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敗者だから伝えたい こうして会社は倒産しました ③

~過ぎたるは及ばざるがごとし~

 前回は、初代社長が亡くなるところまでお話しました。私はまだ登場しないので、登場するまでの内容は伝聞です。

 初代社長であるX氏が亡くなって、後回しにしていた問題が、いよいよ待ったなしで襲い掛かります。

Ⅹ氏が保有していた会社株式の問題

まずはこの問題です。元々家族経営なので、株式はX氏、Y氏、祖母で分けていました。社長であったⅩ氏は筆頭株主で、実は過半数を持っています。
 そしてⅩ氏の相続権があるのは、正妻と側室の子(認知しています)の二人になります。

 過半数を相続しても、それが分割されるので、過半数保持者が誰もいないことになります。

 正妻は、結婚当初から会社内で働いていたので、自分が代表になって経営するのは不可能である実情を理解していました。そして側室も自分の配分では、代表にすることは不可能であることも理解しています。

 こうした流れから、株式は全て会社で買い取ることを協議して、和解されたそうです。

Ⅹ氏名義の本社所在地の土地の問題

 次に土地の名義の問題ですが、土地には会社名義の建物が建っており、本社機能として稼働しています。そもそも家族経営の自宅兼会社としてスタートして、お金が溜まったから隣接地を購入していったのですが、その名義については、代表者にしておいた方が、借入がしやすいという実情からⅩ氏名義にしていました。

 親族からみたら親族みんなのものという意識が強かったのですが、法律上では通用しません。

 第三者に簡単に売れる状態でもなく(今なら収益物件として売れるかもしれません)、売られると困るのが実情だったので、これも会社で買い取ることで和解しました。

最終的に、相続財産の買い取りとして1億円。
それでは足りないので、会社が運営し正妻が主に従事していた小売店テナント(毎月収益が出てました)の権利無償譲渡を加えて合意することになりました。

莫大な負債と少ない資金

 しかし「和解できてよかった」ではありません。節税のために、利益を出ない経営を続けており、現金資産はほとんど無いので、1億円など支払できません。

 幸か不幸か、当時は売上が継続して成長して景気がよく見える会社で、それだけで銀行は融資してくれるという時代だったので、全額を融資してもらうことができました。

 ざっくり計算します。1億円借りると、返済は月200万程度になります。返済額は費用では無いので、200万円×12カ月=2400万円の利益を今までよりもプラスにしないと返済できません。プラスで利益を出すということは、所得税も500万円程度上乗せでかかりますので、実は年間3000万円の経常利益が追加で必要になるのです。

 税金対策のためにリースや接待等で費用を出していたので、リースは途中で止まりません。接待を止めると取引が円満に継続できなくなる懸念があります。そのため節税用の費用で、いざとなったら財布を絞るつもりでも、恒常化すると、下げるのが難しくなるということにも直面しました。

新社長Y氏の困惑

 更にA社もB社も顧客であるスーパーマーケットの成長に伴って、右肩上がりで売上を伸ばしていたのですが、ここにきて出店スピードが鈍化します。

 Ⅹ氏が亡くなったのは1989年。そして翌年からバブル崩壊も始まります。融資の基準が厳しくなり、顧客の成長は鈍化し、デフレによる低価格化も相まって、返済原資を稼ぐ方法として、売上を上げる手法は、益々難しくなってきます。

 新社長となったY氏は、グループ全体で最も利益率が高いのはA社であることに着目し、A社の売上強化に乗り出します。スーパー向け商品の競争は、スーパーで並ぶ商品全ての中で、その日の献立に並ばせるための熾烈な競争になります。

 そのために取った戦略は、「安売り」と付加価値商品の投入です。100円パックの商品を大量にラインナップし、同時に350円定価の高付加価値商品を導入していきます。

 更に新商品開発を強化し、年間3品~5品目以上の新商品を生み出していきます。その戦略は一定程度当たるのですが、返済に必要な売上を元に計算して販売ノルマを課しているため、営業現場では別の問題が起こってきます。

高付加価値商品がいつのまにか値下げ

 本来の卸問屋の機能は、商品の提供と情報の提供であり、幅広い商品を効率化した物流で提供しながら、商品や市場の情報を提供することで、顧客小売店の商品構成を補佐する役割があります。

 しかし、過大な販売ノルマがあると、話は別です。適正さを欠いた商品提供をしなければ、ノルマの達成はできず、適正な情報提供を行うとノルマ外の商品が売れてしまいます。

 現場の営業は、これを打開するために、安い商品の商品数量で稼ぐのではなく、高付加価値商品を値下げすることにより、トータルの販売金額を稼ごうとしました。

 これは結果的に商品ブランドを棄損することになり、二度と高く売れない状況を招くことになります。

倒産社長が伝えたい経営の教訓

根本原因を解決しなければ、何も解決しない

 この時の最大の原因は、1億円増という、いきなり増加した巨大な負債です。実際この時点から程なくして債務超過に陥っているのは、私もあとから分かりました。つまり元々払える額では無かった。しかしY新社長の心情としては、それ以外の選択肢も無かった状況だったのでしょう。

この時に他人資本による資本金の増強や合併等も検討すべきだったかもしれません。

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