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最低賃金を急激に引き上げても実質賃金は上がらないが、その目的は賃上げでは無かった

鹿児島で社労士をしています原田です。

 近年急激に上がり続けている最低賃金。これは政府主導で行う賃上げの政策の一環と言われています。全国平均の最低賃金は、一昨年は過去最大の31円、昨年は更にそれを上回る43円の引き上げを行いました。
 しかし実質賃金は、厚労省が行った令和6年5月の毎月賃金統計の発表によると、26カ月連続のマイナスを継続しています。


近年の最低賃金

 最低賃金は、中央最低賃金審議会で調査・協議を行って作成された「目安」を元にして、都道府県ごとに設置される地方最低賃金審議会で協議した結果で、それぞれの最低賃金が決定します。

 近年では、平成22年(2010年)の「雇用戦略対話における最低賃金の引上げに関する合意」によって、2020年までに最低賃金全国平均1,000円を目指すことが決められました。

 但しそのためには、「名目3%、実質2%を上回る成長」が前提条件となっており(この場合の名目・実質はGDPのことだと思われます)、それらの影響を踏まえて3年遅れの令和5年(2023年)に達成されました。

 令和5年に1000円が達成する見込みとなった年の6月に行われた、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」によって2030年半ばまでに1,500まで引き上げる目標が掲げられています。


近年の実質賃金

 実際に受け取った額面の金額のことを名目賃金と言います。その金額から物価の上昇等を考慮して再計算したものを実質賃金と言います。

 実質と言うぐらいなので、消費者感覚に近い数字と言えるでしょう。

 実質賃金の元になる名目賃金は、統計によって算出された「給料の支払総額」を「常用雇用の人数」で割って一人当たりを出します。

厚生労働省政策統括官付参事官付 雇用・賃金福祉統計室 編纂
毎月勤労統計調査 令和4年分結果速報の解説より

 実質賃金は継続して下がり続けています。ちなみに平成20年(2008年)時点の最低賃金は708円です。


実質賃金は上がらない

 推移から見てもわかる通り、15年かけて最低賃金を300円以上上げても、実質賃金は上がりません。

GDPの伸びと最低賃金の伸び

 前年比で比較した場合に、GDPの伸びに連動するように最低賃金を上げて来たが、2016年以降は最低賃金の伸びの方がGDPの伸びを上回っており、2023年で急騰しているGDPもコロナが過ぎた反発によるもので、GDPがマイナスになっている2020年も最低賃金の若干の引き上げを行っている。

 GDPの上昇以上に最低賃金を上げるということは、企業収益以外のところから最低賃金上昇分に引き当てる必要が出てきます。
 実績が好調な大企業なら、そこまで考慮する必要がない場合が多いでしょうが、特に中小企業の場合は、
・設備投資を控える
・中間層の賃金を上げない
・役員報酬を削る
・とりあえず借入する
・人員を削減する
といった手段を講じなければなりません。

 この中で一番取りやすい手段となるのは中間層の昇給停止でしょう。
それでは実質賃金は上がりません。そもそも企業収益が増加しないのに、配分だけ増やすことなど不可能なことぐらい誰でもわかります。


最低賃金を急激に上げる理由

 最低賃金を上げる理由は、内閣官房から発表されている
「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」
に書いてあります。

106万円・130万円の壁を意識せずに働くことが可能となるよう、短時間 労働者への被用者保険の適用拡大、最低賃金の引上げに引き続き取り組む。

新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画

 つまり税制と社会保険の扶養制度を無くすために1500円に上げることが理由だと明記されています。
更には、過去にあった「名目3%、実質2%を上回る成長」も一切触れられていないので、経済成長とは関係なく、扶養制度を無くすためには、何としても最低賃金を上げるという意気込みが伝わってきます。

 更にその対策として、
1.企業に助成金を出す
2.企業の配偶者手当を無くさせる

ということにしっかり取り組むようです。負担が増える個人への配慮は何も検討すらされていません。

 そういえば、社会保険の適用拡大の人数要件撤廃の方針も、反対しそうな人が誰一人いないメンバーで行われた有識者会議で、方向性が決められていました。


実質賃金が上がらないことへの対策

 令和6年5月まで26カ月連続で実質賃金は減少しています。しかし恐らく6月は実質賃金が上昇するでしょう。それは「定額給付金」があるからです。

 実質賃金の計算根拠となる名目賃金は、手取り額を参考にしているため、住民税や所得税が減少すれば、実質賃金も上がります。
本年の給与計算上では、住民税は一部を除いてほとんどが、6月の控除が無いので、その分が上昇することは間違いありません。

 つまりこれによって、一瞬だけ上がるから、連続27カ月は阻止できるのです。しかし10月から50人以上の企業で社会保険の義務化が始まるので、10月以降は必ず実質賃金が下がることは決定しています


理想的な最低賃金引上げのために

 最低賃金はあくまで賃上げ政策と生活保障の一環で行うべきであり、扶養を無くすためとかの単なる増税目的で行われるべきではありません。

 物価高で有名なアメリカ合衆国の連邦最低賃金は2009年に7.25ドル(1$=150¥換算で、1087.5円)と定められて、現在まで引き上げられていません。30の州では連邦最低賃金以上を定めていますが、14の州は現在でも7.25ドルが最低賃金です。

 日本を超えたと騒がれている韓国においては、最低賃金上昇に伴って、賃金不払いが増加しており、日本の12倍の規模になっています。引き上げても払われないのであれば、意味がありません。

 過去に年金受給年齢引き上げに30年かけて行ったように、扶養を廃止するなら、それぐらいの期間を設けて、生活様式に激変が起こらないように配慮する方が望ましいのでは無いかと感じます。
 現在の手段では、中低所得者層と中小零細企業に最大のダメージが及ぶばかりです。

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