マラソンなど耐久系運動で倒れる原因【DoctorTのスポーツエクササイズ医学】
こんにちは、Doctor Tです。最近は暑さだけでなく湿度も加わってきましたね。
今回は運動に関連して倒れてしまう(collapse)原因についてお話します。運動は適切に行えば健康によい一方で、準備不足などの不適切な運動は健康を害することがあるので、予防可能なことを今回ご紹介します。
心臓発作と熱中症だけが倒れる原因ではない。
耐久性スポーツとはマラソンやトライアスロンなどのことを言います。これらのスポーツで倒れてしまう原因はいくつかあります。よく知られているのが心臓発作や熱中症でしょうか。
熱中症は大切なので他の機会に詳しく話します。今回は運動に関連する起立性低血圧と低ナトリウム血症を紹介します。一般の方は病気の名前を覚えるより、予防法を知って実践するのが役に立つと思います。医療者はABCDEFGHの評価が原因の鑑別のヒントになるので押さえておくといいでしょう。
運動に関連する起立性低血圧 Exercise-associated postural hypotension(EAPH)
一番頻度の高いcollapseの原因です。多くはゴールした「後」に起きます。
症状は、頭がクラクラしたり、気が遠くなるような感じがして、支えなしでは立ったり歩いたりできなくなります。
理由は十分に血液が下半身から上半身へ戻って来なくなるため
これが起きる理由は、単に脱水なだけでなく、今まで続けていた動きを止めたことによるものです。走っている間は足の筋肉が収縮と弛緩を繰り返してポンプの役目を果たし、重力に反して足の血液を心臓へ送り返していました。ところが、急に動きを止めるとそのポンプが突然止まることになり、足を巡った血液が十分に上半身へ送り返されなくなります。そのため、血圧が低下して失神のようになってしまうのです。
基本的にバイタルサインは正常で「ゴール後に倒れた」が鍵
EAPHが原因のときは呼吸は正常、横になれば血圧や脈拍は正常。倒れてしまった瞬間は意識が低下するかもしれませんが、速やかに回復します。体温は正常範囲内。水分量(体重変化)は正常からドライ。血糖とナトリウムは正常です。
EAPHと判断したら、足を挙上して横にさせましょう。
ゴールの後は急に止まらない!
そして予防のためには、ゴールした後急に立ち止まらず、しばらく歩いてから完全に止まるようにしましょう。通常マラソン大会のゴールの後には急に止まらないよう歩くスペースが設けてあるはずです。
運動に関する低ナトリウム血症Exercise-associated hyponatremia (EAH)
症状を訴えて医療を受けた選手の23%(アイロンマントライアスロン)や38%(アジアのマラソンやウルトラマラソン)にEAHがあったと報告されています。結構多い!
これは競技中もしくは、終了後24時間以内に起こると言われています。
ナトリウム(塩分)が血液中で薄くなると浸透圧が下がり、血管の外に水分が出ていってしまいます。そのため、手の指などがむくみます。水中毒が運動時にも起こりうるということです。
意識障害(混乱したり暴れたり、反応が悪くなる)が出る
無症状なことが多いのですが、あるとすれば症状は頭痛や吐き気を訴え、混乱したりして様子がおかしくなることがあります。呼吸、血圧、体温、血糖は正常範囲。血液でNa<135mmol。
不適切に水分を摂りすぎる(>1500ml/時)ことや、運動によって腎臓の機能が変化したり、ホルモン(バソプレッシン)が適切に調整されないために尿の量が減ってしまうことが原因として考えられています。
リスクのある場合は注意しましょう。
女性、スローランナー、4時間以上の競技時間、極端に暑いもしくは寒い環境です。痛み止めであるNSAIDs(ロキソニン、イブプロフェンなど)の使用もバソプレッシンに影響があるので、リスクになるかもしれないと言われています。
喉の乾きに合わせて水分を摂る
人によって状況によって汗の出方や胃腸での水分の吸収のスピードが変わるので、レース中一定のペースで水分を取り続けるのは避けたほうがよく、のどが渇いたと感じてから飲むのが安全な方法だと言われています。耐久系スポーツのときは注意しましょう。
疑ったら・・・
ナトリウムが足りないので塩気のあるスナックやスープを飲む。水分をむやみに摂らせるのはよくありません。おしっこが出始めるまで水を飲むのは控えます。
まとめ
心臓発作や熱中症以外にも耐久系スポーツで倒れてしまうことがある。
一般の人は予防策を覚えるのがいちばん。
運動に関する起立性低血圧の予防は、競技終了後に急に立ち止まらないこと。
運動に関する低ナトリウム血症の予防は、喉の乾きに合わせて水分を摂ること。
これらの原因に限ったことではありませんが、体調が悪いときや環境が過酷なとき、例えば日本の夏の日中は、その環境自体がリスクなので、競技を見合わせるというのが最大の予防策になります。
大会に向けて練習してきたその苦労や強い思いもあると思いますが、命に関わったり、後遺症を残すこともあるので、それらを天秤にかけて、本当に参加すべきかを考えることも時には必要です。
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