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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十二回〉

 前回の続き。2023年11月2日、国立中央図書館に行ってきた。
やはり『朝鮮と建築』の原典は見られないようなので、一旦影印版で確認することになった。

 つまり、本当は原典を確認してサイズを測り、テキストデータを作成したいのだが、現実的にそれはできないので、妥協案として影印版のサイズを測り、精密なテキストデータ作成を目指すということだ。
 早くも妥協しなければならないのは悔しい。けれど、教授でもない一般人の私にとってはどうしようもないことだ。
計測手順は以下の通り。

①資料取り寄せ
 今回は、『朝鮮と建築』(朝鮮建築学会編、影印版、민족문화、1997年出版)を取り寄せる。外国人でも外国人登録証があればカードが作成できるし、外国人登録証がなくても一日券で入場可能。所有しているIDとパスワードでログインし、閲覧したい資料を「바구니」に追加する。そして「바구니」の中から資料を申請すると、30分ほどで選択した階に資料が到着する。

②テキスト観察
 本を取り寄せたら、まず読みたいテキストがちゃんとその本に印字されているの確認する。なければ再度検索か、相談室に行って相談する。
 本にテキストがあれば、まずそのテキストが右に向かって進行する本なのか、左に向かって進行する本なのかをみる。どのようにすれば測ったサイズを記録しやすいか検討していく。ほとんどの場合は、サイズ計測場所が多いので複写したテキストに測ったサイズを書き込んでいくことになるだろう。
 わずか数分のことだが、テキストをまず観察して、後々自分が最も作業しやすいかたちを現在考えて選択していくのはとても重要な作業だと言える。

③計測作業準備
 計測作業で使う道具は、「30cm定規、巻き尺、0.3mmシャープペン、消しゴム」だ。こだわりとしては二つある。
 一つは巻き尺。本はどれほど平行な机においてもまっすぐ平らになる状態で開くことはかなり難しい。資料を慎重に扱おうとすれば、そもそも平に開くことが難しい場合もある。そういった場合は、カーブに対応できる巻き尺が便利なのだ。
 もう一つは、0.3mmシャープペン。0.5mmでは駄目だ。例えばA4縦サイズに所狭しと計測結果が記入されていくのに、0.5mmで書いていると文字が潰れてしまって、数字がわからなくなる。さらに、芯が太ければ太いほど手や水に濡れると文字が潰れたり、消えやすいものなので、細い芯の方が好ましいのである。

④計測作業
 計測する場所はいくつもある。
 まず、私が計測しなければならない箇所は大きく分けて二つ。
 一つは、頁。二つ目は、文字。

 頁は以下のような手順で計測する。
 頁の縦横のサイズはもちろん文字の上端部分から頁上端部分まで。また、一字下げ字の文字上端部分から頁上端部分まで。文字下部分から頁下端部分まで。文字左部分から頁左端部分まで。文字右部分から頁右端部分まで。頁に関することはだいたい測っていく。
 現場で、テキストや紙を見ながら判断していくことも多くあるので、この指示表は常に更新され、常にあてにならない。
指示書→現場での対応→指示書の変更 この繰り返し。全部が流れていくものだと思うと良い。

定本作業において頁における計測を行うときの指示書。
日本にいるときに、想像で必要そうなサイズを書き出して作成したもの。


 文字は以下のような手順で計測する。これも現場で計測してみると変更点がかなり多いので、指示書を見ながら作業した試しがない。
 タイトルの文字サイズ、章タイトルの文字サイズ、本文の文字サイズ、これら全てを測ることは不可能に近いのでテキストごとに法則を見つけて、楽に測れる方法を思いついた(と言っても、この作業の負担が少し減るだけだが)。
 ダーシや伸ばし棒の長さを測ったり、行間を測ったり、文字と言いつつ、文字らしき形のもの、文字を文字たらしめるものはだいたいこの工程で測っていく。

定本作業において文字における計測を行うときの指示書。


 この作業を始めてやったとき、一ページの頁計測、文字計測を含めて3時間かかった。迷いながら、考えながらやりなおしながら進めたので仕方ない。
 しかし、自分の中でルールややり方が確立されていくと、1時間で一頁分作業を進められるようになった。つまり、9時開館の図書館で、取り寄せなどの準備を終えて作業スタートが10時だとすると、18時の閉館まで1日で8頁の作業を進めることができるようになった。
 もちろん、そんな淡々と進められる日は少ないのだが、不可能ではない。

 また、テキストデータ作成の工程が始まると、計測不足の箇所や不要な箇所も出てくるだろうから、はやくテキストデータ作成に移るのもいいかもしれない。
 図書館にいる時は、昼ごはんは食べない。本当は食べた方がいいとわかっているのだが、作業の流れと、図書館から出るとまだ荷物を詰め替えないといけない時間を考えると食べない方が作業効率が圧倒的に上がる気がするからだ。いけません。こんな作業の仕方は。

 11月9日は坂道を少し上ると汗をかくような気候だった韓国ですが、
11月10日は午後には1度、11月11日、ペペロデイ(ポッキーの日見たいな)には0度になりました。寒暖差どころか、季節が一つ終わりました。いきなりでした。

体が一番大事だ。よく寝て、よく食べろ。


二〇二三、一一月、二日執筆。二〇二三年、一一月、一一日追記、更新。

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