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SQUA的連載コラム

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沖縄で暮らすひとびとの、日々のものがたりと、思うこと。
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2020年7月の記事一覧

vol.005 コックピットはエプロンしめて

石垣島の北部、野底集落にある小さな小さなお店「まんげつ屋」さんの扉をギギギ〜と開けお店に足を一歩ふみ入れた途端、料理人シノさんの運転する乗り物に便乗させてもらうようなワクワクした気分になる。お店には小さなテーブルが一つとカウンター席のみが設けられており最大六人までの入店が許される。  その日のセットメニュー二種類から私が頼んだのは山芋と梅しそを巻いたフライで、友人が頼んだのは海老カツ。セットについてくる副菜が素晴らしく美味しくて毎度心の中で小躍りしてしまう。シノさんは「ひじ

【犬、哲学をひろう】 02 / 恋のようなもの

コザにある “オールハンドメイド” のシャルキュトリー専門店・TESIO。店主・嶺井大地さんが沖縄の豚肉からつくりあげるソーセージは、2019年、ドイツ国際コンテストIFFA(ソーセージの本場ドイツで行われる食肉業界最大規模の国際見本市)にて、出品した3アイテムすべてがメダルを受賞する快挙を成し遂げています(2つはGOLD受賞、1つはSILVER受賞)。そして今年に入ってからは、コザという街自体を盛り上げる活動にも精力的に取り組み、4,000人という人々を動かすに至っています

tram po line , 004

Naha , Okinawa 2016 【大城 亘】 写真家。沖縄県糸満市出身。東京代官山スタジオ勤務後、写真家大森克己氏に師事。2006年独立。2011年より故郷沖縄に拠点を移し、様々な媒体で活動中。

vol.002 『ルノアールに学ぶ』

僕の記憶の中にある、人生最初のカフェ体験は幼少時代を過ごした町、東京・西荻窪の駅前ビルの地下にあった「喫茶ルノアール」。 繁華街にあるにもかかわらず、階段を降りるとそこはひっそりとした危ないムード。タバコの匂いと、適度な硬さのソファ、モノトーンの清楚な制服を纏い、まるで執事のような口数の少ない店員。 キーワード全てが、大人の世界。 小学生の時は身長が低く、身も心も背伸びばかりしてた僕にとっては、憧れの場所だった。ソファに身を委ね、注文するのは、いつも決まってウインナコー

vol.004 遠足は船に乗って隣の島へ

娘が小学一年生の時、お隣の黒島へ遠足に出かけた。 竹富島から黒島へ直接渡る船がないため、私たちは石垣島へ一度渡り、石垣島の離島ターミナルから黒島行きの高速船に乗り込んだ。船のエンジン音と波しぶきの音が響く中、竹富島を右手に眺めながら私たちは海を渡って黒島へ向かった。 黒島は、竹富島の南に位置し、 人口は約220人ほどで、周囲12.6kmの小さな島だ。牛の牧畜が盛んなことから、「牛のしま」とも呼ばれている。茹だるような暑さの中、確かに島の何処へ行っても牛がのんびりと草を食ん

vol.1 青く生きるひと

泡盛やガジュマルの灰と共に発酵した「琉球藍」の液中へ、インドの手紡ぎ布「カディ」が沈められた。 何かを確かめるよう、布を静かに泳がせる横顔は子を沐浴する母を想わせる。 立ち込める藍の香りと、柔らかな陽に包まれたその窓辺は美しく、眺めるともなくみていると、じっとり湧く汗も、耳をつくセミの声も意識から消えてしまう。 ここは沖縄本島北部、今帰仁村の山あいにある「Ajin」。藍染の泉さんと、青写真の道生さん夫婦が暮らす、自宅兼工房だ。 藍汁したたるカディは固く絞られた後、庭の

tram po line , 003

Kudaka , Okinawa 2014 【大城 亘 プロフィール】 写真家。沖縄県糸満市出身。東京代官山スタジオ勤務後、写真家大森克己氏に師事。2006年独立。2011年より故郷沖縄に拠点を移し、様々な媒体で活動中。

vol.003  家族写真

獣医さんのAちゃんとは、月に1、2回会って、運動をしたり、公園を歩いたり、ランチをしたり、隣島へ遊びに行ったりする仲だ。毎日忙しそうにお仕事をこなす、猫が好きな、普段は無口で物静かな人。私とは暮らしている環境も仕事の内容も全然違うから、かえって一緒にいると落ち着くし気が楽になる。 そんな彼女は数年前から未熟児で生まれた子ヤギを引き取り、ヤギ子さんと名付け、知り合いの牛舎の一角を借りて育て始めた。毎朝、夕、ヤギ子さんのお世話をしに石垣島宮良集落にある眺めの良い小さな牛舎に通っ

vol.001 KOZAで捻りたい。

タイトルでもじったKOZAは、街の名前である。 「コザ」と発音する。 県内では2番目の人口を誇る 沖縄市の中心市街地をそう呼ぶのだけど、 コザの名称は、実は1974年に廃止されている。 それでも多くの人々が未だに街を、この名で語る。 ここは、ネオン瞬く繁華街。 米兵たちの乱痴気が、宵の更けるに任せ高まり、 呼応する様に、路上にグラスの爆ぜる音が響き、女たちの嬌声が上がる。 タトゥーショップ。ライブハウスにポールダンス。 およそ地元民よりも、基地関係者が喜ぶサービスだ。