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スチームパンクの魅力

スチームパンクというSFジャンルをご存知でしょうか。

19世紀ヴィクトリア英国と20世紀初頭のエドワード英国の産業革命時代には、新しい機械文明の到来が期待されていました。当時、大英帝国は世界最大の国で最先端の文明力を誇っていました。

そうした産業革命時代を背景にして、フランスのジュール・ヴェルヌやイギリスのウェルスなどはさまざまなSFフィクションを発表しました。

やがてはこうした科学への過信は人類史上未曽有の世界大戦へと辿り着いてしまうわけですが、20世紀半ばになっても、産業革命時代の風俗と新しい世界への期待感にあふれていた時代への懐古と愛着は失われず、1980年代ごろからいわゆる人類が宇宙の世界へ挑むサイバーパンクとは別のSFが生まれたのでした。

それがスチームパンク。

スチームとはSteam (蒸気 : より英語的にはスティーム) のことで、内燃機関が発明されずに、外燃機関の蒸気エンジンが今もなお発達し続けていて、蒸気の力で動く動力が世界を支配しているという設定の世界で繰り広げられる物語がスチームパンクなのです。

https://engineer-education.com/engine-type/
つまり内燃機関はガソリンをそのまま燃焼させてピストンを動かすけれども、
蒸気式だとシリンダの外で空気や水蒸気を膨張させて
シリンダの中に送り出してピストンを回す
効率がいいのはもちろん内燃機関(Internal Combustion Engine)

スチームを作り出すには大きな動力が必要なので、自然とスチームパンクに登場するメカはやたら巨大化するわけです。

スチームパンクのキーワードは、

  • 発明品やゴーグルやスパナなどの工具

  • ネジや歯車が視覚的に目立つアナログメカ

  • ヴィクトリア英国の風俗 (コルセットやメイド服など)

こういう世界観、すぐに思い当たりますよね。

宮崎駿の「天空の城ラピュタ」や「ハウルの動く城」に「未来少年コナン」や「名探偵ホームズ」

3D化させてみたドーラ!
「天空の城ラピュタ」(1986年)より

大友克洋の「スチームボーイ」(2004年)

往年のハリウッド風の実写化
スタジオジブリ作品のように知られていないかもしれませんが、
スチームパンク世界を完璧に体現した名作アニメ
未視聴の方にはお勧めです

最近でもNHKの長寿人気番組だった「ムジカ・ピッコリーノ♪」もまた、スチームパンクを見事に体現した名作でした。

子供番組でしたが、子供よりも大人の私が夢中になって見た優れた音楽番組でした
よりスチームパンクを強調してリアルアニメ風にしてみました
下の動画のアリーナさんがヴォーカルとして歌う
スチームパンクバンド、最高です

わたしのこれまでの投稿を読んでくださった方はご存知でしょうが、わたしは19世紀ヴィクトリア時代の物語が大好き。

ルイス・キャロル(不思議の国のアリスや物語詩「スナーク狩り」)やディケンズ(「大いなる遺産」や「クリスマス・キャロル」)やコナン・ドイル(「シャーロックホームズの冒険」)やスティーブンソン(「宝島」や「ジキル氏とハイド氏」)やジュール・ヴェルヌの世界(「海底二万海里」など)です。

メイド服の薄給メイドがいて、児童労働が一般化していて、産業革命による環境汚染で病に苦しんでも、新しい科学が約束してくれる理想的な世界を夢見ている活気ある世界。

つまり、わたしが子供の頃に親しんだ、「小公女セーラ」や「ロメオの青い空」などの世界名作劇場的な世界。

世界が蒸気機関や歯車の世界が内燃機関に乗り換えられずにそのまま発展していればという仮説的な未来世界なのですが、ヴィクトリアイングランドのスタイルのポジティブな部分を受け継いでいるという設定なファンタジーがスチームパンク。

人類は、世界大戦前の上記の力の世界を発達させ続けていて、独自の文明を切り開いていたという世界観がフィクションの世界で愛されているのです。

2011年の名作映画「Hugo(邦訳:ヒューゴの不思議な発明)」はリアリズムに徹したスチームパンク的な世界観の大傑作映画でした。

舞台は1930年パリですが、19世紀終わりから20世紀初頭の時代には、こうした蒸気機関や歯車動力が支配していた世界観がそのままSFだったのです。

ゼンマイ仕掛けの機械人形はスチームパンクです。

蒸気で動く飛行船や蒸気だらけの工場で新しい発明が世界を変えてゆく新時代の黎明期。

こうした活気に満ちていた時代のいいところだけを取り出した産業革命期の未来予想図の美化がスチームパンクなのです。

だからファンタジーで楽しい。

ヴィクトリア英国風ばかりか、日本の大正時代風な戦前日本世界が舞台となったスチームパンクもあります。

日本ではメイド喫茶が商業的に成功しているほどにヴィクトリア英国風文化は愛されているので、あの世界観に機械文明を含めるとそのままスチームパンクになるので、日本人にはおなじみの世界なのかもしれませんね。

ジブリアニメを代表とするアニメがスチームパンク人気を牽引していると言えるでしょうか。

ゴシックロリータというファッションもまた、スチームパンクな世界と深い関わりがあり、亜流がたくさんあるために、一概にスチームパンクとは何かと定義しづらいのですが、産業革命ファンタジーがスチームパンクの世界観といえるのでしょうね。

スチームパンク風ゴスロリ
アニメと写実の中間の2.5次元風
黒と白の誰もがよく知るゴスロリドレスよりもこういう個性的なのがいいですね
ガジェットだらけなのもスチームパンクらしさ

19世紀世紀末世界観が独自発展しているというレトロな空想科学的な世界は楽しい。

ゴスロリと指定すると、どこかホラー風になる
写真以上にリアリスティックなAI写真

また前回紹介したアニメ「メイドインアビス」も間違いなく新しいスチームパンク作品の大傑作です。

メカと武器と発明品と未知の世界への冒険に擬似ヴィクトリア英国なメイド服と工場と薄汚れた街。

スチームパンクの全てがここに詰まっている。

スチームパンクミュージック

映像世界や小説のスチームパンク人気からスチームパンク世界に相応しい音楽もいろいろ作られています。時計の歯車の音がエコーする次の音楽は秀逸ですね。

メカニカルハートという次の曲も気に入りました。

アニメ「メイドインアビス」のBGMはオーストラリアの作曲家ケヴィン・ペンキンが手がけた最高のオーディオです。

未知の世界の雰囲気をクラシックなオーケストラの少し変わった楽器を際立たせて、アビスの不思議な雰囲気を醸し出す音楽を聴かせてくれます。

西洋音楽風でありながらも異世界の音楽を見事に体現させています。

マリンバやフルートソロに不思議な人の声の活用など、作風が独特で音楽的に非常に優れていると思います。ぜひご視聴ください。

全部聞くと二時間半になりますが、素晴らしいBGMとして聞き流してみられると素敵です。

20世紀前半の産業革命時代の終わりにリアルタイムで作曲された音楽では、モダニズムな作品を思い起こします。

「スイスの時計職人」と呼ばれたほどに機械のように精密な音楽を書いたバスク出身のフランスのモーリス・ラヴェルよりも、蒸気機関車の動きを写実的に音化したスイスのアーサー・オネゲルの「パシフィック231」がまさにスチームパンク。

第一次大戦が終結して蒸気機関が世界を滅ぼさんとしていた1923年の作曲。

クラシックらしくないユニークな音楽なので、クラシックは好まないと言われる方も是非聴いてみてください。

機械の支配する時代の到来を恐怖するような音楽ですが、あの時代のリアルだと思います。

イラストで愛されているスチームパンクな世界

ブラスの色調に支配されるとと途端に世界はスチームパンク化してしまう
ゴーグルはスチームパンクらしさを表す大事なガジェット
帽子も欠かせない
スチームパンク化したピアノ
いろいろゴテゴテしたメカニックな飾りもまたスチームパンクらしさを形作る
歯車で動くアナログ時計はスチームパンクの必需品

他にも蒸気機関車、プロペラエンジン飛行機、蒸気船、飛行船など、スチームパンクを彩る乗り物には事欠きません。

わたしは人類が宇宙に移住したりする物語設定にはどうにも違和感を感じるのですが、レトロフューチャーなSF世界観には心から共感します。

未知なる世界への憧れと未来への期待感にワクワクします。

現実の世界では産業革命は第一次世界大戦の悲惨に辿り着くのですが、そうなる前の世界、またはそういう悲劇を経験せずにそのまま蒸気文明は発達していったという仮説の世界。

世界がまだ科学の発展と知らない世界を切り開いてゆきたいという意欲に溢れていた時代。

21世紀の環境破壊の帰結である地球温暖化をまだ知らない、憧れに溢れていた希望が詰まった懐かしい世界… それが自分にとってのスチームパンク。

レトロでノスタルジアなのが癒しなのです。

今回使用した画像はすべて人工知能画像生成プログラムのStable Diffusion Automatic 1111でわたしが生成したものです。いろんなスタイルの画像を掲載してみましたが、楽しんでいただければ幸いです。


追記:たくさんのスキ、ありがとうございました。


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