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vol.017 ガールズファイトクラブ

物心ついた頃から、強い女の子が好きだった。絵本や漫画、映画の中に描かれる可憐で美しい女の子にも憧れはあったものの、自分の中でカッコイイ!と思えた女の子は決まって賢く強かった。

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国の王様を相手にトンチで勝つとか、姫さまと呼ばれながらも植物や生物の学者で巨大な虫を手なずけたりとか、痩せっぽちでチグハグの長靴下をはく少女は、ちっとも強そうじゃないのに怪力でギャング一味を丸ごと退治してしまったりとか、彼女たちは、私の永遠の憧れであり色あせないカッコイイ存在だ。 

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大人になった今では、物語や映画の中の存在だけでなく、実際に出会う魅力的な女性たちのそれぞれの強さに魅せられている。社会の中で弱者とされる人を守るために政治的理不尽な出来事に立ち向かっている人、男の世界だと言われ続けた伝統の技術を自分のものにしている人、重機をあやつり野を開き、畑を耕し料理人として自分が使う食材を育てている人など、私は常日頃から強くて魅力的な女性に囲まれ彼女たちの存在に励まされ、魅了されている。

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美容師のSちゃんにヘアカットやカラーをお願いし始めたのは、かれこれ6年ぐらい前だったと記憶している。 友人の紹介で出会ったSちゃんのところには、カットがしっくりくるとか話が面白いとか、そんな当たり前の理由で長年通っているところもあるけれど、美容師を変えない1番の理由は、彼女が目指す未来の美容室の話を聞いたことがきっかけかもしれない。それは何気なく放った彼女の言葉だった。「理想は、自宅の庭先にあるお店で、長年通い続けてきたお客さんを相手に仕事をするの。お互い一緒に年をとっていく関係」。お店の外観とか内装とか、どんな道具を使いたいかの話ではなく、どんなお客さんが来るのかを話したSちゃんが素敵だと思った。

Sちゃんのことをこんな風に書いた文面を見ると、Sちゃんはほんわか優しい人なのだろうと想像するかもしれない。確かに、ほんわか優しくもある。けれど彼女はなによりとてもカッコイイのだ。

4年ほど前から、体力を付けるためにとキックボクシングを始めたSちゃん。週四日ほど、仕事が終わると夜のトレーニングに通っている。 時折ヘアカットをしながらハードなトレーニングの話を面白おかしく話してくれる。そんな彼女のことを写したくてキックボクシングジムへお邪魔した。

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以前からボクサーの撮影は何度かしていたけれど、女性のボクサーを撮影したのは初めてだった。いつもヘアカットをしてくれるほんわか優しいSちゃんはそこにはいなかった。パンチやキックのトレーニングをするSちゃんは強烈にカッコ良かった。動物的というのか闘争心から来るものなのだろうか、目には見えないエネルギーの膜みたいなものをまとっていた。

熱気を帯びた空間でレンズが曇りそうな中、私は夢中でシャッターを切っていた。

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もし、誰もが大人になってもクラブ活動を選び入部しなくてはいけない世界になったなら、私は迷わず「ガールズファイトクラブ」に入るだろう。その架空のクラブには、ありとあらゆる職種のファイターがいて、素手で勝負する人もいれば、筆を持つ人、鍬や鎌を持つ人、楽譜を持つ人などもいて、さまざまな仕事道具を使い、それぞれの必殺技を持っている。クラブメンバーは相手を自分の技でどれだけ魅了できるかで勝負する。相手に「カッコイイ!」と言わせたほうが勝ちである。

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リング上で美容師Sちゃんは、将来の夢の美容室の話で小さなジャブを打ち込むと、たちまちキックボクシングのトレーニング姿に変身して私を完全にノックアウトしたのだった。

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※取材は2020年12月に行いました。


【水野暁子 プロフィール】
写真家。竹富島暮らし。千葉県で生まれ、東京の郊外で育ち、13歳の時にアメリカへ家族で渡米。School of Visual Arts (N.Y.) を卒業後フリーランスの写真家として活動をスタート。1999年に祖父の出身地沖縄を訪問。亜熱帯の自然とそこに暮らす人々に魅せられてその年の冬、ニューヨークから竹富島に移住。現在子育てをしながら撮影活動中。八重山のローカル誌「月刊やいま」にて島の人々を撮影したポートレートシリーズ「南のひと」を連載中。


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