vol.006 波照間ブルー
波照間島と聞くと、ちょっと切なくなるような、胸の中で何かがキュとするような感覚を覚える。それは、ずっとこのまま夏が終わらないで欲しいと願った、おさないころの夏休みを思い出すときに似ている。娘が小学二年生の夏休みから、波照間島へ毎年訪れるようになった。
石垣島から高速船で約一時間、日帰りをしようと思えばできるけれど、私たちは必ず波照間島に宿泊する。日本最南端の島、南十字星が見える島、星空観測タワーのある島、人口約480人の小さな島、黒糖が素晴らしく美味しい島、学校の校庭にヤギがいる島、宿の部屋に星座の名前がついている島、20年前の竹富島を思い出させてくれる食堂「あやふふぁみ」がある島、石垣島から一時間なのにとても遠くまで来てしまったような感覚になれる島、そして「パーラーみんぴか」がある島。
「パーラーみんぴか」は、ため息が出るほど美しいニシ浜から集落へ向かって登っていく道沿いにあるオアシスのような場所。娘と初めて訪れた年は、レンタカーをせずに宿で借りた自転車で島をまわっていた。遊び泳いだ後の火照った身体で自転車を押しながら坂を登り、「パーラーみんぴか」が見えてきた時の救われた気分は、沖縄の夏の太陽を知っている人なら共感してもらえると思う。
私が一番好きなメニューは、何と言っても波照間産の黒糖から作られた黒みつを使ったかき氷、「黒みつスペシャル」だ。上からふりかけられたきな粉との相性も抜群。冷たいものを欲している火照った身体をスーッと冷やしてくれる。黒糖にはビタミンやミネラルが豊富に含まれていて、強い日差しで体外に汗とともに流れ出してしまったミネラルの補給や疲労回復にも効果がある。
そして娘は決まって波照間の海の色をしたかき氷、「はてるまブルー」を注文する。
波照間島の風は、パーラーのウッドデッキの脇に吊るされているウィンドチャイムを揺らし、心地の良い不規則な金属音を奏で、中庭のバナナの葉をゆったりと揺らしながら通り過ぎていく。かき氷を食べ終えた後は、ニシ浜の沖の方でゆらゆらと光を踊らせている青と緑と銀と藍色の海を眺めながら私たちはのんびりと波照間ブルー(*)を堪能する。そしてこのままずっと夏休みが終わらないで欲しいと願うのだ。
*ニシ浜から望む独特の青い輝きを放つ波照間島の海の色を「波照間ブルー」と呼ぶ。
【水野暁子 プロフィール】
写真家。竹富島暮らし。千葉県で生まれ、東京の郊外で育ち、13歳の時にアメリカへ家族で渡米。School of Visual Arts (N.Y.) を卒業後フリーランスの写真家として活動をスタート。1999年に祖父の出身地沖縄を訪問。亜熱帯の自然とそこに暮らす人々に魅せられてその年の冬、ニューヨークから竹富島に移住。現在子育てをしながら撮影活動中。八重山のローカル誌「月刊やいま」にて島の人々を撮影したポートレートシリーズ「南のひと」を連載中。