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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—

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『定本版 李箱全集』を日本で出版すべく、その重要過程である定本作業を記録するマガジン。
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2023年11月の記事一覧

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十一回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十一回〉

 昨日は10時から15時、17時から22時までのフルタイムでアルバイトをした。
今日は、国民大学성곡(ソンゴク)図書館に行き、朝鮮建築学会編『朝鮮と建築』を見にいくことにした。影印版なのか、原本なのかわからない。(大学図書館でもただ本を見るだけなら大丈夫だ)という噂を小耳に挟んだので、とにかく行ってみることにした。

 もし本当に、大学内で一般人でも閲覧可能だとしたら
《異常ナ可逆反應》、《鳥瞰圖

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十九回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十九回〉

 今日は、非常に面倒臭いが重要なことを記述しておかなければならない。

 11月22日更新の「定本作業日誌—『定本版 李箱全集』のために—〈第十五回〉」において、原本ではないが原本の影らしき線を紙の上に見つけたと記した。だがよく考えてみたら、その線は確かに原本が紙のサイズより小さいがために映り込んでしまった線で、印刷で縮小したり拡大している可能性も考えられる。「紙のサイズより原本は小さい」というこ

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十八回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十八回〉


 東京から返事が来ない。
24時間くらい待った。あ、やっぱり正直に言いすぎたかな…と脅しみたいになったかな…もう一緒に作業してくれないか…仕方ない彼には彼の人生が…と心配事が膨れ上がり、やや諦めかけて塞ぎ込もうかというタイミングで、東京の名前が通知にあらわれた。

1. 論文について
2. 作業への協力について
3. 僕のことについて

と3つのパートに分かれた返事をくれた。これも全文掲

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十七回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十七回〉

 「이상 소설 연구(李箱小説研究)」(1999年、소명출판)は絶版だった。
 韓国の大規模書店교보문고に行っても在庫なし。店員さんに出版社まで電話確認してもらうと“絶版”という言葉が言い渡された。ネットならあるかもしれないよ、と店員さんに言われ、同じ下宿の人に頼み込んで、二回もインターネットで中古本を購入しようとした。しかし配達遅延を何日か経てやっと連絡がきたと思えば在庫がないという連絡だった。

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十六回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十六回〉

 今日は、ソウル大学の中央図書館に行き、朱色影印版の計測をする予定だった。しかし起きて、李箱の家に行こうと思いついたので、そうすることにした。

 李箱の家には、李箱のグッズやポストカードなど観光的要素もありながら、テキストが所蔵されているとネットで見たことがあった。写真ではよくわからないが、もしかしたら原点があるかもしれないと思った。

 李箱の家は景福宮駅2番出口から、徒歩10分くらいの場所に

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十五回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十五回〉

 朝8時に起きてソウル大学に行こうと思ったのに、起きたのは9時半。寝たのが4時頃だったから、寝坊した。やっぱり5時間半は寝ないとだめらしい。

 ソウル大学図書館に着いたのは11時頃。そこから事の展開は早かった。

 まず外国人登録証と館内利用カードを交換して、四階の古文献資料室に突き進む。トイレで歯磨きを済ませて、『朝鮮と建築』の朱色影印版を閲覧申請する。前回は、この朱色影印版と紺色版影印版のど

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十四回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十四回〉

 今日はソウル大学に行く。前回は、国民大学の図書館に『朝鮮と建築』の原典があると聞いて訪問したものの、関係者以外立ち入り禁止でとぼとぼ帰った苦い思い出がある大学図書館訪問編。果たして今回はどうか。

 ソウル大入口駅に到着。マップを広げてみると図書館まで徒歩1時間。降りる駅を間違えた。冠岳山駅が最寄りだったのをすっかり忘れていました。駅員さんに降りる駅を間違えたと伝えて、改札を通してもらったはいい

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十三回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十三回〉

 二〇二三、一一月、二日。
 国立中央図書館で作業をしていた時に薄々思っていたことがある。それは(私は私の計測結果を信用できないかもしれない)ということだ。
 私はもともと複数の不安に襲われることがよくある。生活でも、仕事でも。家を出るのにも大変なことがある。コンロの火消したかな。コンロ使ったっけ。使ってないよな。使っていないけど、服に引っかかってついてたらどうしよう。あれ、窓閉めたっけ。窓、どこ

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十二回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十二回〉

 前回の続き。2023年11月2日、国立中央図書館に行ってきた。
やはり『朝鮮と建築』の原典は見られないようなので、一旦影印版で確認することになった。

 つまり、本当は原典を確認してサイズを測り、テキストデータを作成したいのだが、現実的にそれはできないので、妥協案として影印版のサイズを測り、精密なテキストデータ作成を目指すということだ。
 早くも妥協しなければならないのは悔しい。けれど、教授でも

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十回〉

 定本作業日誌をサボってしまった。生活が大変だった。韓国で暮らす部屋に入居したり、それに慣れるのを頑張ってみたり、散歩して街に体を馴染ませたり、前回の定本作業日記から二日後、ばあちゃんが亡くなって日本に一時帰国したり、色々あった。人間色々あるように、私も色々あった。ワードにはたまに書いているけれど、こうしてnoteに更新することが億劫になっていた。

 でも研究は続いている。本を読む時間や気力はな

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第九回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第九回〉

 韓国に来てもう一週間が経とうとしている。若干聴覚過敏気味だろうか。ずっと監視されていてるような、壁が迫ってくるような感じはある。相変わらず、抑うつ。今の部屋が私の安らぎの場所となることはなさそうだ。ドンマイがんばれ。

 昨日も今日も、帰ってきて布団に倒れ込んで5時間ほどうたた寝してしまうリズムになっている。今日はすごく疲れて何もできなかったが、昨日は少し「R I S S」を利用して調査を行った

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第八回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第八回〉

 国立中央図書館まで自転車で1時間圏内の場所に家を借りたのに、なかなかどうして原本に触れられるまでの道のりは想像以上に長く、不可能性がもわわぁんと漂っている。国立中央図書館というのはわかりやすくいえば、韓国で一番大きい、何でもある図書館だ。

 滞在している良才駅付近のコシテルから国立中央図書館までは徒歩で1時間。歩ける距離なので下見調査のつもりで歩みを進めた。下見調査のつもりなのに鞄は重い。

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第七回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第七回〉

 今日は論文を読みながら参考文献を抽出した。私は、テキストに関する解釈などは余程のことがない限り興味が湧かないので、読み飛ばすとあっと言う前に読み終えた。参考文献は、1930年代後半の文壇や詩、雑誌、作家に関するものが多く、李箱の活動期及び生存時期と重複しているかは怪しいが、過去を知るためにはその後を知るという手段もあり得るだろう。根気強く読んでいきたい。

 2023年10月8日、ゼミの担当教員

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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第六回〉

定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第六回〉

 昨日10日、韓国に到着して、換金しに明洞へ行き、内見に行き、ホテルにチェックインするだけだったが、どれも40キロほどの荷物を運搬して、韓国語で質問したり応答しなければならないので、疲労困憊だった。あれだけ身動きが取りづらく言葉もままならないと、外国人と障害者というマイノリティを一気に背負ったようだった。
20時に時間ほど一度寝て、風呂に入って、また0時くらいから7時半まで寝た。
 11日した作業

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