ペルソナを作ることで、検討隊メンバーが近しいイメージを持ってディスカッションすることができます)
【例:ペルソナが持つ感情】
1 入社前のオリエンテーション
→資料に不備が多かったな。(ー)
→オリエンテーション案内のメールが寸前に来て不安になった(ー)
2 入社式
→社長が直接メッセージをくれて励みになった(+)
→入社を歓迎されている感じがする!(+)
3 入社時の手続き
→記載しなければいけない紙が多い…(ー)
4 オンボーディング
→色んな人たちが会社ルールの案内をしてくれたので顔合わせができた(+)
→データのストレージが更新されておらず、情報を探しにくいな…(ー)
5 担当業務の開始
→誰に相談して良いか分からないよ…(ー)
→みんな忙しそうで話しづらい…(ー)
6 人事評価面談
→入社後、上司から自分への期待について話してもらったことがない(ー)
→人事評価の内容に納得感がない(ー)
7 給与改定
→毎年定時昇給があるのは嬉しいな(+)
→将来自分がどのくらいの給料になるのかイメージできない(ー)
8 人事異動
→忙しい部署の埋め合わせで、自分のキャリアを考えてもらっている印象がない(ー)
9 社内研修
→業務に活かせる項目を学べる(+)
→社内研修で業務時間を奪われるので時間を短くして欲しい(ー)
・・・To be continued
これらの感情はあくまでも推測ではありますが、会社がどの分野から解決していくべきか、イメージしやすくなるはずです。
(例①)入社時の事務手続きをスムースに進められるよう、人事システムを導入して、従業員がスマートフォンのアプリ経由で入社手続きができるよう効率化する。
(例②)従業員が業務の相談がしやすいように、オープンなコミュニケーションができるシステムを導入する。(職員を探して質問する・・・ではなく、質問自体をチャットに投稿することで、回答できる従業員がチャットで対応する)
(例③)人事評価面談の仕組み・フローの見直しを実施する
従業員の目線に立ち、実際に職場で体験することをシミュレーションしてください。
3 パルスサーベイ
続いて、従業員体験の評価を可視化するためのパルスサーベイをご紹介します。
パルスサーベイは、従業員に対して簡易的な質問を短期間に繰り返し実施する意識調査方法です。
1~10分程度で回答可能な簡単な質問を、週1回や月1回等、定期的に行います。従業員の意識や感情をリアルタイムで把握できる点が特徴です。エンプロイージャーニー等を通じて講じた人事施策により、従業員の気持ちがどう変化していったのかを把握して、次なる対策へと活かしていきましょう。
【例:パルスサーベイの質問】
従業員の成長をサポートする仕組みは整っていますか
悩みを相談できる同僚はいますか
この1ヶ月であなたの仕事を承認してもらったことはありますか
業務内容に対して不満を持っていますか
会社のミッション、ビジョン、バリューに賛同していますか
4 従業員体験を向上させる
何よりも重要なことは現状把握です。会社が真剣に取り組んできたことに対して否定されることは大変辛いものがありますが、先ずは従業員が感じていること(ギャップ)に向き合いましょう。これは前述したように、エンプロイージャーニーを書き出したものでも結構ですし、実際に従業員へインタビュー&ヒアリングするのも良いでしょう。
集約した情報を基に、Plan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善)のPDCAサイクルを回すことで、従業員体験を変えていきます。取り組みに対する評価はパルスサーベイを実施&参照することをおすすめします。
従業員体験を変えていく取り組みは、以下の通り、様々な分野のものがあります。
デジタルツールで生産性や利便性を提供する
人事評価制度や福利厚生プランの検討等、仕組みの部分で新たな価値を提供する
1 on 1 ミーティングや人事評価面談のFB等、コミュニケーションで従業員の心を動かす
マネージャーや人事部門等、特定の領域に限らず、経営層やその他部門等、様々な部門が当事者意識を持ち、協力体制で推進していくことが大切です。
(意思決定の速度が低下したり、タスクの押し付け合いにならないことが大前提ですが)
「従業員のモチベーションが上がらない・・・」
「会社の離職率が高過ぎる・・・」
等々、人事上のお悩みをお持ちであれば、従業員体験の見直しからぜひ始めてみてください。
従業員が変わっていく面白さは、何にも変えがたい「経営者体験」を得られるものと思料しています。
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