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雇用調整助成金の緩和措置の詳細と法定三帳簿

本記事は、4月11日に配信したポッドキャストの文字起こしに、補足と図表を加えたものです。各図表については引用元のリンクを付けています。

はじめに

今回は雇用調整助成金の緩和措置の詳細と、法定三帳簿の話をしたいと思います。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で事業活動の縮小を余儀なくされている事業主の方が増えているという中で、
4月1日から6月30日については緊急対応期間として、雇用調整助成金の要件をさらに緩和しますよ、ということでアナウンスがされていました。
その概要については前回のポッドキャストで説明したところですが(https://note.com/sr__yorube/n/n695810a1a3ff)、続報と簡素化された申請書類が4月10日に出たので、それについて話したいと思います。

あと、もともと話そうと思っていた法定三帳簿を整えましょうという話も、そこに通じるところなので併せて話します。

申請書類の簡素化

緩和措置の詳細(続報)と合わせて、申請書類を簡素化します、ということと、支給期間(の目安)を2ヶ月からさらに1ヶ月に短縮します、という発表もありました。

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申請書類についても公表されていますが、大幅に簡素化されていて、一層利用しやすくなったと思います。

○様式ダウンロードは以下から。

○緊急対応期間用のガイドブック(簡易版)は以下から。

↑緊急対応期間用ガイドブック(簡易版)13ページにまとまっており、表現も平易で非常に読みやすいです。申請を検討される方はまずこれを読むと良いと思います。全て目を通すのにそこまで時間はかかりません。

解雇か雇用の維持か、の話

それと、支給期間の短縮のところで。

先日、タクシー会社がドライバーの方々を一斉に解雇した、というニュースがありました。会社の主張として、休業手当を支給するよりも、失業手当を受け取ってもらった方が従業員にとっても良い、という判断。また、会社が立て直しを図った際には希望者については再雇用する、という形で、いわば日本版レイオフという形を取る、ということのようです。

雇用調整助成金の制度の複雑さや、支払った休業手当の全額が補填されるわけではないこと、それから支給までの期間が長いこと、などを考えると、そういういわばレイオフ、再雇用を見越したとしても一度解雇して失業手当を受け取ってもらった方が会社にとっても従業員にとっても良いのではないか、と考える選択肢も、経営者の方の頭の中には浮かぶものだと思います。

そのどちらの選択が良いのか悪いのか、というのは会社の状況にもよるし、最終的には経営者の方が責任を持って判断するところだとは思いますが、もし今回の件で検討しなければならないポイントをあげるとするならば、

【①失業給付の受給要件】

まず、再雇用を明言する形で解雇した場合、つまり、今回のように書面で発表した場合、再雇用を約束したとまで言えるかは解釈の余地があるのだろうと思いますが、そうした場合に解雇された期間について失業給付の受給要件を満たすのかどうか、失業給付の趣旨にそぐわないのではないかという部分。ここが解釈の余地があると思います。今回についても労働局の方が趣旨にそぐわない、とコメントしていたこともあり、微妙なところなのかなと思います。

【②再雇用の確約ではないこと】

それとの兼ね合いから、失業手当を受け取ってもらうという趣旨で解雇するならば、書面などで明確に再雇用を約束しておくことは現状だとできないと言っていいと思います。そうすると結局確約がなくて、たとえば会社の側が戻ってほしいと考えても従業員の側が転職するのは自由だし、逆に従業員側が戻ろうと考えていても、必ず再雇用されるとは言い難いと。それが、雇用が維持されない、ということだと思います。

【③解雇の要件と解雇予告手続】

それから、会社の都合で解雇する、整理解雇を行う場合には特に要件が厳しく求められるということ、加えて、解雇を行う場合には30日前までに予告する、という解雇予告の手続が必要なのですが、その手続きが適切に踏まれているのかというようなところ。

などがポイントになってくるのかなと思います。
整理解雇の要件や解雇手続については、シルク・ド・ソレイユのレイオフの回で触れたので、参考にしていただけたらなと思います。

そういう難しさもあって、政府としては雇用の維持を図ってほしいということから、今回、もともとアナウンスされていた雇用調整助成金の要件緩和に加えて、申請書類の簡素化と、支給期間の短縮、ということを発表したのだと思います。

助成金の計算式の中で上限額があるため、もともとの給与額が高い方が多い会社などについては、助成金額が実際に支払う休業手当の額よりも小さかったりだとか、持ち出しが大きくなったりとか、そういう面は当然あるかもしれませんが、少なくとも、支給期間の短縮という面を見れば、雇用の維持を図る選択をしやすくはなったのかなと思います。

書式についてもかなりシンプルになって、計算式が組み込まれたエクセルシートだとかになっているので、相当記入しやすくはあるというところです。リンクを貼っておきます。

雇用保険被保険者以外の方について

今回の4/1〜緊急対応期間について大きな特徴が、雇用保険被保険者以外の方も対象になったことです。つまり、アルバイト・パートの方、それから学生の方も対象です。それらの方は厳密に言うと別立てで、「緊急雇用安定助成金」の対象となります。そのため、様式も「雇用保険被保険者」の分と分かれています。

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また、その関係から、助成率の計算式も異なっていて、休業手当に相当する額×助成率というようになっています。助成率自体は同じですが、計算式は違って、計算の対象も分かれています、という整理になります。

上の図(雇用調整助成金 助成額算定書)が、雇用保険被保険者を対象にした計算式、下の図(緊急雇用安定助成金 助成額算定書)が、それ以外の方を対象にした計算式です。

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原則の計算式についての考え方は前回noteを参考にしてもらえたら。

添付書類も簡略化されていて、既存のもので良い、とされています。例えば、元々の労働日と休業させた日の実績を確認するための書類として出勤簿が必要ですが、今回は手書きのシフト表などでも良い、とされています。
また、元々の給料と、休業手当の支払い実績を比較確認するための書類として賃金台帳が必要ですが、それも今回は、給与明細の写しなどでも良い、ということになっています。

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それに加えて、就業規則や給与規定がある場合はそれを用いて、ない場合、つまり、10名未満の事業所などの場合には、雇用契約書や労働条件通知書の写しなどによって、労働日や労働時間、給与の構成(基本給と通勤手当、とか)などを確認することになります。

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ちなみに、事業所の規模、大企業なのか中小企業なのかで助成率が変わりますが、それを確認するための書類についても労働者名簿で良いです、とされています。中小企業か大企業かというのは、資本金要件と従業員数要件のいずれかを満たしていれば良いですよ、という形で、例えば飲食店であれば資本金5000万円以下または従業員数50人以下、のどちらかに当たれば中小企業です、という判断をします。

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なお、この従業員数というのは、2ヶ月を超えて使用されるものであり、かつ、週労働時間が通常の労働者と概ね同等であるもの、週5日フルタイムとすると週40時間程度、であるものをいう、とされています。

労働基準法における定義と少し違うので注意が必要です。

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法定3帳簿&雇用契約書を整える機会に

ということで、要件が緩和されて、添付書類も既存のものでいいですよ、とされました。
だからこそ、法定3帳簿(労働基準める3つ帳簿、具体的には、賃金台帳、出勤簿、労働者名簿を言います)、それに加えて、雇用契約書、これを整えておくことが今こそ大切だろうと思います。

助成金というのは適正な労務管理が前提にあり、申請の要件として、必要書類を「整備」し、「労働局に提出」し、「保管しておいて提出を求められたらすみやかに提出」する、というのが共通の要件の一つです。それから、労働局の実地調査を受け入れることにも同意する必要があります。

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この先、どこかの時点で従業員の方を休業させるかどうか、という選択肢に直面する可能性がある企業が多いと思うので、会社を守るために、まずは今のタイミングで必要な書類が揃っているのか見直すことが大切だと思います。というところでテーマとしました。

雇用契約書については弟を相手に「雇用契約書には何が書かれている必要があるか」を説明した回があるので、そちらに譲ります。

法定三帳簿はいずれも必要記載事項が書かれていれば様式は問わないものなので、何を書いていなければならないか、というポイントを押さえれば整えられるものです。そこで、項目だけ確認して終わりたいなと思います。

【①賃金台帳】

賃金台帳については8つ。氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、時間外労働・休日労働・深夜労働時間数、基本給と手当額、控除額。

【②出勤簿】

出勤簿に付随して、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインというものが設けられています。大まかに言うと会社は労働者の始業と終業の時間を適正に把握してくださいね、というものです。

労働者の出退勤時刻を目で見て確認する(現認)か、あるいは、タイムカードやPCの記録で客観的に把握するのが原則として望ましい、とされています。労働者の自己申告によって勤怠を管理する場合には、自己申告が適切になされるような措置をとってくださいと。例えば、自己申告されたものとビルの入退館記録などに著しいギャップがある場合には、おそらく自己申告の方が正しくないのでそれを正しく直してください、とか。あとは自己申告に関する上限を設けない(50時間までしか申告するな、としてしまうと、実際に100時間の残業があっても正しく申告できない)など、といったことがガイドラインに書かれています。

出勤簿には、氏名、出勤日、始業と終業の時刻、休憩時間、を記載します。

【③労働者名簿】

労働者名簿には、氏名、生年月日、入社からの部署の履歴、性別、住所、従業員数が30名以上の会社の場合は従事する業務の種類、雇い入れの年月日、退職の年月日とその理由、解雇の場合はその事由もあわせて、あるいは死亡の場合はその年月日とその原因。

いずれも完了の日から3年間保存です。全て違反した場合には30万円以下の罰金の対象にもなります。

まとめ

長くなりましたが、書類の整備が大前提として必要です、ということ。それから、会社も労働者も皆大変な時期なので、だからこそ会社と労働者との間の信頼関係が一層重要になると思います。信頼関係の前提は適正な労務管理ですので、このタイミングで、会社を守るためにも、必要な事項が書かれていれば様式は問わないので、ハードルを下げて、取り組むといいだろうな、という話をしたかったところです。


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○IEYASU株式会社様が運営する『勤怠打刻ファースト』に転載いただきました。


関連URL(再掲)

○雇用調整助成金のページ

○申請様式

○ガイドブック




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