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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—

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『定本版 李箱全集』を日本で出版すべく、その重要過程である定本作業を記録するマガジン。
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#韓国

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第六十回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第六十回〉

二〇二四年九月一〇日

 日本に帰ってきた。帰ってきたのは8月13日午後18時だった。

 8月13日の韓国も暑かった。7時くらいに起きて荷造りのラストスパート。捨てたくないものも多少捨てて、韓国に来た時のスーツケースよりは少し軽くなった。大好きなマムズタッチのラストディナーは昨日終えた。もう満たされた状態で帰れる。下宿先に知り合いはいたが、私のことを不快にさせる天才なので挨拶もせずにでた。日本に

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第五十九回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第五十九回〉

二〇二四年八月九日

 今日は9時に起きて、ムンク展を見にいった。
3時間ほどかけてみて回った。正直、初期〜中期作品が面白かった。
美術館を出て、銀行へ。300万ウォンまでしか引き出せないポンコツコースの利用者なので、また月曜日に銀行に来て全額引き下ろさなくてはいけないらしい。
そして、よりによってウォン安が進んでいて腹立たしい。金が増えると思って勤労したというのに…減ることがないのを祈って月曜日

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第五十八回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第五十八回〉

二〇二四年八月七日

 今日は朝から活動する。そのために昨日はよく休んだ。
天気は曇りで25度くらいだった。図書館に行って、韓国滞在中、最後の資料収集日となる日だ。

 資料は過不足なく収集できた。しかし「この書誌情報がもう少しあったらいいいな」「このテキストは印刷したけど、必要な時にいちいち書籍を探すのが面倒だから別途また印刷しよう」程度の軽い調査日だ。それと、2日にキム先生と面談したときにオス

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第五十七回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第五十七回〉

二〇二四年八月二日

 鍵を探してスーパーへ。お客様センターのお姉さんに

「き、き、昨日、その、か、鍵、鍵を落としたんです、よっっ、その、えっと」

私は日本語でも韓国語でも、落ち着きがない時、緊張している時はこんな感じの喋り方になってしまう。毎回そうなるわけではないが、今回は吃る要素満載なので喋るのがとにかく大変。

「どこで落とされましたか?」
「えー、えー、えー、あ、そこです!(セルフレジ

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第五十六回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第五十六回〉

二〇二四年七月二八日

バイト先でまだおばちゃんと口論。
私たちは、自分の仕事のほかに、余裕があれば相手の仕事を手伝う感じでやっている。今日は、おばちゃんは私が近くにいて、もうすぐおばちゃんのペースに追いつき私自身の仕事をするだろうと予想したのか、おばちゃんは自分の仕事だけをしていた。あーまたか〜と思ったが、別に怒ったりはしなかった。
しかし、私がおばちゃんに同じことをしたらブチ切れた。厳密にいえ

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第五十五回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第五十五回〉

二〇二四年七月一九日

 帰国前に一度先生に会っておいた方がいい。お貸しした本も返ってきていないし、質問したいこともある。そう思ってメールしたところ、先生は16日から21日までスイスのジュネーブにいるらしい。ジュネーブ?ジュネーブ会議か?旅行か?今の時代にスイスへ旅行に行けるなんて、やっぱり大学教員はそこそこお金になるのかしら…と下品なことを考えた。
 出国前に電話が来た。スイスから帰ったらまた電

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第五十二回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第五十二回〉

二〇二四年六月一九日

 朝早起きして映画館に。今日は「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」を観にいく。先週もみたけどまた観たいと思っていた上、入場特典のクリアカードが可愛くてそれが欲しかったから、簡単に劇場2回目の鑑賞を決意。
 絶対間に合うように出発しているのに、駅から映画館まで走らない日はない。少し遅刻して入場。すると座席がこれだった。↓

 2回目の鑑賞でまたなにか書きたくなってしまった。ということは

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第五十一回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第五十一回〉

二〇二四年六月一二日

 明日。というかもう今日。母親が韓国に来る。入国審査までの手続きをすべて説明することはできないので、詳細がまとめられた記事を送信した。それにもかかわらず、一切読まぬまま色々と尋ねてくる。イライラする。とはいえ気をつけてきてほしい。
 なんと今日も働いた。今週に至っては週2日出勤なのにウジウジしながら出勤。昼ごはんは会社で出前をとってくれて、料金も支払ってくれる。ありがたい。

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第四十八回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第四十八回〉

 サムネイル写真、飽きたのでちゃんとデザインしたものに変更した!
格好良い!これまでの分も全部変更した。
思い返せば訳のわからない写真を使い続けていた。前回までのサムネイルは、論文執筆時の写真。

 論文でよみといた李箱による《破帖》というテキストについて考えたこと、感じたこと、つながったこと、繋げられることなどを網羅的に書いた模造紙四枚の写真。A4用紙に書くより自分の身体より大きな空間に描けば思

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第四十九回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第四十九回〉

二〇二四年五月三一日

 キム先生に会いに東大邱へ。東大邱まではSRTに乗って1時間40分ほど。片道3700円と少し。日本の新幹線に比べれば良心的な値段だが、貧乏人にはかなりの痛手。それでも先生に会いに行く必要があるので、何も払っていないような顔で毎月乗車券を買う。痛くない痛くない。
 
 今日は、キム先生註解「定本 李箱文学全集」に掲載される日本語テキスト6作《異常ナ可逆反應》、《破片ノ景色》、

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第四十七回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第四十七回〉

二〇二四年五月二〇日

 今日はアルバイトなので7時半起床。早い。
実は月給は週払いだったことを知る。清掃系のバイトをしているのだが、ペアで掃除しているおばちゃんが突然、今まで初めて聞いた指示を出してきた
。初めて聞いたし、その掃除業務で使う道具がどこにあるかもしらなかったのに、「教えてもらうじゃなくて自分で仕事探さないと!わかってるもんだと思ってたわ!もう!」とキレてきたので口論に発展。

私「

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第四十六回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第四十六回〉

二〇二四年五月一二日

 朝5時就寝、昼1時起床。
 5時まで作業をしていたので、自分を怒るようなことはしない。
現在は、「鳥瞰図」のテキストデータを再制作中。
李箱のテキストには「鳥瞰図」と「烏瞰図」の二種類がある。
韓国で出版される幾つかの全集では、題目を混同して掲載する例があるため、丁寧に注釈批判しなくてはいけないなと考えながら手を動かした。

 しかし原文資料をトレースしながらテキストデー

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第四十五回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第四十五回〉

二〇二四年五月七日 作業日誌

 バイトがないので自宅作業。最近は、自宅でできる作業ばかりなので、図書館に行っていない。作業環境を変えたいので図書館には行きたいと思っているが、駅から10分歩かなければならないのと、図書館までの道のりで計測作業をしていた時の嫌な記憶が蘇ってつらいのでなかなかその気になれない。あと過眠が酷くてなかなか起きられない。 
 起きて、映画を見に行く。映画を見る前の3時間くら

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第四十四回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第四十四回〉

 風邪をひいていた。
作業しなければいけないとわかっていたし、日誌をもっと更新できるように!と意気込んでいた矢先のことだった。
 喉には棘のある植物がずっと寄生して呼吸するたびにそよそよと動いている感覚があって気持ち悪い、下宿の廊下の匂い、自分の部屋の匂い、隣の部屋のご飯の匂いや服の匂いなども直接脳に届いて痛みにつながる、腰も反対方向に曲げたら折れそう、自分がパスタの、あの細い一本になった気分。そ

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