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山形屋の私的整理成立をみて、もう一度考えてみた。

 前回、地元百貨店「山形屋」の勝手な再生プランを作ったのですが、

デートファッションやプロジェクションマッピングのような面白そう企画は、好評なご意見を頂きました。しかしそれらは思い付きの話で、意図していた本質はそこではありません。
そこで私的整理成立の状況も踏まえてもう一度本質のとこだけ。


私的整理の結果を考える

 私的整理の内容を完全に公開されているわけではありませんが、デット・エクイティ・スワップで40億、デット・デット・スワップで70億の110億円が合意となったため、110億円の債務圧縮となり債務超過は解消されたことになります。

 「横文字ばかりで、まったく分からん」と思う方も多いでしょうから、ざっくりと今回のパターンを分かりやすく説明します。実際今回に行った手法は、少し違うかもしれませんが、よくあるパターンの概ねの流れです。

デット・エクイティ・スワップ(DES)は、債務の株式化といわれます。
① 山形屋が40億円分の新規株式を発行して銀行が買う。
② 買った銀行は、売った山形屋に40億円払わないといけない。
③ 山形屋はその40億円で銀行に返済に充当する。
④ 山形屋は借金が40億円減る。銀行は山形屋の株を40億円分得る。

これで結果的に借入金が資本金になるという企業再生の必殺技です。
金融機関の資本が入るので、金融機関に対してはオープンな関係になりますが、銀行は株主になったので、簡単に資金に替えることはできません。

デット・デット・スワップ(DDS)とは、債務の劣後債化と言われたりします。
① 山形屋が70億円分の特別な社債を発行して、銀行が買う。
② 銀行が買うので、売った山形屋に70億払わないといけない。
③ 山形屋は、その70億円を返済に充当する。
④ 山形屋は借金が70億円減る。銀行は山形屋の社債を70億円分得る。

社債は借金のようなイメージですが、会計上は「繰延資産」として資産計上されます。DESと違うのは、株式では無いのでいずれ返済しなければなりません。企業破綻した時には、借入金よりも返済順位が下になるので、「劣後債」と言われます。
これも結果的に借入金が資産(繰延資産)になるという、企業再生の禁断の秘密兵器です。

企業再生にはもっとエグイ方法もありますが、話題が違うので、別の機会に。

個人的には、債務免除(借入金を一部免除して減らす)も行って、総負債360億円の内、200億円ぐらい圧縮できればいいかなと思っていたので、金融機関は協力したい中で、非常に厳しい対応をされたという印象です。なぜなら、今回のことで銀行の財務上で貸付金が減った分は、どちらも有価証券に計上されて、銀行の損失は無いからです。

 銀行的には債務超過企業への貸付金は、全額引当金を積まないといけないので、運用に使える資金が制限されて大きなデメリットが生じることを解消されることになり、猶予期間を持たせてもメリットがある提案になっていたのでしょうが、債務免除までは必要ないという判断だったのでしょう。

今後山形屋が破綻しなければ・・・の話ですが。


代表者が変わらないのはなぜか?

 こうした企業再生の場合に、経営者が責任を取って交代することはよくありますが、今回は社長・会長ともに留任して、経営を継続します。これに対して批判的な意見を言われるのも耳にしました。

 しかし正直言って、企業グループの傘下に入って、グループ上位の役職者が代表者として就任する場合はありますが、小売業が新たな代表者変更によって再生した成功例など、聞いたことがありません。再生計画は5年であり、達成が到底不可能なままで赤字が継続すれば、身売りや破産も検討しなければならず、そうした転換を行う場合であれば、1年ぐらい前にはそうした計画を具体的に立てる必要があるので、実質は4年だと思われます。時間がありません。

 代表者や経営陣が変更すれば、人心掌握と企業グループの把握で半年から1年は必要でしょう。放蕩三昧の無能な経営者であれば害悪なので、即座に消えてもらう必要がありますが、旧経営陣は有能ですし、浪費家でもありません。少なくとも最悪の状態になる前に、私的整理の決断ができただけでも十分な決断力があると感じます。

 それから判断する限り、代表者の維持はある意味当然。財務管理を銀行とファンドから招聘することで、内部改革に注力する体制は、ある意味ベストな選択だと思われます。

 倒産経験者として見れば、実は旧経営陣は退任した方が楽です。茨の道をあえて選択されていると思います。


百貨店再生へ向けて

 ということで、再生に向かって突き進むのですが、山形屋のホームページを見たら、会社案内の部分に、根幹は書いてありました。
「真の百貨店を目指して」と。

真の百貨店」です。

 百貨店が位置付けられるポジションは、良品でアップグレードかつ信頼できる品揃えです。それが時代の隆盛の中で、バイヤー達は自ら商品を探したり、開発することを辞めたことで、実は単なるテナントを集めたショッピングモールに成り下がっているのが現状です。

 真の百貨店であるなら、それにふさわしい商品が、少ないのではと思います。
・年収2千万円超の人が買うものはあるか?
・毎年海外に買い物にいくような人が買うものはあるか?
・ハレの日として永遠に記憶に刻まれるようなものはあるか?
・スタッフが熱く語れる商品はあるか?

 当然にグループ企業だけでなく、テナントにも積極的に百貨店からアプローチしてほしい。百貨店主導の商品として、直売や他の販売網での販売を一定期間制限する代わりに、百貨店で買取販売を行ったり、外商部で積極案内を行うことも条件として提案できるでしょう。
(当たり前に、そうした商品をスーパー部門で販売など、絶対にやってはいけません。だから本当は百貨店グループにスーパー部門など要らない。)

 超ハイスペックなものは、なかなか売れません。売れないから価値があります。買えないけど買いたい、いつもなら買わないけど、機会があれば買いたい。それが品揃えされているのが、ショッピングのエンターテイメントだと思います。

多くの小売業は商品を分析して、より効率的に資本を回転させて利益を拡大することにとらわれて、見るだけでも楽しめるの商品を排除してきました。だから百貨店はテナント頼みのショッピングモールに成り下がったのです。

 思いついた商品企画も数十点ありますが、あえて明示しません。これをスタッフが考えて、それを繰り返しながらブラッシュアップするサイクルが重要です。欲しい商品だけではなく、憧れる商品をラインナップするのが、本来の百貨店の姿だと思います。


がんばれ百貨店

 本当なら、天文館再興には、近隣に5千台程度収納できる何も買わなくても無料の立体駐車場を設置するレベルのことをやるべきですが、店を辞めて駐車場経営でのんびり暮らしている地主が反対するでしょう。

 百貨店は中心商店街の基幹店舗なので、無くなれば当然に街全体が沈みかねません。そのためにベストな結末は、百貨店の存続になります。

 百貨店はイベント会場でもアミューズメントパークでもありません。一時期の集客のためのイベントは必要ですが、最も大切なものは商品力であり、品揃えと、商品を案内できるスタッフの能力強化で、
それなら、山形屋に行って探してみよう
と多くの人に思わせる面白さを持った店づくりが欲しい。

これは結局、全て人の力だから本当は難しい。だからこそ逆境から脱却する有能な方を多く抱えた歴史ある百貨店にしかできないことだと思います。


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