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金川真弓さんのヴァイオリンと異文化

わたしは日本には住んでいないので、日本の新しい演奏家の情報には通じていませんが、今朝の産経新聞に紹介されていたある演奏家の談話に興味を持ちました。

興味が引かれた部分、少し引用すると

子供のころからオーケストラを聴いていました。ドイツとアメリカのオーケストラの音が違います。アメリカは観客を喜ばせるショーマンシップの国ですし、大きな音が好きなのです。日本も含めたアジアは子供のクラシック教育システムがしっかりしていますが、ドイツはそうではありません。子供が興味なければやらなくていい、という感じです。センスはいいけれど、子供のときにテクニックの練習をあまりしていない人がいます。

「子供が興味なければやらなくていい」ってホントそうなのです。

わたしの住んでいるニュージーランドもオーストラリアも同じで、義務教育でも音楽に興味を持たない子供には音楽を教えないので、ほとんどの大人はドレミファソラシドの音程も取れない歌えない。

日本の音楽の先生のように無理にエチュードをやらせないし。

スキだから音楽をやるって姿勢が徹底しています。

アメリカオケの「ショーマンシップ」に吹きました(笑)。

全くその通りで、わたしはアメリカのオーケストラの演奏はどんなに技術的に優れていても、録音でも実演でも自分から聴きたいとは思えない。

シカゴ交響楽団とか、クリーヴランド交響楽団だとか、音響的にはものすごい演奏をするのだけれども。

クラシックは完全なエンタメなのですね。

わたしはクラシック音楽をエンタメ以上のものだと思っている人間ですから。

東欧ルーマニアのディヌ・リパッティが「音楽は(人生の)深刻な問題である」と語ったように。

一概にクラシック音楽といっても、全くマルチカルチュラル。

どんなにグローバル化が進んでも、やはり国ごとの文化的な個性があります。

わたしが実演で聴いた日本のオケの音は、音楽的にはいつも完璧なのに、自由度(Spontaneity)がなくて学校の教科書のように面白くない(とても優秀なのだけれども)と思ってしまいました。

さて、異文化の違いをよく理解している金川さん、今まで聞いたこともなかったのですが、このたび YouTube で初めて聞いてみて、若い頃のイタリアのニコロ・パガニーニのギターデュオ、素直で真っすぐな良い音だなと感心しました。

技術的にも抜群ですね。

こちらはドイツのヨハネス・ブラームス。

ヴァイオリンを弾く人生、アスリートと同じ肉体労働者だと金沢さんも述べておられます。

全くその通りで肉体を酷使して音を作る音楽家は大変です。

子どもには楽器かスポーツをやらせるのがアジア人的な子供の教育なのですが、肉体の鍛錬のためという意味では楽器練習は教育的に正しい。

でも楽器演奏の技術を獲得しても、その楽器で何をするか?

西洋クラシック音楽とは全くヨーロッパの文化です。

人類の全ての人にとって普遍的な文化でも何でもない、けれども世界中の数ある音楽文化の中でも際立って高度に発達しているのがヨーロッパのクラシック音楽。

人類の全ての人にとって(ほぼ)普遍的な五線譜を考案したのはクラシック、この意味で絶対に重要ですが。この意味では普遍的な教養ともいえますが。

非ヨーロッパ文化圏で生まれ育った人がどうしてヨーロッパ音楽をするのか。

非日本文化圏で生まれ育った人が、日本の歌舞伎や漫才や落語をするのと本質的に同じ問題を孕んでいるはずなのに、何ゆえに非ヨーロッパ人はヨーロッパ音楽をこれほどまでに愛するのだろう。

ピアノやヴァイオリンは100%ヨーロッパ起源の楽器なので、ヨーロッパ文化から生まれたものだけれども、いまではほとんどそんなことを気にする人もいない。

われわれの日常にあまりに当たり前に溶け込んでいる。

でもだからと言って、この異文化の文脈でバッハやパガニーニを弾いて良いわけがない(と私は思う)。

外国人は日本発祥の柔道や空手や合気道を武道としてではなく「スポーツ」として、日本の外の国で楽しんでいるからそれでもいいのでしょうか。

Authentic ではない!

オーセンティックというカタカナ語。本物ではない、正真正銘という意味です。

これがグローバル化なのか。

金川さんはドイツ生まれでアメリカで生まれ育った人なので、どこまで日本人なのかは複雑なのですが、だからでしょうか、彼女のヴァイオリンには日本人奏者っぽい音がしない(五嶋みどりみたい?)

だからでしょうか。

私が彼女のヴァイオリンを一音聴いて、いいなと直感的に感じてしまったのは。

何か違う。

何が違うのかはじっくり考えないといけないことだけれども。

わたしも日本人なので(日本生まれで日本で教育を受けて、人生の大半を外国で過ごした人です)日本人演奏者らしさを特に悪いとは思わないけれども、日本人やアメリカ人の演奏を聴くと異文化だなあと思ってしまう。

わたし自身も、今はどこに行っても全くの異文化の人なので、人ごとではない。

北半球に搾取されているグローバルサウスの人たちは、クラシック音楽を文化帝国主義の先鋭のようなものだとみなしている。

インド文化圏やイスラム圏の人たちも、クラシック音楽にほとんど共感しない

わたしの周りにはこういう人たちがごろごろいる。そしておかしな訛りの英語を文法やアクセントなどの正しさを一切意識せずにしゃべっている。

自分は欧州のクラシック音楽が心底大好きで、欧州から遠い土地で欧州文化を偏愛しているおかしな人間なのかもしれない。

非日本人的な演奏をする金川真弓さんの言葉に、思わず考え込んでしまいました。

ブラームスの全曲動画はこちらです。

フランスのオケ(フランス国立ロワール管弦楽団)で、このオーケストラの音もまた、自分にはドイツ音楽らしくは聞こえないのだけれども(笑)。

金川真弓さんは個人的に応援したいと思います。実演で聴いてみたい。

二千字の少し長い呟きでした(笑)。

ほんの小さなサポートでも、とても嬉しいです。わたしにとって遠い異国からの励ましほどに嬉しいものはないのですから。