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『五反田物語』の創作裏話

このマンガは表題作の連作短編を中心にした短編集です。

『五反田物語』は、1話ごとに登場人物たちが19歳、20歳、21歳と年齢を重ねる中の出来事のひとつに焦点をあてる形式で描くことで、歳を重ねるのはあっというまかもしれないけれど、人生における大切な変化が大なり小なり起きているのかもしれないという視点で描いています。

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2020年11月現在で24歳まで発表しており、この短編集には19歳から21歳までの3話が収録されています。
その続きは次に短編がまとまったときに書籍化されるかと思います。

『五反田物語』を連作短編にしたのには理由があって、シンプルに週刊連載をするのは大変そうだからでした。

当時、漫画家デビューまもない頃に月刊IKKIにて連載中だった『俺はまだ本気出してないだけ』を読んだ、週刊スピリッツの編集者Oさんに声をかけて頂いたのがきっかけでした。

早速、スピリッツ編集部のOさんとお会いしてマンガについて語り合い、一切の迷いなく一緒にお仕事させて頂きたいと思いました。


Oさんは物腰がとても柔らかく温厚の塊のような人ですが、いざマンガの話になると見習いたいくらいにマンガに真摯に向き合っていて、静かな口調のなかにも確かなマンガ愛をしっかり感じる素敵な編集者さんで、いつでもOさんとマンガについて語り合うのは楽しく、とても背筋の伸びる気持ちにさせてくれる大変にありがたい存在です。

週刊連載は今のところ考えていない旨をお伝えし、短編をいろいろ描いてみたいと相談して了承を頂きました。

青野「Oさんはどんな題材のマンガを読んでみたいですか?」

Oさん「青野さんの描くマンガならいろいろ読んでみたいので迷いますね。あ、でも前に少しお話しされていた、青春を題材にした青野さんのマンガをぜひ読んでみたいです」

青野「承知しました。では青春を軸に話しを作ってネーム(マンガの原型)にして連絡させてもらいます」

こうして題材は“青春”となった。

僕自身は幼少期から早く大人になりたいと常に願いつつ生きてきたけれど、年齢を除けば何をもって大人と言えるのかは特に考えたことがなかった。
なので、どんなに年齢を重ねても青春を送る人々を描いてみようと思い立ち『五反田物語』の設定を作った。

簡潔に言ってしまうと、アメリカの詩人、サミュエル・ウルマンの詩、『青春』の冒頭の文章

 “青春とは人生のある時期のことではなく、心のありようのことを言う” 

と、いう考えかたに基づくような人々の生き様を青野風にマンガにしてみました。

主な舞台になる街を五反田に選んだ理由は、漫画家になる前に五反田のキャバクラでボーイをしていたこと、街の雰囲気、それと語呂がいいなと思い決めた。

そこから早速ネームを3話分描いてOさんに読んでもらい、連作短編でこつこつ続けて行くのもいいかもしれないと言うアイデアもお伝えした。

Oさんは、予想以上に喜んでくれて連作短編シリーズ化も賛成して頂いた。

それからはOさんがテキパキと段取りをつけてくれ、週刊スピリッツに短期集中連載として3週にわたり掲載して頂いた。

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けれど、一定の読者には楽しんで頂けたが『俺はまだ本気出してないだけ』の印象が強い読者からは酷評とまでいかなくとも微妙であるとの反応も少なからずあった。

「自由に描きすぎて伝わりにくい描き方をしてしまった」と、反省の言葉をOさんに伝えるとOさんは考える間もなく「おもしろいから大丈夫です。ぜひ続けていきましょう」と力強い言葉をかけてくれた。
そのおかげで、そこから時期を見て22歳、23歳、24歳と続きを発表すると、喜び楽しんでくれる読者が増え「もっと続きを読みたい」と熱いメッセージをくれる読者もいて、Oさんの「おもしろいから大丈夫です」という僕を信じてくれる最初からブレない気持ちのおかげで新しい読者がついてくれた。

それなのに身体を壊してマンガそのものを描けない状態でいますが、時間が許す限り25歳以降の『五反田物語』も描き続けていきたいと思っている。

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話が前後しますが、そんな素敵なOさんのありがたすぎる気持ちに対して、僕からも何か返せないものかと考えた結果「読んで頂きたいネームがあります」と唐突にOさんに読んで頂いた作品が、僕にとって初めての週刊連載となった『100万円の女たち』というマンガです。

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