見出し画像

序章:なぜビジネスは失敗するのか?

起業なんて、一握りの天才にしかできっこない。
自分みたいな凡人には、絶対に無理に決まってる。

このように感じている方は多いのではないでしょうか。確かに、メディアで取り上げられる成功者は往々にして非凡な才能を持つ人物であり、彼らの成功物語は一見、遠い世界の出来事のように思えるかもしれません。起業家のエピソードで語られる内容には、独創的なアイデアや圧倒的な行動力、卓越したリーダーシップで乗り越えた!といった、まるで「プロジェクトX」のようなシーンが数多く登場します。これらは確かに重要な要素の一つですが、果たして本当にこれだけが起業成功の条件なのでしょうか?

実際、日本におけるベンチャー企業の現状を見てみると、その生存率は驚くほど低いです。創業から5年後の生存率はわずか15.0%、10年後には6.3%、そして20年後には驚愕の0.3%にまで減少します。こうした数字を見ると、「ほら見ろ!やっぱり凡人には無理じゃないか!!」と思われるのも無理はありませんよね。
数字を見ると、起業に対して恐怖を抱くのも当然です。スタートアップを立ち上げること自体が高いリスクを伴い、そのリスクを乗り越えて成功することがいかに難しいかが、この数字からも明らかです。

しかし、一方で中小企業白書によると、日本の中小企業の5年後の生存率は81.7%にも達しています。これはアメリカやドイツの50%を大きく上回る水準です。つまり、日本のベンチャー企業だけが特に低い生存率を示しているのです。このデータは、起業に対するアプローチやマインドセットに問題があることを示唆しているとも言えるでしょう。大手企業や中小企業と比べ、ベンチャー企業が生き残るのがいかに困難であるか、そしてその理由を探ることが、起業の成功にとって非常に重要なのです。

失敗の原因

では、なぜ日本のベンチャー企業はこれほどまでに生き残るのが難しいのでしょうか?その原因として、以下の3つの要因が挙げられます。

1.成長ステージに合わせた資金調達ができない

  • ベンチャー企業は、特にアーリーステージで資金調達が難しく、その結果として、必要な開発資金を確保できずに倒産に追い込まれます。多くの企業がビジネスモデルの確立や収益化の前に資金が底を突いてしまうのです。これは、特に創業者が事業計画を十分に練らず、資金計画を甘く見積もることが原因である場合が多いです。

  • 創業期には、事業のアイデアやビジョンに共感してくれる投資家を見つけることが重要ですが、それができない場合、企業は自力での資金繰りに追われ、最終的には力尽きてしまいます。さらに、資金が不足している状況では、企業は短期的な利益に追われ、長期的な視点を失いがちです。このような状況では、革新的なアイデアやビジョンを実現する余裕がなくなり、結果として、事業が成長しないばかりか、倒産に追い込まれてしまいます。

2.経営知識を持っている経営者が少ない

  • 多くの創業者が技術者出身であり、経営に必要な知識やスキルを持っていません。そのため、経営判断を誤ることが多く、結果的に事業が失敗に終わるケースが多々見られます。例えば、製品開発に全力を注ぐあまり、マーケティングや営業、財務管理などの重要な要素を軽視してしまうことがあります。

  • 適切なマネジメントや財務管理の欠如が、事業継続の障害となります。多くの創業者は、自分の得意分野にばかり集中してしまい、経営全体をバランスよく管理することができません。これが、ベンチャー企業の成長を阻む大きな要因の一つです。加えて、経営知識が不足していると、組織運営におけるリーダーシップや人材育成が疎かになり、企業文化の醸成やチームの一体感を欠いてしまいます。これにより、企業内部でのコミュニケーションが不足し、組織の効率性が低下するリスクも生じます。

3.VC(ベンチャーキャピタル)からの出資を得にくい

  • 特に日本では、VCからの資金調達が難しいと言われています。VCがリスクを取らず、成長ステージに合わせた出資が行われないことが原因です。日本のVC市場は、アメリカに比べてまだ成熟しておらず、リスクを取る文化が根付いていないことが背景にあります。そのため、革新的なアイデアを持つ企業であっても、十分な資金を調達するのが難しいのです。

  • その結果、企業は資金不足に陥り、成長のチャンスを逃してしまうのです。資金が不足すれば、どれだけ優れた製品やサービスを持っていても、それを市場に投入することができず、結果として競争に負けてしまいます。さらに、VCからの出資が得られないことで、企業は成長のためのリソースを確保できず、競争力のあるポジションを確立することが困難になります。

これらの問題は、日本だけでなく、世界中のベンチャー企業に共通して見られるものです。特に、「死の谷」と呼ばれる創業期からアーリー(発展期)にかけての時期に、多くの企業が資金不足により倒産してしまいます。この「死の谷」を乗り越えるためには、創業者が持つビジョンや情熱だけではなく、適切な資金調達、経営スキル、そして市場ニーズに応じた製品開発が不可欠です。これらを怠ると、いくら優れたアイデアや技術を持っていても、それを実現することは難しいでしょう。

死の谷を乗り越えるには

ベンチャー企業は、シード(創業期)、アーリー(発展期)、ミドル(事業拡大期)、レイター(安定期、上場期)の4つに分類されますが、創業時に用意した資金が尽きて倒産する「死の谷」が待ち受けていて、大半のベンチャー企業はここで力尽きてしまいます。

引用:Forbes Japan「死の谷」を越えた起業家たちが当たり前にしている14のこと」

米国の調査会社CBInsightsが2019年に実施した調査によると、失敗したスタートアップ企業の42%が「市場ニーズの欠如」を原因として挙げています。次いで、資金不足(29%)、適切なチームの欠如(23%)などが続いています。これらのデータからも分かるように、多くのベンチャー企業は市場にプロダクトを投入する前にキャッシュが尽きてしまい、「死の谷」に落ち込んでしまうのです。この状況を避けるためには、何よりも市場ニーズを正確に把握し、それに応じた製品やサービスを迅速に提供することが求められます。

さらに、失敗した企業の多くは、市場ニーズを過小評価したり、自社の技術力や製品力に過信していたことが原因であるとも言えます。市場が求めるものと企業が提供するものが一致しない限り、どれだけ優れた技術や製品を持っていても、売れるはずがありません。また、適切なチームビルディングができていない企業は、開発や運営において一貫性を欠き、結果として製品やサービスの質が低下する傾向にあります。このような要因が重なることで、企業は次第に競争力を失い、最終的には市場から退場せざるを得なくなるのです。

しかし、この「死の谷」は、これから紹介する手法を実践することで、ほぼ100%回避可能なのです。起業家にとって最も重要なのは、適切なタイミングで適切なアクションを取ることです。本稿では、そのための具体的な手法を提供します。残念ながら多くの企業がこの手法を知らない、あるいは知っていても実行していないために、結果として罠に陥ってしまうのです。

それでは、一体何をすればよいのでしょうか?

失敗する努力をしない

答えは非常にシンプルです。「間違った方向に頑張らない」という一点に尽きます

多くの企業が陥る罠の一つは、無駄な努力に時間とリソースを費やしてしまうことです。たとえば、製品の機能を無駄に複雑化したり、必要以上に高機能なプロトタイプを作成することで、時間とコストを浪費してしまいます。このような場合、企業は本来の目的である市場投入や収益化から遠ざかってしまい、結果的に失敗してしまうのです。

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という格言があります。成功には普遍的な法則が存在するわけではありませんが、失敗には明確な理由があるのです。経営学やその他の分野における研究結果によって、多くの起業家が「失敗するための努力」をしてしまい、結果的に「死の谷」へと迷い込んでビジネスが立ち行かなくなっていることが指摘されています。

たとえ革新的なプロダクトであっても、市場に必要とされなければ売れません。その結果、会社はキャッシュを失い、経営が行き詰まってしまいます。前述の調査で最も多くのベンチャー企業が倒産した理由として「市場ニーズの欠如」が挙げられていることからも分かるように、「自分が売りたいものを売る」「これが便利だからみんな使ってよ」といった企業側の主観によるビジネスプランは、現代において非常に勝率の低いアプローチであることが明白です。

さらに、起業家が「これがあれば必ず売れる!」と信じていても、その思い込みが実際の市場ニーズと合致しなければ、プロダクトは失敗に終わります。多くの起業家が自分の信念に固執し、市場の声に耳を傾けないことで失敗してしまうのです。企業が自分の都合や視点にとらわれ過ぎてしまうと、顧客の真のニーズを見失い、ビジネスの成長が阻害されてしまいます。

本稿では、スパルタキャンプで教えている起業の手法をテキスト化し、企業側の視点ではなく、顧客側の視点を基本に置くことで事業を成功させる方法を解説します。この方法は、シリコンバレーのスタートアップアクセラレーションプログラムでも必ず教えられている、世界で最も確立された新規事業開発手法の一つです。シリコンバレーでは、どのような規模の企業でも、この手法を実践することで成功確率を大幅に高めています。

本noteマガジン「失敗しない起業の教科書:シリコンバレー流スタートアップの教え」では、次の章からスパルタキャンプの実際の講義で解説している基本的な内容を公開します。これらの手法は、起業家が直面するさまざまな課題に対して、効果的な解決策を提供するためのものです。さらに、本稿では具体的な事例を通じて、理論だけでなく実践に役立つ知識を提供します。

たとえば、シリコンバレーで成功を収めたあるスタートアップは、顧客の声を徹底的に聞くことで市場ニーズを的確に捉えました。その結果、当初のビジネスプランを大幅に変更することになりましたが、その柔軟な対応が功を奏し、最終的には競争の激しい市場で確固たる地位を築くことができました。このように、成功した企業の多くは、市場の声に敏感であり、常に顧客のニーズに応じて製品やサービスを進化させています。

よりディープな内容や実践的なアプローチについては、スパルタキャンプ本編の講義の中で詳しく解説しますので、興味のある方はぜひご参加ください。本稿が、皆さんの起業の成功に少しでも貢献できることを願っています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?